「平和構築」を専門にする国際政治学者

篠田英朗(東京外国語大学教授)のブログです。篠田が自分自身で著作・論文に関する情報や、時々の意見・解説を書いています。過去のブログ記事は、転載してくださっている『アゴラ』さんが、一覧をまとめてくださっています。http://agora-web.jp/archives/author/hideakishinoda なお『BLOGOS』さんも時折は転載してくださっていますが、『BLOGOS』さんが拾い上げる一部記事のみだけです。ブログ記事が連続している場合でも『BLOGOS』では途中が掲載されていない場合などもありますので、ご注意ください。

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 すごいものを見た。鹿島平和研究所「国力研究会/安全保障外交政策研究会+有志」というグループが出した、54兆円の費用が見込まれる全国民対象のPCR検査をする「国民運動」の提唱だ。http://www.kazumasaoguro.com/covid-19/?fbclid=IwAR0483hGpNe50Uvr7HlDrsM4Obs6Iqos2KzkM2OeyTuEEs2GBcm9j3w5G1I 

 「+有志」としていち早く賛同者に名を連ねている人物の中に、あの渋谷健司氏がいるのは、注目点である(WHP事務局長上級顧問の肩書はここでは使っていないが)。

 この渋谷氏が賛同する「国民運動」は、「一日1000万件検査により、全国民が2週間に1回の検査を、半年後までに達成」することを目指すという壮大なものである。

 これを実現するのに、543850億円の費用と、3兆円の事務局経費がかかるという。キットが安くなれば費用は下がるといったよくわからない当たり前のことが書いてあるが、勝手に国民の自己負担は3612万円で国庫負担を下げる、といった試算も書かれている。

 厳しい国家財政のために補償も十分に受けられない国民の努力によって、現在の日本の新規感染者数は大きく減少してきている。なぜここで検査のために数十兆円を投入しなければならないのか。理解に苦しむ。その予算は、他のことに振り向けるべきだろう。

 今ですら医療崩壊が叫ばれているのに、陽性反応を示した者全員を隔離できないこと火を見るより明らかである。しかも仮に全員隔離が済んだとしても、全世界には400万人以上の新型コロナウイルス感染者がいるのである。どれだけ検査を繰り返しても、感染者が再び現れることは必至である。したがって、54兆円を要する全国民検査を、毎年やらないと安心できない、という状況が生まれるだけだ。

 「長期戦」に入っていることを繰り返し説明している日本政府、専門家会議、大阪府、そして緊急事態宣言下で苦闘し続けている国民の努力を真っ向から否定し、毎年毎年54兆円を使えば解決できる、という対案を出すのは、非現実的であるばかりでなく、有害であると思う。

 渋谷健司氏が、テレビ・雑誌その他の様々な媒体を通じて、様々な肩書を用いて、日本では数週間前から感染爆発が起こっている、といったことを主張し続けてきたことは知っている。だが、そうだとすれば、渋谷氏は、自ら率先して54兆円プロジェクトにかかわることを画策する前に、自分の主張を学術的に裏付ける根拠を示すべきだ。

 「専門家」が根拠不明な主張であっても、巧みに肩書とマスコミを使い分けて、日本国民を恐怖のどん底に落とし込む国民運動を展開しようとしてきた挙句に、自ら率先して巨額予算のプロジェクトの立ち上げを推進するという仕組みは、非常に怪しい雰囲気をもたらす。非常に良くない。これでは国民は不信感しか持てない。

 少なくとも、渋谷健司氏が、このプロジェクトに限らず、PCR検査拡大に関わる一切のアドバイザー契約その他の報酬や研究費を伴う資金活動に関わらないことを、一人の納税者として、強く関係各省庁団体に要請する。

 「政府の対応、海外が疑問視/政府のコロナ対応、海外から批判続出」と言う記事が、波紋を呼んでいる。 https://www.asahi.com/articles/DA3S14468146.html?iref=pc_ss_date 

https://news.yahoo.co.jp/articles/76efbba93b100c0519f761a0d1e0629ee8239e4c?fbclid=IwAR39CTFcPwS_Zp6ISeReYXXeQiSV45B18hFdT08GFYWzrDuHu3r7Ib9AF1I

