「平和構築」を専門にする国際政治学者

篠田英朗(東京外国語大学教授)のブログです。篠田が自分自身で著作・論文に関する情報や、時々の意見・解説を書いています。過去のブログ記事は、転載してくださっている『アゴラ』さんが、一覧をまとめてくださっています。http://agora-web.jp/archives/author/hideakishinoda なお『BLOGOS』さんも時折は転載してくださっていますが、『BLOGOS』さんが拾い上げる一部記事のみだけです。ブログ記事が連続している場合でも『BLOGOS』では途中が掲載されていない場合などもありますので、ご注意ください。

経歴・業績 http://www.tufs.ac.jp/ts/personal/shinoda/   
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過去のブログ記事(『アゴラ』) http://agora-web.jp/archives/author/hideakishinoda

 84日に「止まらなかった陽性者拡大~ 日本モデル vs.西浦モデル2.0の正念場」という文章を書いておいた。http://agora-web.jp/archives/2047457.html 7月上旬をピークに東京の新規陽性者数の拡大ペースは鈍化をしていたが、4連休の際に跳ね上がったように見えたので、それを記録しておきたかったからだ。もちろん本当に重要なのは、その後のトレンドだ。

 新型コロナの感染発症者のほとんどは、5日以内に発症すると言われる。他方、2週間程度の間は発症の可能性があるともされる。4連休中の影響が出尽くしてくるのが、2週間を経過してしばらくしてからの810日からの週であろう。

 すでに先週から、新規陽性者数の増加に再び鈍化の傾向が見られている。週ごとの大きなトレンドを見てみよう。

 

 

新規陽性者数

7日移動平均)

増加率

(前の7日間との比較)

84日~10

335

0.99

728日~83

338

1.34

721日~27

252

1.15

714日~20

219

1.30

77日~13

168

1.69

630日~76

99

1.94

 

 これを日ごとの7日移動平均値をとったグラフで見るとこうなる。https://toyokeizai.net/sp/visual/tko/covid19/ 

 1

4連休後の週に新規陽性者の拡大がスピードの変動は、実効再生産数の推移でも見ることができる。

 2

 こうした言い方は、連日のメディアの報道では採用されていない。だがそれは単純に、メディアの「ただ目の前の視聴率の向上だけを考えたい」という徹底して無責任な煽り報道の方針のためである。「テレビに出ているのだから偉い人なのだろう」という根拠がないどころが、今や単純に事実に反する思い込みをもった視聴者層に煽り報道を売りつけるだけのビジネスモデルで、私のような言い方が採用されないだけだ。

 もう少し具体的に言うと、二つの点に留意する必要がある。

 第一に、感染拡大を、陸上競技の記録会のように報道するのが、端的に間違いである。「〇〇日ぶりに〇〇人台」といった報道の仕方は、あたかも百メートル競走の実況中継をしているかのような臨場感のあるやり方なのだろうが、間違いである。毎日の新規陽性者数は、あたかも陸上競技者がスタートラインに戻って一から始めるようなものではない。前日までの陽性者の数が違うということは、日々の新規陽性者数は、異なるスタートラインから始めているということだ。

 新規陽性者数が同じ1,000人だった二つの異なる週の場合のことを考えてみよう。仮にそれぞれの前の週の陽性者数が100人だったら、当該週は陽性者数が10倍になった急速拡大の週である。ところが前の週にすでに1,200人の陽性者が出ていたとしたら、当該週はむしろ拡大スピードが減少していることになる。新規陽性者を拡大させる人の数が違うところからスタートしているので、絶対数では拡大のスピードを見ることができない。

 第二に、それでは絶対数はどのように評価すればいいのかといえば、日本政府はこれまで一貫して「医療崩壊を防ぐ」ことを目標に掲げているので、それが危うくなる水準が、危険領域である。4月よりも数が多いとか少ないとかということは、関係がない。「日本モデル」では一貫して「重症者中心主義」というべきアプローチをとってきているが、新規陽性者の中から重症者が生まれるわけなので、医療崩壊が懸念される程度にまで重症者数が増える可能性が見えてきた新規陽性者数が、懸念すべき絶対数である。

