「平和構築」を専門にする国際政治学者

篠田英朗(東京外国語大学教授)のブログです。篠田が自分自身で著作・論文に関する情報や、時々の意見・解説を書いています。過去のブログ記事は、転載してくださっている『アゴラ』さんが、一覧をまとめてくださっています。http://agora-web.jp/archives/author/hideakishinoda なお『BLOGOS』さんも時折は転載してくださっていますが、『BLOGOS』さんが拾い上げる一部記事のみだけです。ブログ記事が連続している場合でも『BLOGOS』では途中が掲載されていない場合などもありますので、ご注意ください。

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 5月4日、安倍首相の記者会見が開かれ、緊急事態宣言の延長が決まった。日本にはよくある玉虫色だが、穏健な内容と言える。

 引き続き「8割削減」を求めると言いながら、地域差を出し、美術館等から段階的に開いていくし、14日に再検討の機会を設けることを予定した。「段階的緩和」宣言としての性格も見てとれる。そして「長期戦」を見据えた体制作りを5月に行うと位置付けた。ここからは各地方自治体の首長がリーダーシップを発揮する、という流れ自体は、悪くないのではないかと思う。

 「延長」期間とは、いわば「移行」期間のことだ。緊急事態宣言解除後にもコロナ対策を行っていくための「移行」期間が、「延長」期間だと考えてよいだろう。

 47日の緊急事態宣言発出時に、安倍首相は、医療崩壊を防ぐ、という目標を掲げた。この目標の達成を確証したと言うにはまだ十分ではないので延長措置をとると言う。その一方で、新規感染者数が退院者の数を下回ることが目標だと定めたのは、一貫性を保ちながら、より具体的に目標を定められたという点で良かった。現在の退院者数が200人近くになっていることを考えると、1100人以下にしたいと述べたのは、ラフな言い方ではあった。ただ、それくらいの余裕は持たせて下回りたい、ということなのか。

 いずれにせよ、このように具体的な数字で直近の目標を語れるようになったのは、良いことだ。これも国民の努力があればこそで、そのことを首相がしっかりと認識していることを語ったのも、良かったと思う。

 47日の時点で、安倍首相は、西浦博教授の試算に基づき、次のように語っていた。

―――――――――

東京都では感染者の累計が1,000人を超えました。足元では5日で2倍になるペースで感染者が増加を続けており、このペースで感染拡大が続けば、2週間後には1万人、1か月後には8万人を超えることとなります。しかし、専門家の試算では、私たち全員が努力を重ね、人と人との接触機会を最低7割、極力8割削減することができれば、2週間後には感染者の増加をピークアウトさせ、減少に転じさせることができます。

――――――――――――

 47日からほぼ4週間がたった54日現在、東京都の累積感染者数は4,654人である。5日間で1.11倍になった。5日間の増加率が1か月前は100%だったが、今は11%に下がった、ということである。また、421日に感染者の増加をピークアウトさせて減少させると言う目標も、すでに達成した。1か月間の緊急事態宣言は堅実な結果を出した、と評価すべきである。

 より定性的な目標である「医療崩壊を防ぐ」という目標の達成を確証できないため「延長」になったが、10日後に見直しをする。そこで1か月間の緊急事態宣言の結果を把握することになる。そこであらためて段階的解除の路線が明らかになるのではないか。

 5月の「延長/移行」段階は、4月の4週間とは、質的に異なる4週間になるだろう。ロックダウンの段階的緩和化の時期になると思われる。

 1か月で感染の終息を目指す急進的な「西浦モデル」路線は放棄された、ということだ。

すでに安倍首相の口からも「長期戦」という言葉が発せられた。専門家会議記者会見でも、緊急事態宣言解除後のコロナ対策が継続していく「長丁場の対応」が前提になっている。「新しい生活様式」は、ワクチン開発か集団免疫獲得まで続く、という認識が、脇田隆字座長から示された。「終息」ではなく、医療崩壊を防げるところで抑え続ける「収束」を目指されているのだ。

