「平和構築」を専門にする国際政治学者

篠田英朗(東京外国語大学教授)のブログです。篠田が自分自身で著作・論文に関する情報や、時々の意見・解説を書いています。過去のブログ記事は、転載してくださっている『アゴラ』さんが、一覧をまとめてくださっています。http://agora-web.jp/archives/author/hideakishinoda なお『BLOGOS』さんも時折は転載してくださっていますが、『BLOGOS』さんが拾い上げる一部記事のみだけです。ブログ記事が連続している場合でも『BLOGOS』では途中が掲載されていない場合などもありますので、ご注意ください。

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 新しい元号の話題が華やかだ。私には出典のことなどは全くわからない。ただ、国際政治学者として海外でどう報じられたかには関心がある。どうやら報道が定まっていないようだ。https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20190402-00000554-san-n_ame
 「和」が「平和」の含意のある「調和」であることは自明のようだ。解釈論が生まれるのは「令」である。 安倍首相は、「令和」に、「一人ひとりの日本人が明日への希望と共に、それぞれの花を大きく咲かせることができる。そうした日本でありたい」という願いが込められていると説明した。それはそれでいい。世論調査でも好意的な評価が多いようだ。 だが、「令」が何なのかは、はっきりしないところはある。自民党の石破茂元幹事長がその点に指摘した、と広く報道されている。https://www.sankei.com/politics/news/190401/plt1904010037-n1.html 「令」に命令の意味がある、と批判的な受け止め方では、しばしば指摘されているようだ。
 外務省としては、「令和」は「美しい調和」だと説明しているということなので、「令」は「美しい」という意味らしい。ただ、この「令」の美しさは秩序だった調和だ、ということになるのだろう。
 BBCは「令和は、Order and Harmony」と報じたという。https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20190401-00000003-jct-soci この場合の「order」は、「命令」というよりも、「秩序」を含意していると言うべきだろう。たとえば、議場が騒然とした際に英国議会の下院議長が「order」と叫び続けるのは、静かにしろと「命令」しているというよりも、「秩序」を回復するように議員たちに求めているからである。http://www.news-digest.co.uk/news/news/tabloid/18507-2019-01-18.html
 「Order」は、国際政治においても重要な概念だ。「英国学派(English School)」の総帥というべき存在の国際政治学者ヘドリー・ブルの主著『アナーキカル・ソサイエティ』には、「世界政治における『秩序(order)』の研究」という副題が付されている。私も博士課程の学生としてLSE(London School of Economics and Political Science)に在籍していた頃、学部学生向けの(教授講義補助)ゼミを運営するため、ブルの本を繰り返し熟読したことがある。この場合の「order」は、具体的な為政者による命令というよりも、それらを成り立たせる根本的な秩序のことだ。
 日本は、武力による平和を求めない。つまり、「法の支配」にもとづく「秩序」だ。そのような意味での「美しい調和」を求めている。
 「令」に含まれているのは、否定的な意味での「命令」というよりも、「律令」の「令」としての「法」、国際社会にも通じる「法の支配」に通ずる「Rule」、つまり法の支配を基盤にした「秩序」なのではないか。少なくとも国際的には、そのような姿勢で、「美しい調和」を求める「秩序と平和」を説明していってほしい。