 私はこのところ「日本モデルvs.西浦モデル2.0」という視点で文章を書いてきているが、「日本モデル」と「西浦モデル」は、重症者中心主義であるか、感染者中心主義であるかという着眼点において、鋭く対立する。http://agora-web.jp/archives/2047305.html 

 尾身茂会長をはじめとする旧専門家会議=現在の「分科会」メンバーは、7月の新規陽性者の拡大に落ち着いた対応を見せた。それは、検査数の増大に伴う確定新規陽性者数の絶対数の増加と感染拡大傾向のあぶりだしは、重症者数が医療崩壊を懸念させる水準に達するまでは深刻にとらえすぎる必要はない、と考えているためだろう。新規陽性者数の拡大は、鈍化し続ければ良好な傾向であり、深刻になる前に拡大が止まれば、それで良い指標だ。

 そこで「日本モデルvs.西浦モデル」の対決ポイントは、行動変容等を通じて感染拡大は止まる可能性を模索するか、あるいはロックダウンのような措置が導入されなければ果てしなく指数関数的拡大が続くと仮定するかの違いになってくる。

 「西浦モデル」では、現状は際限のない指数関数的拡大の真っただ中ということになる。

3

53日に西村大臣が日本の政策の説明で用いた「ハンマーとダンス」の表現を用いると、「日本モデル」の観点からは、一つのダンスの形を模索している最中である。https://twitter.com/nishy03/status/1257303798516613124 

 4

私は7月末に「正念場」が来ると書いたことがあるが、4連休の影響で微妙なせめぎあいが発生したため、8月に「正念場」がもつれこんでいるような様相になっている。

現時点で結論を出すのは早いが、「日本モデル」の観点からは、新規陽性者数は拡大が止まればそれでいい。メディアのただ「今日の視聴率が上がればそれでいい」方針の煽り報道のトーンとは異なり、「日本モデル」はまだそれほど劣勢にはなっていない。

なお私自身は、尾身会長をはじめとする「旧専門家会議」「分科会」メンバーのこれまでの貢献を高く評価し、現在も強く支持し続けている。特に押谷仁教授の役割は、大絶賛をし続けてきている。最近いささか世間での「分科会」に対する風当たりが強くなってきたことをふまえて、Twitterに「尾身先生・押谷先生を守る会を作りたいくらいだ」と書いたところ、多くの方々の賛同を得た。実際には、私はそうした運動系のことを自分自身で主導するのは苦手なので、代わりに「日本モデル」がなぜ「押谷モデル」であるのかについて、今後数回にわたって書いていくことにする。そしてそれをもって私の熱烈な押谷先生への称賛の証としたい。

現在でもポイントとなっている「日本モデル」の重症者中心主義は、2月下旬ころからはっきりと形になってきた。尾身先生・押谷先生らが構成した「専門家会議」が2月中旬に招集されたからだ。

225日に決定された新型コロナウイルス感染症対策本部の「新型コロナウイルス感染症対策の基本方針」では、次のような考え方が示されていた。https://www.kantei.go.jp/jp/singi/novel_coronavirus/th_siryou/kihonhousin.pdf 

――――――――――――――

・感染拡大防止策で、まずは流行の早期終息を目指しつつ、 患者の増加のスピードを可能な限り抑制し、流行の規模を抑える。

・重症者の発生を最小限に食い止めるべく万全を尽くす。

・社会・経済へのインパクトを最小限にとどめる。

―――――――――――――――――

 日本は当初から、感染の流行の終息の可能性を求めるものの、現実には「重症者対策を中心とした医療提供体制等の必要な体制を整え」ながら、「患者の増加のスピードを抑制すること」を目標としてきた。

 一日あたりの新規陽性者数を〇〇人以下にする、などといった思慮のない目標は、一度たりとも立てたことがない。マスコミが勝手に言っているだけの事柄である。

 結局、マスコミが新型コロナでやっているのは、自衛隊を中心とした防衛政策をとって日本を守っている政府に対して、自衛隊を違憲として廃止したうえで完全な日本の安全を達成していないから政府はダメだ、とキャンペーンして糾弾しているような無責任かつ非現実的なことである。