吉村大阪府知事は、段階的に自粛要請を解除する「出口戦略」を明らかにするという。各地方自治体によるイニシアチブで、「延長」期間の「移行」期間としての実際の内容が決まっていくだろう。私も、今後は、吉村知事のイニシアチブに着目する『検証』も書いてみたいと思っている。

これまでの「検証」シリーズで行ってきた通り、曜日の偏差を考えて、週ごとに整理した数字を示しておきたい。

東京都の累積感染者数(括弧内は新規感染者数)と前の週と比べた時とのそれぞれの増加率は以下の通りである。https://stopcovid19.metro.tokyo.lg.jp/

 

42854日: 4,654 人( 620人): 1.17倍( 0.81倍)

42127日: 3,947人( 764人): 1.23倍( 0.74倍)

414日~20日: 3,184人( 1,026人): 1.47倍( 0.98倍)

47日~413日: 2,158人( 1,043人): 1.93倍( 1.55倍)

331日~46日: 1,115人( 672人): 2.51倍( 2.32倍)

 

 全国的な傾向も見てみよう。https://toyokeizai.net/sp/visual/tko/covid19/

 

42854日: 14,895人( 1,663人): 1.12倍( 0.63倍)

42127日: 13,232人( 2,624人): 1.24倍( 0.75倍)

414日~20日: 10,608人( 3,485人): 1.48倍( 0.98倍)

47日~413日: 7,123人( 3,554人): 1.99倍( 2.03倍)

331日~46日: 3,569人( 1,749人): 1.96倍( 2.29倍)

 

 相変わらず着実な減少が見られるが、東京での減少率は鈍り始めた。過去数日の間に東京都でいくつかの集合的な感染が見つかっており、全国の減少率が東京の減少率を追い抜いた。その結果、この一週間の新規感染者数に占める東京都の割合は37%以上と異常な高率になっている。ちなみに前週・前々週は29%であった。これが今後の傾向を示す現象なのかがどうかは、あるいはある種の異常値なのかは、まだわからない。緊急事態宣言発出後には、大阪をはじめとする東京以外の地域での頑張りが特に大きい、ということなのかもしれない。
 なお、実は死亡者の増加率も、ここにきて鈍化の傾向を見せており、4月の新規感染者数の増加の鈍化の影響が出始めたようである。死者数の増加の国際比較について、Financial TimesJohn Burn-Murdochのデータで見てみよう。https://www.ft.com/coronavirus-latest

  新規感染者数の国際比較はこちらである。

 

 51日、緊急事態宣言の延長前の会合と思われる専門家会議が開かれ、記者会見も行われた。

 前回の422日の際には、専門家会議のメンバーは、現状分析を拒んだ。今回は「減少はしているが期待したほどではない」という見解で統一されていたようだった。一週間ほどの間で「減少」は所与の事実とされた。そのうえで、「期待したほどではない」という評価があっという間にくだされた。

 違和感が残る。いったい誰が、いつ、どういう「期待」をしていたのか? 国民にその「期待」に関する説明は事前に与えられていたのか? わずか一週間という時間は、「まだわからない」を「期待したほどではない」という評価に変更するのに、適切かつ十分だったか?

 こうした疑問に答える手掛かりは何もなく、ただ「期待していたほどではない」という発言だけが繰り返され、あとは国民の一層の努力を求める、という要請が繰り返された。

 専門家会議のあり方をめぐる混乱は、記者会見におけるやりとりで観察できた。「期待するほどの減少ではない」と評価する理由について、西浦博教授が座長や副座長に代わって答えたときだ。西浦教授は、「十分な現象を果たすためには、実効再生産数0.5にすることを目標にしているので、それには達していないということだ」と答えた。

 いったい西浦教授は、このような125百万人の人生を左右する目標を、いつ、どのような権限で、設定したのだろうか? そしてそのことをいつ、どのように、国民に知らせていたのか?

