「平和構築」を専門にする国際政治学者

篠田英朗(東京外国語大学教授)のブログです。篠田が自分自身で著作・論文に関する情報や、時々の意見・解説を書いています。過去のブログ記事は、転載してくださっている『アゴラ』さんが、一覧をまとめてくださっています。http://agora-web.jp/archives/author/hideakishinoda なお『BLOGOS』さんも時折は転載してくださっていますが、『BLOGOS』さんが拾い上げる一部記事のみだけです。ブログ記事が連続している場合でも『BLOGOS』では途中が掲載されていない場合などもありますので、ご注意ください。

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 日韓関係の緊張化をめぐって日本を批判する記事を繰り返し掲載している『ハーバービジネスオンライン』で、菅野完氏が、外務省が「韓国国内に滞在する邦人に対し、『反日集会が行われるため、近づかないように』との「危険情報」を出したことを批判しているのを見た。

< https://hbol.jp/187641>(ちなみに『ハーバービジネスオンライン』は、ハーバード大学とは何も関係がなく、フジサンケイグループ傘下の扶桑社が2014年から運営していて日韓関係で日本政府批判の記事を多く出している媒体である。)
 
実際に外務省が出したのは、デモがあるので気を付けるように、という「注意喚起」の「スポット情報」だけである。

https://www.anzen.mofa.go.jp/info/pcspotinfo_2019C025.html>  観光客向けの情報だったと言ってもよいものだろう。

 菅野氏は、文在寅(ムンジェイン)大統領のスピーチのほうは、極めて親日的だった、と評価する。が、全く反対の評価もある。https://headlines.yahoo.co.jp/article?a=20190308-00557906-shincho-kr&p=1

 どういうことなのか。
 国際政治の動向を見るうえで極めて興味深いのは、文政権が、「31」で北朝鮮との歴史も修正しようとしているかのように見えることだ。朝鮮半島における共産主義者の登場は、日本帝国主義が朝鮮人を分断統治するために作り上げたものだった、という歴史観は、反共・共産政権で分断された朝鮮半島の歴史を、大きく読み替えるような含意を持つ。韓国も北朝鮮も、100年前の「31」という共通の祖先を持つのであれば、分断のほうこそが仮の姿だということになる。

文大統領の「親日清算」運動は、半島統一あるいは南北連携への道筋だと認識されているがゆえに、続いていくのだろう。

 ただし、文大統領は、実際には北朝鮮の金正恩氏の関心を獲得することもできていない。韓国も北朝鮮も「31」から発した兄弟だ、ということになったら、これまでの北朝鮮のイデオロギー言説はどうなってしまうのか。政権存続の危機だろう。北朝鮮にそこまでのソフトランディングを期待するのは、非現実的なのではないか。

もっとも、文大統領の政策が、結果的に、北朝鮮の体制を動揺させる効果を持った、ということも、絶対にないわけでもないかもしれない。

いずれにしても、日韓関係は、国際政治の構造の中で動いている。日本政府の視野が狭いから日韓関係が悪化している、といった短絡的な見方は近視眼的だ。


 最近、国会審議の劣化が著しいということはないだろうか。ほとんどの国民は、「国会なんて昔からそんなものなのでは?誰も期待していませんよ」といった雰囲気なのではないかと思うが、それにしてもやはり劣化していないだろうか。
 遅刻を擁護するつもりはなく、大臣の資質を擁護するつもりもないが、3分遅刻すると5時間の審議拒否というのは、いかにも低レベルである。
 横畠裕介内閣法制局長官が野党質問を「批判」したとされる問題でも、実際には横畑長官が「このような場で声を荒らげて発言」と、やや皮肉めいた発言をしたとされる、それだけのことである。皮肉には皮肉で応酬する、といった洗練されたやり取りくらいはあってもいいと思うが、「どっちが偉いか分かってんのか、貴様」、といわんばかりに官僚イジメをする国家議員の行動から、国民が何か利益を得られるとは思えない。
 これによって安倍政権の驕りが見えた、とか大げさな結論を導き出そうとするのも、いただけない。挑発して相手の失点を狙う、というのは、ほとんど炎上ビジネスのようなものなのではないか。
 特段、中央官僚の味方をしたいと思っているわけでもないが、特段、国会議員は常に官僚に威張れる、ということを強調したい気持ちもしない。
 