 前回の文章でも書いたように、この背景には、2月中旬の段階で、感染の封じ込めは事実上は不可能と厳しい判断をしたうえで、新型コロナは感染力は高いが重症化率は低い(危険なのは高齢者と基礎疾患保持者)という的確な洞察にもとづき、重症者(死者)の抑制に優先的に資源配分できる体制をとるべきだと考えた押谷教授らの英断があった。

 SARSMERSの被害経験があった諸国では、早期の中国からの入国制限などの水際対策措置が取られていた。台湾、韓国、シンガポール、ベトナムなどの超優良成績の諸国は、経験を生かして早期に動き、その後も封じ込め政策をとり続けている国々である。

 これに対して3月になってから短期間で慌てて強力なロックダウン措置をとりながら医療機関の負担を考えずに指針なき盲目的な検査などを行い続けた欧米諸国では、医療崩壊現象が起こり、膨大な数の死者が生まれてしまった。当時はそれが標準的な新型コロナの被害想定だとみなす「西浦モデル」的な理解もあったが、それから数カ月たち、世界各地の感染状況も見るならば、単純に当時の欧米諸国の致死率が異常であったことが明らかである。

 現在の欧米諸国は、もはや封じ込めは目指さず緩やかな感染速度の管理を目指す政策に転換している。結果は、致死率の大幅な改善が果たされている。

 「日本モデル」の過大評価は、3月の欧米諸国の経験とのみ比較して、日本の成績を過度に良いものとみなしすぎる態度である。逆に「日本モデル」の過小評価は、早期対応で封じ込め政策をとることが可能となったアジア諸国とのみ比較して、日本の成績を過度に悪いものとみなしすぎる態度である。

 「日本モデル」は、封じ込めが不可能になった諸国(SARS/MERSの直撃を受けなかった諸国)の中で、極めて良好な成績を保っている。なぜなら早期対応で封じ込めを狙った諸国に後れを取ったため、もはや封じ込めは不可能だと判断することになった諸国の間においては、最も早くその判断を行ったのが、日本だったからだ。

 すべては押谷教授ら真正な専門家たちの素晴らしい状況判断が2月中旬に行われたからである。

 今頃になって、国民自己負担も課して数十兆円を投入し、経営悪化した病院関係者を片っ端から検査技師に作り替え、管理費なども上手く業務委託して、全国民毎週PCR検査を行って新型コロナを撲滅する国民運動を起こそう、といったことを厚顔無恥にもテレビで主張している人たちがいる。

 罪深いことだ。

 ロックダウン解除になったばかりの時期のニューヨークを都合よく脚色して宣伝に使っているようだ。それで、もしニューヨークだけは絶対に今後も感染者の増加することはありえないという大胆な主張が外れた場合には、丸坊主にでもなってテレビに出て謝罪して「自分の学者声明は終わりました」と宣言してくれる覚悟だというのだから、すごい話である。

 私自身は、謙虚に押谷先生らの功績を認めることが本当に大事であると考えている。そして、今後も引き続き国民の英雄と呼ぶべき尾身先生・押谷先生らを強く支持していきたいと思っている。

前回に記事を書いたときに、7月末の新規陽性者数に注目したいということを書いた。正直、東京で新規感染者の増加が止まるかどうかの期待があった。しかし、残念ながら、7月最終週に逆の傾向が見られて、7月は終わった。この様子を、実効再生産数の動きで見てみよう。

 https://rt-live-japan.com/

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https://toyokeizai.net/sp/visual/tko/covid19/

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7月上旬に高い数値を示しながら、その後は緩やかに鈍化する傾向を見せていたにもかかわらず、実効再生産数1を下回るかもしれない直前の7月下旬で、反転した様子を示している。

4連休のところで反転した形になっているが、「4連休中に会食やアウトドアなどで外出した若い人の感染が多くみられる」(都の担当者)と伝える記事も見られた。https://news.yahoo.co.jp/articles/b078f1691cb57239f9facb6794a45219f3257bdb この観察が正しいとすると、魔の4連休だったと言えないこともない。が、その程度のことはいつでも起こるということだ。実効再生産数を1以下にするのは、簡単ではない、ということなのだろう。

結果的には、7月の東京の動きは「西浦モデル2.0」にそったものとなった。4月と同じ陽性者の拡大が7月に発生するという点に特化した意味での「西浦モデル2.0」は現実のものとなった。