 安倍首相も、専門家会議も、そんな目標を設定した、と述べたことがない。つまり、西浦教授が現状分析の判断基準としている目標は、西浦教授の個人的な目標にすぎないのである。

 安倍首相が47日の緊急事態宣言発出の際に述べた目標は、「医療崩壊を防ぐ」であった。したがって本来は、減少率の評価は、「医療崩壊を防げるようになったか」、で判断するのが、当然だ。

 ところが西浦教授は、そうした文脈を無視し、実効再生産数0.5が、日本国民に与えられた課題だ、ということだけを平然と言ってのけた。そして、その数値に到達していないので、期待外れだ、と言ってのけた(実は日本の実効再生産率は0.5に近づいてきているにもかかわらず!)。そのように言いながら、西浦教授は、自分が個人的に設定した「私の目標」に、専門家会議が付き従うのが当然であり、政府が付き従うのが当然であり、125百万人の国民が付き従うのが当然である、といわんばかりの強い態度をとった。

 確かに、西浦教授は、個人名で、新聞等のマスメディアを通じて、様々な見解を発信してきている。・・・ということはつまり、専門家会議も、政府も、国民も、西浦教授の新聞における発信を見て、国家目標が告知されたことを知らなければいけなかったのだ。

 これだけの巨大な権限がある一人の個人に委ねられているのであれば、よほどの政治的責任が、その人物に存していることが明確化されなければならないし、民主的コントロールをかけるのであれば、民主的手続きで政策決定者の正統性が確保されなければならない。

 しかし西浦教授は何も責任を負わない。

 それどころかデータの開示はないのか、という記者の質問に対して、驚くべきことに、西浦教授は、忙しいのでできない、と答えた。あれだけマスコミ対応をしてSNSの発信にも余念がない西浦教授が、核心的な情報を国民に示す時間だけは、忙しくてとることはできない、というのである。

 そもそも西浦教授は正式な専門家会議のメンバーですらないはずだ。たまたま日本では数理感染症モデルの専門家が西浦教授しかいないために、呼ばれているにすぎないはずだ。 

 この状況を問題性を明らかにする場面が、他にもあった。別の質問に答えながら、脇田隆字・専門家会議座長は、「十分な減少」を数字で示すのは難しい、と発言したのである。脇田座長のほうは、実効再生産数0.5が「十分な減少」の定義であるという認識は、持っていないのである。

 日本の新型コロナ対策の当初からの方針を思い出すために、政府の「新型コロナウイルス感染症対策本部」が225日に決定した「新型コロナウイルス感染症対策の基本方針」を見てみよう。この「基本方針」は、次のように目的を定めていた。「感染拡大防止策で、まずは流行の早期終息を目指しつつ、患者の増加のスピードを可能な限り抑制し、流行の規模を抑える」。https://www.kantei.go.jp/jp/singi/novel_coronavirus/th_siryou/konkyo.pdf ここでは、できる限りの早期の終息が望ましいのは当然としつつ、まずは増加スピードを抑制することを当面の目的とすることが謳われていた。この「基本方針」からは、実効再生産数が0.5でないと期待外れだ、といった西浦教授の「私の目標」が採択されていることは読み取れない。

 西浦教授は、公然と、専門家会議や政府の意思決定プロセスを無視し、「新型コロナウイルス感染症対策本部」の「新型コロナウイルス感染症対策の基本方針」を拒絶し、「私の目標」に国民が付き従うことを、マスメディアやSNSや記者会見を通じて、強く求め続け、社会運動を主導し続けている。 

 この状態は、どういう正当化根拠で、発生している事態なのだろうか? 西浦教授は、国民にデータを開示する時間は全くとれないと言う。しかし自らSNSを通じて「私の目標」にしたがって国民が動くようにする社会運動には余念がない。そして、頻繁にマスコミ対応をして、「感染者数を大幅に減少させて、最後の一人をクラスター班で撲滅したい」という個人的な願望を、繰り返して吐露している。https://www.buzzfeed.com/jp/yutochiba/cluster-japan-senmonka?utm_source=dynamic&utm_campaign=bfsharefacebook&ref=mobile_share&fbclid=IwAR0F2ag5bqCD4dWfrDZ7f_mK-6lGd07varZeB7TnPFXUhK3f_2ObZuSewOI 

西浦教授のクラスター対策班に、最後の一人の感染者を見つけて、撲滅宣言の記者会見を開かせてあげることは、本当に、国民全員が、自分の仕事や収入を犠牲にしてでも達成したいと合意した目標なのだろうか?

