「平和構築」を専門にする国際政治学者

篠田英朗(東京外国語大学教授)のブログです。篠田が自分自身で著作・論文に関する情報や、時々の意見・解説を書いています。過去のブログ記事は、転載してくださっている『アゴラ』さんが、一覧をまとめてくださっています。http://agora-web.jp/archives/author/hideakishinoda なお『BLOGOS』さんも時折は転載してくださっていますが、『BLOGOS』さんが拾い上げる一部記事のみだけです。ブログ記事が連続している場合でも『BLOGOS』では途中が掲載されていない場合などもありますので、ご注意ください。

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 前回の記事で、政府各省庁がコロナウィルス対策に当事者意識を持つべきだ、ということを書いた。http://agora-web.jp/archives/2044559.html 外交方面から言うと、いよいよ佳境に入ってきた、と感じる。
 アジア各国では日本人の入国制限措置が広がっている。アメリカが近く新たな入国制限措置をとると言われている。そこに日本が入るのかどうか、あるいは日本全国が入るのかどうか、トランプ大統領の判断は、日本外交にとって大きなインパクトを持ってくるだろう。
 アジアをこえた広がりを持ち、アメリカでも死者が出始めている現状で、各国が厳しい措置を取り始めてくること自体は、必至だ。そこで日本がどう扱われるか、は、オリンピックのみならず、日本経済全体に対して、深刻な意味を持ってくる。
 現在の日本での感染者数・死者数の広がりは、世界的な水準から見て、微妙だ。ダイヤモンド・プリンセス号での感染者数をカウントするかどうかについて、麻生大臣の愚痴が報道されているが、https://www.zakzak.co.jp/soc/news/200229/pol2002290002-n1.html そんなことをしている暇があったら、正規ルートでの情報発信にもっと力を入れるべきだ。
 WHOテドロス事務局長の発言をめぐる一連の事態は、現実分析と評価が難しい中で国際政治がうごめいていることを示している。 https://www.yomiuri.co.jp/world/20200304-OYT1T50259/?fbclid=IwAR2nuOMAaFT9E3N1Pq_abhYhwb7TxPVLNC1dhEVNS2y_ENadrkrhNj2IOMs  
 日本が不当な情報操作をしているという印象を与えることは、避けなければならない。かえって悪影響が出る。しかし、印象論だけで、過度に日本人に対する制限が世界に広がる傾向があるとしたら、それに対しては手を打たなければならない。  
 もちろん、実際に、日本政府は次々と先手先手の政策的措置をとっている、民間でも対応措置が活発だ、という姿勢を示すのは、実は長期的な経済活動の安定を図るためには、重要であった。今でもまだ重要だ。新たな立法措置は、とにかく早く行うべきだ。超党派で立法で切れば、素晴らしい。学校休校措置は、イタリア政府が追随した。どうせやるなら先にやった政府のほうが賢かった、と世界の人々は自然に思う。交通機関に対する措置も、ニューヨーク市がやっていることに追随するくらいのことはできないのか。https://www.youtube.com/watch?v=CyJPfpVrQTM&fbclid=IwAR0FbOhgD-7CP5GpYSKpX8kVxrc1xi0AEqCDl4B4SrcosqOC2aHwOQ_Kfow 航空機乗船前にも熱を測るなどの各国との人の円滑な往来を確保するための措置はありえないのか。
 絶対に見たくないのは、閣僚やオリンピック委員会など影響力のある層の人々の失言だ。何があっても、自国民を守るための措置をとっている各国政府の誠意を疑うような発言は、絶対にしないように、気を付けてほしい。https://s.japanese.joins.com/JArticle/263297 

  外務省委託事業の実施責任者として主に研修運営に従事した後 https://peacebuilderscenter.jp/ 、東京に戻ってきた。すると、コロナウィルスの意識が全く違う世界が、そこにあった。電車に乗るのも、大げさに言えば、命がけ、という世界だ。