 3

ただしもちろん、重症者数や死者数は、依然として抑え込めており、「日本モデル」の努力は、まだ続く。「日本モデル」は、最初から重症者・死者数の抑制を優先的に目指しており、そこが破綻しているわけではない。

だが7月のレベルの行動変容では陽性者数の拡大を止めることができなかったという経験は、受け止めなければいけないだろう。

検査数の大幅増加などがあり、4月の陽性者数と7月の陽性者数を絶対数で比較することは難しいし、あまり意味がないと私も思う。ただし、7月に感染拡大の傾向があったこと自体を否定するのも難しい。検査数を増大させて無症状者を数多く拾うようになったといっても、発症者が検査を受けなくなったわけではない。7月の陽性者数にも、ある程度のトレンドが反映されていると考える方が自然だろう。

 陽性者の拡大を放置し続けていれば、いつかどこかで決壊が起こる。増加を止めて、「ダンス」を踊る状態にもっていけるかどうかが、試金石なのである。7月のレベルの行動抑制では感染拡大を止めれなかったことが結果として明らかだとすれば、政策当局者に新たな手段をとることが要請されるのは仕方がないだろう。

今後も「西浦モデル2.0」の通りに進むと、「人と人との接触の削減」措置を導入せざるを得なくなる。そのため多くの方々にとって4月の「緊急事態宣言」が成功体験として思い出されるようだ。

だが、今も小池知事の午後10時以降の自粛の要請に従わないと表明している飲食店があると報じられている。新型コロナによる死亡リスクが、高齢の基礎疾患の保持者と、健康な若者では全く異なることも、すでに広く隅々にまで知られている。あらたに行う緊急事態宣言が、4月と全く同じように進むかどうかは、不明だ。強制力のない自粛に頼る緊急事態宣言は、国民の間に団結心のある危機意識がある場合には効果が高いだろう。だが、そうでなければ、いたずらに自粛警察の活動だけに勢いを与えるだけで、ただ産業間対立や世代間対立を助長するだけで終わってしまう可能性も相当にあると思う。

私としては、これまでの「日本モデル」の発展延長線上でも、まだまだやれることが沢山あるとは思っている。たとえば「三密の回避」は、広く知られるようになったが、「密閉」の回避が十分に継続的な「換気」を必要とすると解釈できている人が実はまだ少ないことが、7月のクラスター例などから明らかになった。「三密の回避」提唱の国として、残念だ。実際に起こった感染例を豊富に紹介しながら、「三密の回避」をどのように日常生活に応用していくべきか解説するような試みが、もっと情報をもっている当局から出されていいのではないか。

今の重症者の増加が低い間に、新型コロナ特別措置法を改正し、緊急事態を裏付ける憲法改正もして、本当の危機に対する備えを取っておくべきであることも当然だ。

野党は、内閣支持率の低下だけを見て気勢を上げる政党から脱皮するためには、建設的な議論を行って、法改正と憲法改正に協力すべきだ。一部報道では、自民党も新型コロナ問題を国会で扱うことに及び腰だとされる。論外だ。今のうちに、次の一手の準備を、挙党一致で行っておくべきだろう。

こう言うと、野党系マスコミ勢力は、改憲は必要ない、必要なのは全国民毎週PCR検査だ、といった夢想的なことを主張する。マスクの配布が遅い、定額給付金の振り込みが遅い、と批判し続けている方々が、なぜ全国民毎週PCR検査を、天文学的な財政負担や反対者に対する取り締まりもなく、とにかく何の混乱もなく、実施することができるなどと主張することができるのか?