マスコミを通じて発表される西浦教授の「私の目標」が、政府決定の「基本方針」に卓越しているかのような言説を、西浦教授自身が専門家会合記者会見で強調しているのは、いったいどういう正当化根拠によるものなのか?

 この状況が続くなら、国民の間に不信感が広がる。西浦教授の「私の目標」は、国民的コンセンサスがあるとは言えない西浦教授が目指している「私の目標」に過ぎない。むしろ反対している人も多い。そうなると、西浦教授が「私の目標」を実現することを絶対正義とすればするほど、データ開示を渋る西浦教授が、意図的に数字を操作したり政治的な効果を意識して発言して行動し、不当に専門家会議や政府に影響を与えようとしているのではないか、という疑心暗鬼が広がる。

 百歩譲って、クラスター対策班の従事者が、撲滅を目指して全力で働くのを良しとしよう。しかしその部分的な職能しか持っていない西浦教授が、より大局的な見地から専門的な見解をまとめるべき専門家会議の頭越しに記者会見で「私の目標」を確立された国家の大目標であるかのように語ったり、政府が「私の目標」を採択することが当然である、というふうに語ったりするのは、大問題ではないだろうか?

 撲滅を目指してクラスター対策班の活動をするのであれば、クラスター対策班を通じて得た洞察や意見を、専門家会議にあげるのは妥当だとしよう。しかし、そうだとしても、その部分的な意見を、専門家会議や政府の頭越しに記者会見で表明し、国民がそれに付き従うべきだといわんばかりの態度をとるのはやりすぎだ。

 専門家会合で西浦教授は、「人と人との接触の8割削減」の様子を探るという文脈で、渋谷駅と難波駅の状況を克明に説明したが、渋谷駅と難波駅で8割減少が認めれると、全国的に「人と人との接触の8割削減」が図られたことの証明になる、などということを、いったいいつ誰が議論したのか? なぜ渋谷駅で、新宿駅ではなく、広島駅や博多駅でもないのか? そもそも「接触率」を「接触頻度」と同等視して計算する根拠は何なのか? なぜ西浦教授は、クラスターを起こしているコールセンターや病院や施設には何の関心も示さず、「渋谷駅と難波駅の様子を見れば、125百万人の国民の1か月の間の人と人との接触の全てがわかります」といった珍説に拘泥するのか?

極小的なサンプル提示でも一つのサンプルとして全く意味がない、とは言わないが、記者会見で長々と時間をとって説明し、自分の「私の目標」が達成されていないことの根拠にするにしては、あまりに貧弱すぎるサンプルだ。そんなプレゼンは、専門家会議の内輪の会議で済ませておいてくれれば、それで十分だ。いちいち専門家会議の記者会見の時間を大幅に割いて披露するようなものではない。

 以前、私は、西浦教授に研究者に戻ってほしい、と書いた。http://agora-web.jp/archives/2045481.html そうは言ってもクラスター対策班の活動に専心し、それにそった主張を社会運動を通じて強く推進したい、ということであれば、せめて西浦教授は、専門家会議の記者会見で自分が国家目標を決定する権限がある人物であるかのように振る舞うのはやめたほうがいいと思う。せめてクラスター対策班を通じた活動に専念し、自分の立場をわきまえたうえで、しっかりとデータと説明を付して、意見を述べるべきだと思う。データ開示を拒みながら、しかしマスコミやSNSを通じて国民を誘導することに労力を払うのではなく、むしろきっちりと国民にデータ開示する作業のほうこそを優先していくべきだと思う。

 西浦教授は、研究者としての活動だけに専念できないのであれば、せめてクラスター対策班としての仕事に専念すべきだ。そして専門家会議を仕切り、政府の政策や国民の行動を、断定的な口調で誘導しようとするのは、控えるべきだ。