国会議員も公僕であり、公益に奉仕する、ということが最高の行動原理である、ということについて、もう少し社会全体で真面目に考え直してみるべきなのではないだろうか。
 
横畑議員の失言を引き出した小西洋之参議院議員については、私自身が意味不明な罵倒をされたことがあるので、やや思い入れを持たないわけではない。http://agora-web.jp/archives/2030493.html 小西議員といえば、「幹部自衛官 暴言事件」などもあり、国会議員による官僚に対するコントロールには、強い信念をお持ちのようだ。https://blogos.com/article/295740/ だがそうした政策的課題は、「声を荒げて発言」と言われたくらいで大問題だとみなすといったような、そういった小さな話なのか。http://agora-web.jp/archives/2030677.html 
 集団的自衛権及び安保法制は違憲だという信念を持つ小西議員にとって、安保法制成立に尽力した横畠内閣法制局長官は、あらゆる機会を通じて攻撃したい対象であると想定される。だがもしそれが伏線だとすれば、今回の事件が持つ意味は、非常に深刻である。

 1月に米朝会談が2月末に開催されることが決まった際、「31独立運動100周年に備えよ」という題名のブログを書いた。http://agora-web.jp/archives/2036796.html 大人の対応を心がけながら、韓国発の「物語」の拡散に警戒せよ、という内容だったが、事なきを得て、31が終わったのは、良かった。
 直前の米朝会談が物別れに終わったことが大きい。米朝会談前の文大統領による「親日清算」発言はあったが、31当日の文大統領の発言は、穏便なものにとどまった。反日を基調にして、朝鮮半島の未来を語るという目論見は、米朝会談が不調に終わったところで、軌道修正を強いられていると見てよいだろう。安倍首相陰謀論まで出ているそうだが、https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20190303-00000005-cnippou-kr 日本としては、淡々と朝鮮半島の非核化を願う姿勢を強調すればよい。
 
昨年6月の米朝会談で、「CVID(完全かつ検証可能で不可逆的な非核化)」と「体制保証」を「取引(Deal)」するという方向性が示された際、中身がないという酷評が多かったように思う。私の論調程度でもhttps://gendai.ismedia.jp/articles/-/56108 、トランプに好意的なものに見えるくらいだった。米韓合同軍事演習の中止という措置を見て、米国が譲歩し過ぎではないか、とする論者もいた。そもそもアメリカの大統領が北朝鮮の最高指導者と直接会談すること自体の妥当性を問う手続き論的な意見もあった。
 
トランプ流で「取引」交渉が進んでいることは、間違いない。非伝統的なやり方だろう。しかし、制裁解除せずに、北朝鮮の核実験やミサイル実験を止めているのだから、交渉がアメリカ不利に進んでいる、などと言うことはできない。危機の高まりを抑えながら、交渉には臨むという姿勢は、日本にとっても、利益がある。
 
これまでの安倍外交には安定感がある。国際政治学者の間でも、おおむね好意的な見方が多いと思う。ただし、最近の北方領土交渉は、空回りしている。大局的な視野からの計算の甘さがあった、と指摘せざるをえない事態になっている。3期目の安倍外交に新しい案件での得点を狙う焦りがそこにあるとしたら、心配だ。
 「
戦後日本外交の総決算」http://agora-web.jp/archives/2036498.html は焦って個別事案に精力を注ぐだけでは、達成されない。北朝鮮問題も同じだ。もちろん拉致問題の解決は至上命題だが、北朝鮮への譲歩は禁物だ。「体制保証」それ自体がまだ「取引」中である。大局的な視点から流れを踏まえて見通しを立てることを、忘れないでいただきたい。

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