憲法9条論争と同じだ。悪いのは憲法9条(を絶対平和主義の条項と解釈する憲法学通説)ではない、悪いのは現実だ、現実が憲法学通説に従えばいい、という論法と同じではないか。悪いのは全国民毎週PCR検査の提案ではない、悪いのはそれに円滑に実施しない現実だ、現実が自分たちの案に従えばいい、という論法なのである。

「中国にできた、日本にできないなら、日本は途上国だ」、といった昭和世代の叫びも、聞き飽きた。中国は、全国民を完全管理している21世紀の権威主義超大国なのだ。日本とは違う。現実を受け止めるべきだ。

ベストセラーになっている門田隆将『疫病2020』でも引用されている「日本モデル」の参謀役といっていい押谷仁教授の言葉を思い出してみよう。

――――――――――――

「日本に住む全員を一斉にPCRにかけないといけないことになる。それは到底できないので、戦略としては、クラスターを見つけて、そのクラスターの周りに存在する孤発例を見つけていく。そしてその孤発例の多さから流行規模を推計して、それによって対策の強弱を判断していく、という戦略になります。・・・

多くの感染者が軽症例、もしくは症状のない人だということを考えると、すべての感染者を見つけなくてもいいということになります。インフルエンザとかSARSといったウイルスとまったく違うのは、この多くの感染連鎖が“自然に消滅していく”というウイルスだということです。・・・

感染者が急増している状況の中で、PCR検査が増えていかないという状況にあるのは明らかに大きな問題です。このことは専門家会議でもくり返し提言をしてきて、基本的対処方針にも記載されていることです。いくつかの地域では自治体、医師会、病院などが連携して検査や患者の受け入れ体制が急速に整備されているという状況です。そのような地域では事態は好転していくと私は信じています。」(163167~168頁)

―――――――――――――――

 

「日本モデル」が重症者の抑制を優先目的にして進んで生きているのは、最初期の段階で押谷教授がそれが理論的に最高だと判断したからではない。

2月下旬に押谷教授らが「専門家会議」で招集されたときには、もう感染拡大の封じ込めそれ自体は不可能だった。だから、今のやり方を、現実の範囲内で最善の方法を目標として設定したのだ。

門田氏が言うように、2月下旬の段階ですでに、「日本は、ウイルスを可能な限り追い、それを潰していくという台湾のような戦略は到底採れない状況になっていた」(166頁)からなのである。

2月下旬の所与の現実の中で、適切に最善の「日本モデル」を設定し、努力を積み重ねてきた押谷教授らに対して、「どうやったら感染者をゼロにできるのか道筋を示せ、俺の全国民毎週PCR案は、非現実的で夢想的だが、机上の空論としては感染者をゼロにできる案だ」、などと威張ってみせることには、何の意味もない。

最近、「旧専門家会議」「分科会」メンバーに対する風当たりも強まってきたようだ。しかし、私自身は、7月の現実を受け止めたうえで、引き続き頑張っていく押谷教授ら「旧専門家会議」「分科会」メンバーを、引き続き支持していきたい。

 7月に入ってからの新規陽性者数の増大の中で、4月頃には見られなかった幾つかの注目点が明らかになってきた。一つは、新規陽性者数の増大と死者(重症者)数との関係が、明らかに4月と7月で異なっていることである。

 これについてはウイルスの弱毒化や、抗体保持者の増加などの大胆な仮説が見られる。いずれもまだ仮説の域を出ておらず、私にはよくわからない。確かなのは、大幅な検査数の増大に伴って、新規陽性者数の増加が見られていることだ。

さらに重要なのは、高齢者と慢性疾患保持者の死亡率が非常に高いことが広く知られているため、これらの脆弱者層が保護される政策的配慮と努力がなされており、新規陽性者数における高齢者の割合は、非常に低くなっていることだ。

 私はこうした政策的努力の価値を強調したい立場だ。死者(重症者)数は、緩慢には増大はしてきている。少なくともウイルスが弱毒化して重症化しなくなったとまでは言えない。むしろ政策的・個人的努力の結果として、重症化しやすい層の人々の感染を抑制していることによって、死者(重症者)数が抑制されていると考えていいのではないか。

 私は「日本モデル」に関心を持ち、旧「専門家会議」・現「分科会」の政策姿勢を高く評価してきている。上記の新型コロナの特性をよく見据えたうえで、社会経済活動を不必要に停止させることなく、医療崩壊を防ぐということを指針にして、合理的な政策助言をしていると考えている。その「日本モデル」の視点に立つと、4月の時点の陽性者数より多いかどうかは、問題ではない。医療崩壊を起こす前に重症者の増加が止まるかが、ポイントである。