 それでも現時点の日本国内の感染者数が200人程度にとどまっているのは、ほとんどの人が外出時にはマスクを着用しているといった国民性のゆえではないだろうか。マスクでどれだけ感染が防げるかわからない、といった言説も多々見られるが、やはり(潜在的)感染者がマスクを着用しているかどうかは、大きな違いであるように感じる。人々は自分を守るつもりでマスクを着用しているのだろうが、いずれにせよマスク着用率が高いことは、感染防止に意味があるように思う。

 しかし、だからこそ逆に、私は、電車に乗ると、マスクを着用していない人の存在が気になってしまう。マスクを着用しない人物が、咳をした後、口を覆ったその手で吊革をつかむ場面を見たりなどしたら、うわ!! これはもう!! と背筋が寒くなる。

 多くの識者が、感染症対策は、戦争と同じだ、と言っている。私もそう思っている。人類の歴史が、そのように語っている。

 だから、戦場の比喩を使おう。軍事の世界では「兵力集中投下の原則」というものがある。相手の弱点に向けて、兵力を集中的に投下することが、戦場において最大限の効果を図るために最も効果的だ、という考え方である。

 次々とイベントが中止され、(地域差が無視されて!)小中学校も休校が要請されている現在、日本社会で最も脆弱な弱点となっているのがどこであるかは、はっきりしている。医療援助のニーズのために閉鎖できない病院と、経済活動持続のために閉鎖できない大量輸送交通機関だ。

 コロナウィルスは、ひとたび脆弱な空間を発見すれば、あたかもそれが相手の防御線を切り崩すための決壊ポイントであるかのようにみなし、襲いかかってくるだろう。

 医療機関については、医療の専門家が管理する場所だ。機能し続けるとしても、最大限の配慮がなされていなければならないはずだと考える。

 しかし全く別の意味で脆弱なまま放置されているのが、交通機関だ。特に通勤客を吸収する電車やバスであることは、言うまでもない。

 密集した空間に数百人といった数の人間がいたら、ほんの少しの数の人によって、決壊ポイントは作られてしまう。

 国会で、立憲民主党の枝野党首が、厚労省以外の省庁の当事者意識の欠如を指摘したという。https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20200227-00000002-yonnana-soci&p=1 「交通機関の問題がある。これは国土交通省」。

これは、全く妥当な指摘だ。より具体的な提案とともに指摘がなされたら、さらに良かった。

 通勤者による自己防衛(ちなみに私は除菌ティッシュ―を携帯している)、及び通勤者の雇用者に対する時差通勤への配慮への要請がなされている。だが交通機関側は何をしているのか。

 駅のトイレに行っても、手洗い場はあっても、石鹸さえ置いていない場合が多々見られる。論外ではないだろうか。

 本来であれば、プラットフォームや改札に、消毒液を多数設置するべきではないのか。できれば車内にも、咳エチケット用のティッシュ―や、吊革につかまりたい人向けの除菌ティシューを備え付けておきたい。

 いまだに咳やくしゃみをする際の留意事項を記した啓発ポスター類が全く見られないのも、残念だ。

 私は平和構築活動の調査でシエラレオネなどの西アフリカによく行っていた。さすがにエボラ出血熱の大流行の際には渡航を控えた。収束後に入国すると、「愛する家族のために、社会のために、責任を持った行動をとろう」といった啓発目的の看板が、多々街に残って切るのを目にした。

 感染症対策は戦争だ、といった比喩は、良いと思う。だがその比喩が間違って使われないことを願う。政府は強権を発動せよ、と言いたいだけであれば、わざわざ戦争といったレトリックを使う必要もない。

 ポイントは、多くの人々に生か死かを問うような影響が及ぶ深刻な事態だ、ということだ。日常空間(たとえば通勤電車)に、非日常的な場面を挿入する(たとえば駅における大量の消毒液)といったことを、当然と考えるのが、「感染症との戦い」で必要な態度ではないだろうか。