これまでの「検証」シリーズでは、曜日の偏差を考えて、週ごとに整理した数字で、大枠の動向を見てきた。すでに現象が始まっていることは確実と思われるが、各国との比較において注目すべき動きになっているので、付しておく。

東京都の累積感染者数(括弧内は新規感染者数)と前の週と比べた時とのそれぞれの増加率は以下の通りである。https://stopcovid19.metro.tokyo.lg.jp/

 

42551日: 4,317 人( 584人): 1.15倍( 0.62倍)

41824日: 3,733人( 940人): 1.33倍( 0.86倍)

411日~17日: 2,794人( 1,090人): 1.63倍( 1.17倍)

44日~410日: 1,704人( 931人): 2.20倍( 1.96倍)

328日~43日: 773人( 474人): 2.58倍( 2.78倍)

 

 全国的な傾向も見てみよう。https://toyokeizai.net/sp/visual/tko/covid19/

 

42551日:  14,120人( 1,880人): 1.15倍( 0.58倍)

41824日: 12,240人( 3,213人): 1.35倍( 0.84倍)

411日~17日: 9,027人( 3,781人): 1.72倍( 1.39倍)

44日~410日: 5,246人( 2,705人): 2.06倍( 2.26倍)

328日~43日: 2,541人( 1,192人): 1.88倍( 2.83倍)

 

 いささか踏み込んだ表現を使わせてほしい。ものすごい減少である。

「専門家」の西浦教授は、この数字を見て、「期待外れだ」、と吐き捨てる。「専門家」の西浦教授は、何か非現実的な自分自身が作ったモデルと、あるいは最後の一人をクラスター対策班で仕留めて記者会見をしたいという願望から見るのでなければ、日本人の努力を評価することはできないのだという。

社会科学者の私は、欧米諸国の死に物狂いのロックダウンを通じてようやく得た、日本と比較したらもっと残念な減少率と、日本の数字を比較する。そして、日本人の努力を称賛したい気持ちにかられる。

なぜ日本の専門家は、どうしても絶対に「日本モデル」を認めることを拒絶するのか? 社会科学者の私には、感染症数理モデル「専門家」の思考回路や抽象願望が、理解できない。

 ところで何週間も前から「日本は感染爆発の初期段階」「日本は手遅れ」「喫緊の感染爆発」と主張し続けていた産婦人科医の渋谷健司氏が、意見を変えた。なんと「日本の感染被害のピークはこれからやってくる」というのである。https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20200429-00137574-fnnprimev-int&p=1&fbclid=IwAR2-pTFvmw2Gueiy1QAAqlhf1ElX4PrfUPbdowhDurKQ3EtpVseJbGYvpms 

 産婦人科の専門家が、新型コロナの感染拡大見込みについて、意見を変えてはいけない、とは言わない。しかし公の場で繰り返し主張していた意見を変えるなら、それなりの説明を施すべきではないか? それとも専門家というのは、いつでも思いついたときに説明なく自由自在に意見を変えることができる特権を持つ者のことなのか? そして渋谷氏に「感染爆発の根拠を示してほしい」とお願いしていた一市民の私は、単なる阿呆でしかない、ということなのか?
 そもそも時期を示さず「ピークはこれから」などと言うことには、何の意味もない。「ピークはこれからだ、ただしそれが1年後か、10年後か、100年後か、1000年後かは、知らない」というのでは、全く何も言っていないに等しい。

(なおFNNに渋谷健司氏の肩書の確認をどのように行ったのか照会したところ、証明にならならいウェブページを示して返答してきた。https://www.who.int/health-topics/digital-health/dh-tag-doi この情報だけでは、むしろ渋谷氏がWHO事務局長シニアアドバイザーではなく、無給の形式的職務しか持っていない人物であることの証明になってしまう。しかも渋谷氏には感染症に関する業務経歴が全然ないことの証明になってしまう。FNNに、再返答を要請した。だが、返事は、まだない。)


 47日に緊急事態宣言を出した際、安倍首相は、「人と人との接触機会を最低7割、極力8割削減することができれば、2週間後には感染者の増加をピークアウトさせ、減少に転じさせることができます」と述べた。