 こうした観点から、私は、7月に入って、「『日本モデル』vs.『西浦モデル2.0』の正念場」という題名の文章を書いてきている。最近の新規陽性者増加の中で、私が書いていることの意味が、よりはっきり見えてきたのではないかと思う。

 つまり、「日本モデル」と「西浦モデル」は、大きく異なっていることがはっきりしてきたはずだ。誤解していた人があまりに多かった。「西浦モデル」批判者の方々の中にも、「西浦モデル」擁護者の中にも、「西浦モデル」=旧「専門家会議」と取り違えている方がいた。おかげで数多くの不要な錯綜した議論が噴出した。

4月から5月にかけて、本来は専門家会議のメンバーではない西浦教授が、専門家会議の記者会見で断定的な発言を乱発した。マスコミもそれを見て西浦教授をあたかも専門家会議を影で代表している人物であるかのように扱い、もてはやした。だが実際には、西浦教授は、専門家会議のメンバーですらなかったし、日本政府の政策を代弁してもいなかった。

 本当の「日本モデル」のキーパーソンである押谷仁・東北大学教授が、西浦教授の「42万人死ぬ」に批判的であったことも、すでに証言が出ている。「42万人死ぬ」は、西浦教授の「日本モデル」に対する「クーデター」だった。https://news.yahoo.co.jp/articles/dd45db0673692764bfbd4c20d01944f5b13d14d3 

 現在はどうなっているか。尾身茂会長や押谷教授ら旧「専門家会議」メンバーが構成する「分科会」は、医療崩壊を起こすかどうか、が政策的分水嶺だという立場を崩さず、新規陽性者数の増大に際しても、冷静さを保っている。

 これに対して、「西浦モデル」は、本シリーズで取り上げているように、新規陽性者の増大は指数関数的拡大につながり、6割未満の「人と人の接触の削減」では状況は大幅には変わらないと予言している。https://youtu.be/aI8zvZAdSTM 

 両者は、鋭く対立しているのである。

 なぜそうなのか。新規陽性者を見て政策を作るのか、死者(重症者)を見て政策を作るのか、の鋭い対立を見てみよう。

「西浦モデル」の原型である「SIRモデル」は、「感受性保持者(Susceptible)」、「感染者(Infected)」、「免疫保持者(Recovered))の三つの概念を中心に構成される。「SIRモデル」が前提としている世界観は、致死率は常に一定であるということ、そして「人と人との接触」を大幅に減らすか、「集団免疫」が成立するかのいずれかがないと、感染拡大は止まらない、ということだ。

この「SIRモデル」を全面的に受け入れると「人と人との接触の8割削減」がなされないと「42万人死ぬ」ことになる。この考え方の背景にあるのは、「感染者数中心主義」とでも呼ぶべき視点である。徹底して、感染者数に着目する。死者数は、感染者数から、一定の割合で算出されるものでしかない。新型コロナに関して感染者総数に着目する視点が強調されてきているのは、「SIRモデル」に親しんだ科学者を多数擁する欧米諸国の主要メディアが、この「感染者数中心主義」の視点で報道を続けて、日本のメディアもその影響を受けているからだろう。

これに対して、感染者数ではなく、死者(重症者)数に着目する政策視点は、年齢層別の致死率の違いに注目する視点だとも言える。つまりそれは、高齢者層と基礎疾患保持者を新型コロナに脆弱な層として区分けしていく政策視点である。年齢層別に区分けされた政策は、一律的な「人と人との8割削減」とは異なるが、成功すれば、新規陽性者が増えても、死者(重症者)はそれほど増えない、という現象が起こってくることを期待する。

死者(重症者)数の推移を最も重要な指標とし、「医療崩壊を防ぐ」ことを指針にしながら、社会経済活動は自発的努力の範囲で律するアプローチが、日本政府が採用してきているものだ。それを旧「専門家会議」や現「分科会」が支えている。

何に着目するか、という世界観においても、「日本モデル」と「西浦モデル」は、鋭く対立しているのである。

したがって、ここまで書いてきたことからの必然的な帰結だが、追求する政策の内容が、「日本モデル」と「西浦モデル」では、大きく異なる。「西浦モデル」では、集団免疫が成立するまでは、ただひたすら「人と人との接触削減」を行い続けるしか、とりうる政策がない。