 イギリスのガーディアン紙とBBC 放送および韓国のハンギョレ新聞が、日本のPCR検査数の少なさを理由にして批判をしているという記事である。特にイギリスは世界2位の3万人の死者と、20万人以上の感染者を出しているので、日本を批判している場合か、という反応が巻き起こったのである。

だが、よく見てみると、事情はいくぶん微妙である。この記事がとりあげている430日のBBCの記事でお馴染みの日本批判をしているのは、毎度毎度のあの渋谷健司氏である。日本のメディアでは「WHO事務局長上級顧問」の肩書で各種メディアで日本批判を繰り返している渋谷氏だが、海外のメディアに登場する際には決して「WHO事務局長上級顧問」の肩書を使わない。海外の英語メディアでは、大学の肩書でなければ、「元WHO職員」と名乗る。それで目立たなくなるのかもしれないが、要するに同じ人物だ。同じ渋谷氏が、違うメディアに異なる肩書で何度も登場し、お馴染みの日本批判を繰り返しているだけなのである。https://www.bbc.com/news/world-asia-52466834

新型コロナ問題の「専門家」を自称する産婦人科医の渋谷氏の肩書の不透明性については、これまでも何度か指摘した。http://agora-web.jp/archives/2045743.html WHO側に渋谷氏の肩書を証明する根拠がない。しかし日本のメディアは好んで渋谷氏を「WHO事務局長上級顧問」と紹介し続ける。

私は、渋谷氏の肩書の根拠を示してほしい、と最近に渋谷氏を取り上げているFNN(フジニュースネットワーク)、オンライン経済メディアBusiness Insider JapanIWJ(インディペンデント・ウェブ・ジャーナル)にメールを出した。これらのメディアのいずれも根拠を示さない。というか、私に返信すらしない。

記事の題名を「WHO事務局長上級顧問が懸念」としても、その人物が本当に「WHO事務局長上級顧問」であるかどうかについては説明しない、というのは無責任ではないだろうか?https://www.businessinsider.jp/post-212468 

これら一部の日本のメディアと比べれば、BBCの記事の方がましである。色々な意見を紹介する趣旨の記事の中で、一大日本批判キャンペーン展開中の産婦人科医・渋谷健司氏を取り上げているに過ぎない。後に朝日新聞が「海外から批判続出」の記事の根拠にするとは、夢にも思っていなかっただろう。

それにしても渋谷氏は、怪しい肩書のほかに、何かすごいことを言っているのだろうか? 渋谷氏は、何週間か前には、日本ではすでに「感染爆発」が起こっている、というセンセーショナルな主張を繰り返していた。最近になって、「ピークはこれからだ」といった話に、主張を変えた。今や「とにかく検査が少ないのだから、とにかくそれで日本はダメなのだ」という話にさらに主張を変化させている。

意見を変えてはいけないとは言わないが、それならせめてどうして意見を変えたのか、責任を持って説明するのが研究者としての最低限の良心であるはずだ。こんなことなら意見を言う際には「なお私の意見は私の気まぐれで変更して言わなかったことにする可能性がありますので、ご注意ください」と但し書きを入れるべきだ。

検査の数は、大きな議論の対象だ。たとえばイギリスのインペリアル・カレッジは、PCR検査を無症状の人にまでむやみに実施しても感染拡大効果が上がるわけではなく、日本のように症状のある感染者、濃厚接触者、医療関係者らに限定して使うことが有効だとする報告書を出している。https://www.imperial.ac.uk/mrc-global-infectious-disease-analysis/covid-19/report-16-testing/ 

WHO事務局長上級顧問」という日本人にだけ用いる肩書を使われると、日本人は「ただ産婦人科医・渋谷氏の意見だけを信じる!」と叫ばなければいけないというのは、あまりに馬鹿げている。

渋谷氏は、なぜ3万人の死者が出ている自らの居住国のイギリスのことを全く心配しようとはしないのか? 新型コロナ「専門家」のスーパー産婦人科医なら、まず自らの知見をイギリス社会に貢献するために使うべきではないのか?