 その日から3週間がたった428日の時点での様子を見てみたい。

これまでの『検証』と同じやり方で、東京都の週ごとの動向を見てみよう。累積感染者数(括弧内は新規感染者数)と前の週と比べた時とのそれぞれの増加率である。https://stopcovid19.metro.tokyo.lg.jp/

 

42228日: 4,059 人( 753人): 1.22倍( 0.76倍)

41521日: 3,307人( 988人): 1.42倍( 0.87倍)

48日~14日: 2,319人( 1,125人): 1.94倍( 1.67倍)

41日~47日: 1,194人( 673人): 2.29倍( 1.92倍)

325日~31日: 521人( 350人): 3.04倍( 3.46倍)

 

 私は、一連の『検証』シリーズで、4月になってから増加率の鈍化が見られ、さらに4月中旬からは新規感染者数は減少傾向に転じたことを指摘してきた。現在も、この傾向が顕著に続いている。

 全国的な傾向も見てみよう。https://toyokeizai.net/sp/visual/tko/covid19/

 

42228日: 13,422 人( 2,448人): 1.22倍( 0.70倍)

41521日: 10,974人( 3,465人): 1.46倍( 0.93倍)

48日~14日: 7,509人( 3,692人): 1.96倍( 1.91倍)

41日~47日: 3,817人( 1,930人): 2.02倍( 2.43倍)

325日~31日: 1,887人( 792人): 1.72倍( 2.57倍)

 

 これまでの『検証』で確認してきたように、4月に入ってから増加率の鈍化が認められた全国の新規感染者数だが、東京と同じように、4月中旬以降に減少傾向に入り、それは今週も続いた。

 減少傾向に入っていることは画期的であり、国民の努力の成果として、素直に賞賛すべきものだと私は考えている。

 日本よりも厳格とされるロックダウンを導入した欧米諸国の中の幾つかの国々は、死に物狂いで増加率の停止にまでこぎつけても、なかなか顕著な減少傾向を作れずに苦しんでいる。これまでも何度か示してきFinancial TimesJohn Burn-Murdoch氏の「片対数スケール」のグラフで新規感染者の増減率の比較を見てみよう。https://www.ft.com/coronavirus-latest  

 アメリカやイギリスは、何とか増加率の上昇を止めたものの、なかなか下降傾向に入れないで苦しんでいる。これに対して、日本が下降モードに入り始めた様子がわかる。

 これについてクラスター対策班の西浦博・北海道大学教授は、424日に、次のように述べたという。「患者はねずみ算式に増えていたが、410日ごろから伸びがやや鈍り、今週に入ってさらに鈍化した・・・。感染から潜伏期間を経て診断を受けるまでの時間を考慮すると、小池百合子都知事が325日に外出自粛を要請した効果とみられる。」https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20200424-00000161-jij-soci&fbclid=IwAR3XsZ45Sx_EchADWXYR7fPLtq8-sF8RO8yJWW2NNOPbl3RJ9MbozxJsqys 

この認識は、この『検証』シリーズで私が繰り返し述べてきていることと、同じである。(西浦教授の場合、絶大な政治的影響力を保持しているので、政治家のように『緩みも懸念される』ので『対策の徹底を要請』と政治発言をしなければならないのだが)。

この状況にいたって、大きな混乱が見られているようだ。特に週の初めに少なめの新規感染者数が発表されると、テレビのコメンテーターが動揺し、数字を信じるな、政府の陰謀だ、といったことを力説し、少し新規感染者数が増える日があると安堵する、といった現象が起こっているようである。さらには月曜・火曜のワイドショーが盛り上がらないので、週末をはさんだ後の新規感染者数の報告が減る傾向を何とかしろ、と無茶苦茶な要求までしているようだ。

曜日に偏差があるのは当然なので、John Burn-Murdoch氏ら世界中のウォッチャーが7日移動平均を採用している。私も大枠を掴むために週単位の数字で動向を見ている。曜日の偏差が気になるなら、自分で週単位の比較をすればいいだけだ。
 ところがほんの少しの努力もしない代わりに、月曜・火曜のワイドショーも盛り上げるために週末もたくさん検査をしろ、と要求するという態度には、茫然とする。私を含む国民のほとんどは、粛々と家にこもっているというのに、テレビ番組で「週の初めもワイドショーが盛り上がる数字を持って来い」と叫んでいる人たちは、いったいどこまで偉いのか。