 日本の平成31年度予算が成立した。一般会計総額が、初めて100兆円を超えたというニュースが躍る。3割が新規国債発行によって賄われており、財政悪化は進行し続ける。
 増税の可否を含めた財政健全化の方策については、様々な議論がある。支出を減らすよりも、経済成長を図って税収増を期待するほうが望ましいということは、当然である。 ただし、財政赤字に対する危機感がマヒすることには、計り知れないリスクがあるはずだ。借金を恐れすぎてはいけない場面もあるのだろうが、借金を憂いていけないということになっていいはずがない。
 安倍政権について、外交では安定感があると評価しても、内政面で低く評価する方が多いように感じているが、私も同じように思っている。私は国際政治学者なので外交問題を論じることが多いが、あえて視野を広げて言えば、安倍政権の経済政策に結果が出ているという印象は受けていない。
 アメリカのトランプ大統領が貿易赤字の改善に躍起になっているニュースを多く見るが、トランプ政権下で財政収支・経常収支の改善はみられていないのではないか。この点では、1990年代のクリントン政権、2010年代のオバマ政権のほうが、圧倒的に成績が良い。1980年代のレーガン大統領以降、共和党政権は、イデオロギー色が強すぎて、結果重視の実務的な政策がとれていない印象を受ける。外交面での評価はともかくとして、財政問題のような内政面の経済政策で、結果を出せていないのではないか。
 最近、読売新聞の読書委員として、デビッド・アトキンソン氏の『日本人の勝算』の書評を執筆した。https://www.yomiuri.co.jp/culture/book/review/20190323-OYT8T50219/ 徹頭徹尾、合理性のある議論で、好感を得たのだが、この種の議論が、まだ日本には不足しているように思う。特に不足しているのは、永田町だ。
 全く別の文脈で、学生運動や反戦運動に奔走した青春時代を送りながら、1980年代を「ライブ・エイド」的な価値観の側で過ごし、1990年代に結果を出す指導者になったトニー・ブレアやビル・クリントンのような政治家に対する、私自身の関心についてふれたことがある。http://agora-web.jp/archives/2037548.html 日本には、この種の政治家が不足している。
 2017年の衆議院選挙に際して立憲民主党が設立された後、「立憲民主党の未来は実は改憲にある」http://agora-web.jp/archives/2029087.html というブログ記事を書いたことがある。リベラル派の牙城というイメージを得た立憲民主党だからこそ、憲法問題で頭が固いところを強調して高齢者の票の維持に専心してはいけない、むしろ改憲問題で現実路線を示して早めの処理を間接的に促進してしまい、内政経済面の政策論争などで有権者にアピールしていくことのほうが、長期的な党勢の拡大に役立つはずだ、と論じた。
 言うまでもなく、実際の立憲民主党は、私の期待の180度反対の方向に進み続けた。結果として、日本の有権者には、非常に狭い選択肢しか与えられていない。自民党の責任も大きいが、立憲民主党などの野党の責任も大きいと思う。

 日韓関係の緊張化をめぐって日本を批判する記事を繰り返し掲載している『ハーバービジネスオンライン』で、菅野完氏が、外務省が「韓国国内に滞在する邦人に対し、『反日集会が行われるため、近づかないように』との「危険情報」を出したことを批判しているのを見た。

< https://hbol.jp/187641>(ちなみに『ハーバービジネスオンライン』は、ハーバード大学とは何も関係がなく、フジサンケイグループ傘下の扶桑社が2014年から運営していて日韓関係で日本政府批判の記事を多く出している媒体である。)
 
実際に外務省が出したのは、デモがあるので気を付けるように、という「注意喚起」の「スポット情報」だけである。

https://www.anzen.mofa.go.jp/info/pcspotinfo_2019C025.html>  観光客向けの情報だったと言ってもよいものだろう。

 菅野氏は、文在寅(ムンジェイン)大統領のスピーチのほうは、極めて親日的だった、と評価する。が、全く反対の評価もある。https://headlines.yahoo.co.jp/article?a=20190308-00557906-shincho-kr&p=1

 どういうことなのか。
 国際政治の動向を見るうえで極めて興味深いのは、文政権が、「31」で北朝鮮との歴史も修正しようとしているかのように見えることだ。朝鮮半島における共産主義者の登場は、日本帝国主義が朝鮮人を分断統治するために作り上げたものだった、という歴史観は、反共・共産政権で分断された朝鮮半島の歴史を、大きく読み替えるような含意を持つ。韓国も北朝鮮も、100年前の「31」という共通の祖先を持つのであれば、分断のほうこそが仮の姿だということになる。

文大統領の「親日清算」運動は、半島統一あるいは南北連携への道筋だと認識されているがゆえに、続いていくのだろう。

 ただし、文大統領は、実際には北朝鮮の金正恩氏の関心を獲得することもできていない。韓国も北朝鮮も「31」から発した兄弟だ、ということになったら、これまでの北朝鮮のイデオロギー言説はどうなってしまうのか。政権存続の危機だろう。北朝鮮にそこまでのソフトランディングを期待するのは、非現実的なのではないか。

もっとも、文大統領の政策が、結果的に、北朝鮮の体制を動揺させる効果を持った、ということも、絶対にないわけでもないかもしれない。

いずれにしても、日韓関係は、国際政治の構造の中で動いている。日本政府の視野が狭いから日韓関係が悪化している、といった短絡的な見方は近視眼的だ。


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