渋谷氏は、日本を批判して説教をするために、異なる肩書を多彩に駆使してまで各種メディアに登場しまくる前に、まず目の前のイギリスのことを心配するべきだ。いったいどういう精神状態なのだろうか? 私には理解できない。

 5月4日、安倍首相は、緊急事態宣言の延長の決断を「断腸の思い」と表現し、この事態に至ったことをお詫びすると述べた。首相は、負担をかける国民に謝罪した。同時に、不十分な結果しか出せなかったことを、「専門家」の西浦博教授に謝罪したのだろう。

西浦モデルでは、一カ月で終息にまで持っていく道筋がつくはずだった。私からすれば、4月中旬以降の日本の新規感染者数の減少は、国際的に見て、劇的だ。しかし、西浦モデルから見れば、「期待外れ」で「不十分な」ものでしかない。首相は、国民を代表して、「専門家」西浦教授に目標不達成を謝罪したのだ。

 もともと47日の緊急事態宣言発出の際に、安倍首相は1か月で終息させるかのような発言まではしていなかった。むしろ「医療崩壊を防ぐ」という実際的な目標を掲げていた。しかし緊急事態宣言の運用過程の中で、西浦モデルに従った緊急事態宣言の理解がマスコミを通じて広く社会に流通してしまい、首相自身がそれを容認しているかのような報道まで見られた。そして西浦教授は、メディアや専門家会議の記者会見の場を通じて、現在の感染者数の減少は「期待外れ」だと断じる評価を表明していた。

そこで安倍首相が、「専門家」西浦教授に、国民を代表して、怠慢と努力不足によるモデル実現の不達成をお詫びしたのだ。これは、西浦モデルを清算し、決別するための儀式だったと言ってもいいだろう。

 テレビのワイドショー等では全く理解されていないようだが、54日の「延長」会見で、安倍首相は、「医療崩壊を防ぐ」という47日当初の目的を、「新規感染者数を退院者数よりも少なくする」、という言い方であらためて確認した。一貫した話である。

 ところが、専門家会議メンバーが、安倍首相が表明した目標だけで解除を決めるとも言えない云々といった説明を繰り返した。他の要素も見なければいけない、というのは、確かにその通りだろう。だが根本的には、「医療崩壊を防ぐ」ために、「新規感染者数を退院者数よりも少なくする」、という目標が重要であるはずだ。

 今後、政府は、イニシアチブを発揮し、「医療崩壊を防ぐ」ために緊急事態宣言を発出したという原点に戻り、新規感染者(増減率)、死亡者、入院者、退院者の指標で、管理可能な「医療崩壊が防がれる状態」を作るのが目標であることを、あらためて確認し、強調していくべきだろう。

 さて、「ポスト西浦モデル時代」の「延長」期間で重要になるのは、各地方自治体それぞれの取り組みだ。緊急事態宣言下では、本来は自治体の首長の役割が大きいはずである。

 55日、東京都と大阪府のそれぞれのコロナ対策本部会議が開催された。両方ともビデオ中継されたので視聴してみたが、雰囲気が全く違ったので、印象深かった。

 東京都では、西浦教授が招かれて東京の様子に関する所感スピーチを行い、小池都知事が対策説明スピーチを行い、早々と終了してしまった。https://www.youtube.com/watch?v=nC2CvEtvh38 

 これに対して大阪府では、まさに会議の生の討議の様子が中継された。そこでは「7日移動平均で7日間の動きを見る根拠は何なのですか?」、「あ、陽性率も7日間移動平均をとるわけだから急には変動しません」、「色を付けて市民が見てすぐわかるようにしたらどうだろう」、などといったやり取りが1時間半にわたって行われた。https://hazard.yahoo.co.jp/article/covid19osaka 

大阪府の会議中継の手作り感は、すごい。だが、これでいいと思う。

陽性者の増加率のトレンドと、重症者ベッド使用率が、疑いなく、決定的に重要指標だ。これは、実は「医療崩壊を防ぐ」という安倍首相が掲げている緊急事態宣言の全体目的にも合致している。大阪府はあと二つの指標(経路不明な新規感染者数と検査陽性率)を入れているが、要するに陽性者数の増加見込みをチェックするための追加的な指標だろう。