実は、西浦教授は、4月半ばにメディアを呼んで「42万人死亡」を発表した際、一応は年齢別の重症化率や致死率の違いを加味したというが、実際には2月の武漢の断片的なデータを採用していたと告白している。4月半ばでまだ、日本だけでなく世界各地の実態と大きく異なる概算方法を使用していたのである。https://news.yahoo.co.jp/articles/6101bc9482875a0c30106a914320ed003875b73f?page=1 また、西浦教授は、4月半ばでまだ、基礎疾患保持者の重症化率の高さの要素などは、全く考慮していなかったようである。

これに対して「日本モデル」であると、最も脆弱な層の隔離を行った後は、社会経済活動を続行する層の自己努力を通じた最大限の感染抑制が求められる。医療崩壊を防ぎながら死者数を抑制することだけが目的であれば、それで十分に合理的だからだ。そのうえで、社会経済を続行する層にも、「三密の回避」などの可能な限りの配慮を求めることによって、大規模感染拡大は抑制しようとする。

実際に追求される政策において、「日本モデル」と「西浦モデル」は、やはり鋭く対立するのである。

5月半ば以降に修正された「西浦モデル2.0」では、7月に、4月の感染拡大ペースが再現され、緊急事態宣言がないと、感染者数は指数関数的に拡大していくしかない。

毎日、毎日、「〇日連続で東京の感染者が〇〇〇人以上!」といった煽り報道を見ていると、7月の感染拡大は4月を上回る「指数関数的拡大」ペースで進んでいるように感じている人も多いかもしれない。

だが報道されている東京都の新規陽性者数を見るだけでも、増加率の鈍化を確認することができる。7日移動平均で週単位の大きなトレンドを見てみよう。

 

 

新規陽性者数(7日移動平均)

増加率(7日前との比較)

627

44.0

1.22

74

85.8

1.93

711

152.4

1.77

718

214.5

1.40

725

250.2

1.16

 

このように増加率を見れば、やはり7月上旬をピークにして、鈍化が続いているように見える。

また、国立感染症研究所が示している「発症日別」の届け出数の推移をみると、7月の発症者拡大は、4月のレベルに到達していない。しかも7月上旬をピークにして減少傾向に入った可能性すらある。https://www.niid.go.jp/niid/ja/diseases/ka/corona-virus/2019-ncov.html 4月の時点では、発症者を中心にPCR検査を施していたことを想起すると、この「発症日別」のデータは、重要である。 

また、ボランティアの方々が行っていただいている実効再生産数の推定値の推移を見ても、東京では7月上旬をピークにして低下の傾向が見られる。そもそも7月の実効再生産数は、3月下旬の水準に達していない。https://rt-live-japan.com/ 

 「SIRモデル」を原型とした「西浦モデル2.0」の予言では、7月下旬には本格的に指数関数的拡大が起こっていることが顕著になっていなければならない。ところが、上述に示したデータは、全てそれとは違う状況を示している。

私は、4月にも「西浦モデル」を批判する文章を書いたことがあるが、それは410日の段階で私が「増加率は鈍化している」と書いていたのに、専門家の西浦教授がマスコミを集めて415日に「42万人死ぬ」をやったからだ。http://agora-web.jp/archives/2045379.html 

私は、西浦教授を「間違えた」と批判したことはない。ただ、大衆操作を図るために、意図的に嘘をマスコミに流した、と書いたことがあるだけだ。

ただし4月の時点では、「西浦モデル」が現実でどのような検証を受けたのかは、結局は曖昧にされた。そこであらためて「日本モデル」と「西浦モデル2.0」が対決をしているのが、7月の状況だろう。

「日本モデル」の試金石は、厳しいロックダウンを避けながら、「三密の回避」などの社会経済政策を続けながら導入できる政策によって、陽性者数を一定の範囲内に押さえ込んでおけるか、である。永遠に陽性者数が増え続ければ、もちろん、やがて持ちこたえられなくなる。重要なのは、果たして新規陽性者数の増大は医療崩壊を起こす前で止まるか、である。