相変わらずPCR検査数が少ないので、数字は信用できない、という主張も根強い。しかし検査数で絶対数の見え方を抑え込むことはできるかもしれないが、増加率に恣意的影響を作り出すのは、簡単ではない。まして曲線を描く変動を、検査の絶対数だけで操作するというのは、ほぼ不可能だろう。報告された数字それ自体の改竄を行うのでなければ、曲線の操作はできないと思う。

こうした常軌を逸した主張をするコメンテーターばかりがテレビ番組に出演するのは、やはり渋谷健司氏のような方が、何週間も前から「日本は感染爆発の初期段階」「日本は手遅れ」「喫緊の感染爆発」と主張し続けているからだろう。

以前は皇后・雅子様の双子の妹君との離婚と、即座の年下女子アナと電撃再婚で話題を作り、今回も華麗に機会に応じて肩書を使い分けるなど、切れ味抜群の「産婦人科医」の渋谷氏に魅了されているので、テレビのコメンテーターは皆、「数字は信じられない、信じられるのはあの産婦人科医の渋谷健司氏の言葉だけだ」、という気持ちになるのだろう。

渋谷氏には、学者生命を賭けて、すでに起こっている日本の感染爆発を証明する義務がある。

精緻な学術論文はもう少し時間がかかるということであれば、日本の雑誌がいくらでも、渋谷氏の学者生命を賭けた日本の感染爆発証明論文を掲載してくれるはずだ。

まさか今さら、新規の大型契約の受注がないと公表しない、などということはないはずだ。

日本の迷えるTVコメンテーターを救うために、産婦人科医・渋谷健司氏は、学者生命を賭けて、一刻も早く日本の感染爆発を証明する論文を公表せよ。

(渋谷健司氏については、肩書が多彩であるために、どのように紹介していいか、いつも迷う。渋谷氏は、日本のマスコミでは、「WHO事務局長上級顧問」である。ところが海外のメディアで英語で日本批判をする際には、「元WHO職員(former WHO official)」になる。渋谷氏が代表を務める上杉隆氏が社主である株式会社No Border代表としての肩書は、「WHOコーディネーター」である。

 渋谷氏は、2001年からWHOに勤務し、200508年に「coordinator for the Health Statistics and Evidence Unit」というコーディネーターの肩書を持った。https://www.who.int/bulletin/volumes/84/3/news10306/en/ 東京大学は、この「コーディネーター」職しか、渋谷氏とWHOの関わりを認めていない。http://www.ghp.m.u-tokyo.ac.jp/profile/staff/kshibuya/ したがって渋谷氏は、海外では、「元コーディネーター」の「元WHO職員」であるようだ。ここまでは情報が確認できる。

しかし日本では、肩書は変わる。たとえば渋谷氏が創設して2012年にPresidentに就任した「Japan Institute for Global Health (JIGH)」という団体の紹介文では、200508年のWHOとの関わりは「Coordinator」ではなく「Chief」ということになっている。http://jigh.org/en/about/ 

Chief」の肩書で登場する職務の部分は、渋谷氏の自己申告で作成されている経歴のようなので、「Coordinator」が「Chief」になった経緯は不明である。また、さらに現職として日本のマスコミで「WHO事務局長上級顧問」になる経緯も不明である。WHOが公式に公表している「Senior Advisor」や「Special Advisor」の中には渋谷氏は含まれていない。https://www.who.int/dg/who-headquarters-leadership-team WHOの幹部職員である私の知人に聞いてみたところ、WHOの職員リストには渋谷という人物は出てこないので、可能性としては、契約コンサルタントか何かではないか、とのことであった。

なお渋谷氏はもともとは産婦人科医である。また、公衆衛生の論文執筆はあるようだが、感染症に関する業績は見つからない。)

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