扇動的なテレビのワイドショーに惑わされず、むしろ政策的に重要な数字だけを見よう、と府民を促すのは、正しいやり方だ。

緊急事態宣言のプロセス管理方法として、「大阪モデル」が、ロジカルな正解だ。

大阪府が、国のクラスター班の2週間前の計算式不明の実効再生産数が使えないと判断し、独自の指標を設定したのも、全く妥当である。「データは出せない」、「2週間前のことしか言えない」、「実効再生産数しか言えない」云々の「専門家」だけを頼らなければいかないのは、馬鹿げている。

私自身、47日からの『検証シリーズ』で、週単位の大きなトレンドを見て、その時点の大局的な様子の確認をしているが、間違えたことがない。

PCR検査数が少ないので陽性者の絶対数がわからない、といったことは、政策的な目的とは、全く関係がない話である。増減率を見るのは、トレンドを見るためであり、現状のトレンドの確認こそが、われわれがまず知りたいことだ。

何も難しいことはない。ただ、テレビのタレント専門家や肩書不明の煽り「専門家」の話などを聞くから、頭が混乱するだけである。カリスマ「専門家」のご神託ではなく、自分で数字を見て重要なことだけを考えれば、プロセス管理の問題は解決する。

もちろん、実際に解除段階になってきたら、解除後にも感染防止を図っていくための意識喚起などが、追加的な措置として必要になるだろう。大阪府には、どんどん独自に過去の集団感染の事例を分析したりして、効果的な注意喚起を図っていってほしい。

さて、これまでの『検証』シリーズでは、東京都と全国の増加率(減少率)のトレンドを見てきた。今回は同じやり方で、大阪府のトレンドを見てみたい。累積感染者数(当該週新規感染者数)と、それぞれの前週と比した増加率である。https://covid19-osaka.info/

 

42854日: 1,679人( 158人): 1.10倍( 0.69倍)

42127日: 1,521人( 226人): 1.17倍( 0.49倍)

414日~20日: 1,295人( 460人): 1.55倍( 1.13倍)

47日~413日: 835人( 407人): 1.95倍( 1.91倍)

331日~46日: 428人( 212人): 1.98倍( 2.58倍)

324日~30日: 216人( 82人): 1.61倍( 3.15倍)

 

昨日の『検証⑨』で書いた東京や全国のトレンドと比べていただきたいが、http://agora-web.jp/archives/2045864.html?fbclid=IwAR0n43DbCtv_i_wvXC8BL75XJ7vXX8MrCUTu11ZAaes84tOrmnJMyEt0gHU 本格的に緊急事態宣言の効果が出て新規感染者数が減少し始める4月中旬以降の大阪府の新規感染者数の減少率には、東京よりも勢いがある。

東京都では7日(当該日+前後3日)移動平均でピークに達したのが、411日で、平均値160であった。51日の東京都の7日移動平均値は101なので、最新の新規感染者数はピーク時の63%である。

大阪府では7日移動平均でピークに達したのが、417日の65であった。51日の7日移動平均値は22なので、最新の新規感染者数はピーク時の34%まで下がっている。

東京都の人口は約1,395万で、大阪府の人口は約882万人なので、この一週間の新規感染者数は、人口1万人あたりで、東京都が0.44人なのに対して、大阪府が0.17人である。

明らかに、東京よりも大阪のほうが良好な状態にある。実は財政的に豊かな東京のほうが自粛に伴う補償インセンティブを用意できていた。それにもかかわらず、緊急事態宣言期間における成績が大阪府の方が優れていることには、注目すべきだ。

大阪府が、東京都よりも先に、出口戦略を示すのは、妥当である。

この一週間の新規感染者数で東京都は全国の37%以上を占めてしまっており、東京都の動きの鈍さが全国的な減少率を鈍らせてしまっている。仮に東京が大阪に追随しなくても、他の都道府県は、「大阪モデル」を取り入れるために、よく研究するべきだ。

すでに全国的に注目されている吉村洋文大阪府知事に、さらなるリーダーシップを期待したい。「大阪モデル」が「日本モデル」になる大きな潜在力がある。https://gendai.ismedia.jp/articles/-/72367?fbclid=IwAR3Rum9_4rNyCbvAs8NTNwUXZ9KzyTH9wHoa0qlBmNaQA9ywJRkYMZobJiE

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