 131日に遂にイギリスがEUから脱退した。移行期間があるので、すぐには影響は見えない。だがこれからいよいよブレグジットの余波が具体的に立ち現れてくることになる。

 これにあわせて日本では「日英同盟」復活論が盛んだ。イギリスがEU域外諸国との連携を強く模索しており、日本への関心を強めていることは、事実だ。経済面のみならず、安全保障面でも、強力なアプローチが続いている。

 日本の側にも、これに反対する理由はない。欧州における特別なパートナーとして、さらにイギリスを位置付けていくべきだろう(離脱の余波を見極めながらになるが)。

ただし、「日英同盟」が、1902年に締結された実際の条約に基づく概念だとすれば、言うまでもなく、この「日英同盟」の復活などありえない。多くの事柄が当時とは異なっているからだ。一番は、今のイギリスと当時の大英帝国が、全く違っている。大英帝国は、東南アジアにも領土展開するアジアの大国でもあった。極めて素朴な地理的環境から、極東におけるロシアの南進を懸念するのが、日本の次には大英帝国だった。

現在のイギリスに、そのようなレベルでの東アジアに対する関心はない。それは日本の側に、ヨーロッパに対する関心が乏しいのと、同じだ。

いわゆる「日英同盟復活」論とは、日本がアメリカとともに、オーストラリアやインドを主要パートナーとして推進しようとしている「インド太平洋」構想の強化を意味するはずだ。

イギリスは現在でもインド洋の島嶼部に海外領土を持っている。地中海東端でトルコとギリシアが係争を抱えるキプロス島に軍事基地を持ち、小規模だが長期に渡って展開する国連PKOにも派兵して影響力を維持している。地中海西端が大西洋と接合するジブラルタルを、スペイン王位継承戦争後の1713年ユトレヒト条約以降、保持し続けている。

イギリスは、単に「インド太平洋」と無関係ではないだけでなく、「インド太平洋」が欧州と接合するために一つのカギを握る国である。

ブレグジット後のイギリスが真っ先に関係を強化したいのは、コモンウェルス構成諸国だが、その筆頭が近年に著しい経済成長を果たしたインドであり、その周辺に位置するバングラデシュなどであることは、言うまでもない。イギリスの関心は、「インド太平洋」に注がれた後で、極東の日本につながる。日本だけに関心があるわけではない。

日本にとってイギリスが、アメリカと同格の同盟国になることはないし、それはイギリスにとっても同じだ。イギリスはEUは脱退しても、NATOからは脱退しない。イギリスの軍事同盟国は、依然としてNATOを構成する28カ国だ。日本は含まれない。

NATOは、現在もアフガニスタンで展開中の「Resolute Support」ミッションをはじめとして、域外展開を含めて、活発な活動をしている、人類史上最も成功したとも言われる巨大軍事同盟組織である。

そもそもEUの安全保障ミッションに対しても、ブレグジット後のイギリスは関与を続けるだろう、というのがもっぱらの見方である。現在のEUは、6つの軍事ミッションと、11の文民ミッションを展開させる、巨大な安全保障貢献組織でもある。https://eeas.europa.eu/headquarters/headquarters-homepage/430/military-and-civilian-missions-and-operations_en これらの共通安全保障・防衛政策の領域で、イギリスがEUと決別していくという兆候はない。

NATOEUと、日本が、「日英同盟復活」を通じて、間接同盟関係を持つ、ということは、日本国内では想像されていないだろう。

もっとも私個人は、これらの組織と、パートナー関係を強化すべきだと考えている。少しずつでも要員をNATOEUのミッションに参加させるべきだ、と考えている点で、おそらく日本国内の誰よりも具体的に、そう考えている。

そのためにイギリスとの関係は、さらに強化していくべきだ。

ただしそれは1902年日英同盟の復活などとは全く異なる。21世紀の「インド太平洋」構想の強化の見取図の中で、日英関係の強化を進めていくべきだ。

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