逆に言えば、際限のない拡大を抑制できれば、「ハンマーとダンス」の「ダンス」を演出する、かつて西村大臣が説明したことのある日本の政策そのものとなる。

東京では7月になって100人以上の感染者が出て、感染予防努力の徹底が一層浸透した可能性が高い。その効果が出るとしたら、7月中旬以降である。陽性者数で見えてくるのは7月末以降だろう。いずれにせよ、指数関数的拡大を防ぎ、「ダンスの踊り方」の範囲にもってこれれば、「日本モデル」の構図である。

ただし私は予言屋ではない。国際政治学者の私が予言などするはずもない。しかし現状は見る。現状を見てわかることと、どなたかの予言が異なっていれば、やむをえずそれは指摘せざるを得ない。それだけだ。

少なくとも、現状では、指数関数的拡大が起こっているとは言えない。それがとりあえずの観察である。

 

                         *

 

これまで何度か、3~4月の欧州と米州の致死率が異常であって世界平均を示していなかったこと、世界全体で感染者に対する死者数の割合を示す致死率が下がる傾向にあることを示すために、データを見せてきた。付録として、あらためて下記に示す。

時間的流れで見ていただきたいのは、致死率が世界全体で低下していることだ。これについては弱毒化したのではないかといった仮説があるようだが、冒頭で触れたように、その妥当性は私にはわからない。ただ、私は、世界各国で致死率を下げる努力が払われていることが大きく影響していると思っている。つまり「感染者数中心主義」から、よりいっそう日本モデル的な「死者(重症者)数中心主義」へと政策的視点がシフトしているのが世界的な潮流となっていることが重要になっているのではないかと思っている。

https://www.worldometers.info/coronavirus/worldwide-graphs/ 

 

世界全体の一日あたり陽性者数の推移

 

 

 

世界全体の一日あたり死者数の推移

 

725日)

地域

準地域

感染者数(/mil

死者数(/mil

致死率(%)

アフリカ

 

610.91

12.87

2.11

 

北アフリカ

614.90

27.55

4.48

 

東アフリカ

153.45

2.48

1.62

 

中部アフリカ

255.84

5.15

2.01

 

南部アフリカ

6,326.84

94.67

1.50

 

西アフリカ

309.77

4.99

1.61

米州

 

8,447.47

330.76

3.92

 

北米

11,836.23

426.92

3.61

 

カリビアン

1,763.35

33.86

1.92

 

中米

3,055.04

262.96

8.61

 

南米

8,423.43

304.63

3.62

アジア

 

819.97

19.04

2.32

 

中央アジア

2,039.98

29.32

1.44

 

東アジア

78.07

3.60

4.61

 

東南アジア

357.53

10.22

2.86

 

南アジア

1,135.25

29.45

2.59

 

西アジア

3,678.39

54.87

1.49

ヨーロッパ

 

3,517.17

256.10

7.28

 

東欧

3,679.29

72.33

1.97

 

北欧

3,057.60

378.64

12.38

 

南欧

4,458.55

441.67

9.91

 

西欧

2,882.08

296.54

10.29

オセアニア

 

382.74

4.09

1.07

 

 (713日)

地域

準地域

感染者数(/mil

死者数(/mil

致死率(%)

アフリカ

 

49.29

9.98

2.22

 

北アフリカ

528.92

23.84

4.51

 

東アフリカ

105.79

1.66

1.57

 

中部アフリカ

227.06

4.80

2.12

 

南部アフリカ

4,137.98

60.83

1.47

 

西アフリカ

258.19

4.39

1.70

米州

 

6,764.70

285.78

4.22

 

北米

9,550.96

397.51

4.16

 

カリビアン

1,380.66

30.01

2.17

 

中米

2,357.63

213.31

9.05

 

南米

6,723.29

244.40

3.64

アジア

 

647.46

15.31

2.36

 

中央アジア

1,332.47

9.36

0.70

 

東アジア

73.13

3.41

4.66

 

東南アジア

289.22

8.19

2.83

 

南アジア

847.86

23.26

2.74

 

西アジア

3,209.06

47.29

1.47

ヨーロッパ

 

3,284.84

250.44

7.62

 

東欧

3,310.19

63.70

1.92

 

北欧

2,964.91

371.34

12.52

 

南欧

4,212.91

438.02

10.40

 

西欧

2,761.78

294.99

10.68

オセアニア

 

284.83

3.18

1.12

  

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