「平和構築」を専門にする国際政治学者

篠田英朗(東京外国語大学教授)のブログです。篠田が自分自身で著作・論文に関する情報や、時々の意見・解説を書いています。過去のブログ記事は、転載してくださっている『アゴラ』さんが、一覧をまとめてくださっています。http://agora-web.jp/archives/author/hideakishinoda なお『BLOGOS』さんも時折は転載してくださっていますが、『BLOGOS』さんが拾い上げる一部記事のみだけです。ブログ記事が連続している場合でも『BLOGOS』では途中が掲載されていない場合などもありますので、ご注意ください。

経歴・業績 http://www.tufs.ac.jp/ts/personal/shinoda/   
Facebook    https://www.facebook.com/hideaki.shinoda.73
過去のブログ記事(『アゴラ』) http://agora-web.jp/archives/author/hideakishinoda

  現在、極左右の大同団結が強くみられるのは、改憲反対論であるかもしれない。安保法制の時以来、マスコミに頻繁に登場し、2016年には参議院選挙に立候補までした、いわゆる「憲法学者」を代表する小林節氏が、右派系雑誌の『月間日本』に寄稿しているのを、最近は極左とまで言われている『Harbor Business Online』(https://www.j-cast.com/2016/05/10266398.html?p=all )が取り上げて記事にしているのを見た。 https://headlines.yahoo.co.jp/article?a=20191124-00207060-hbolz-soci&p=1 

 日本の政治闘争図において小林氏が果たしうる役割については、まあどうでもいい。しかし小林氏がいつも「法学者」などの肩書を持って現れるので、その点は気になるので、コメントしておきたい。

 小林氏は、現在進行中の自民党の改憲案に反対する。必要最小限の自衛権を持つ、と言う考え方がおかしいからだという。なぜなら、それでは「必要な自衛の措置ならば、何でもできるということです。極端に言えば、自衛隊は地球の裏側にも行けるということです」、ということだからだという。

 ところが結論部分で小林氏は、次のように主張する。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 

「国際情勢が厳しくなる中で、左派の平和主義が説得力を持ちにくくなってきているのも確かです。安倍政権による改憲を阻止するためには、専守防衛によってわが国の安全保障を維持できることを明確に示すことが重要です。わが国には、世界有数の経済力と技術力があります。その力によって、9条の範囲内で「専守防衛」の能力を高めることができます。」
-------------ー

現代世界の日本の現状で、「わが国には、世界有数の経済力と技術力があります。」なる主観的な断定を、法律論の根拠にしている「法学者」については、まずは年齢をチェックせする。それはともかくとしても、必要な自衛権を持つのはダメだが、「専守防衛」ならいいのだ、という主張は、全くわかりにくい。

ちなみに「必要性」に、「均衡性」の原則を重ねて自衛権を制約するのが「国際法」の原理である。「憲法学者」小林氏は、こうした現存する法規範を無視する。

そして「憲法学者」小林氏は、「専守防衛」などといった、実定法上の根拠がなく、内容も曖昧模糊とした概念を振り回す。

日本では「憲法学者」とは、存在している法規範を無視し、実定法上の根拠のない概念を信奉することを主張する者のことになってしまっている。ちなみに小林氏の集団的自衛権違憲論は、実定法上の裏付けのないドイツ国法学の怪しい国家の自然権論に依拠した「憲法学者」特有の主張の典型例だが、学術書における説明がないので、私は自分の著書では小林氏を取り上げたことはない。

小林氏のような「憲法学者」によって、憲法論は政争の一部となり、真面目な学術的議論が全く考慮されない状態に陥ってしまっている。

野党勢力と一緒で、自らへの信頼性を犠牲にしてでも、あらゆる手段を使って改憲を阻止する、という捨て身の戦法である。

実際に現在の混乱状況では、改憲は果たされないだろう。それで彼らは満足をするのだろう。だが長期的に損をするのは、真剣な憲法論を求めているはずの普通の国民ではないだろうか。非常に嘆かわしい。
https://www.amazon.co.jp/憲法学の病-新潮新書-篠田-英朗/dp/4106108224/ref=sr_1_2?qid=1574571046&s=books&sr=1-2

  今週初め18日に「人権問題くらいでは、左右の大同団結はできないのか」、という題名の文章を書いた。http://agora-web.jp/archives/2042728.html 他国での人権侵害の問題に憂慮の念を示すのに、国内政治における左右の立場の違いは関係がないはずだ、という趣旨で書いた。自民党の中には、憂慮を表明する勢力があるのだから、野党側が黙っているというのはおかしいのではないか、という趣旨であった。

 正確を期するために言っておけば、共産党は、中国における人権侵害の実情に憂慮する声明を14日に出していた。https://www.jcp.or.jp/web_policy/2019/11/post-821.html 立憲民主党は代表談話を21日に出した。礼儀の問題として、私としてもそのことについて触れておきたい。

 現在進行中の「桜を見る会」の話題では、他の野党の政治家たちのほうが騒いでいる印象があるが、もともと調査をして問題提起をしたのは、共産党の田村智子議員であった。いわゆる調査能力において、共産党が、支持政党層をこえて高く評価されていることは、周知の通りである。選挙法がらみの問題や不倫などの生活に関する問題などの「身辺問題」や、個人情報をさらす文書の公開や的外れの失言などの失態について、共産党議員の話は、あまり聞かない。国民の多くが必要だと考えている日米安保体制に真っ向から反対を唱えているため、国政において大きな勢力を築いたことはない。しかし日米安保体制の評価が関係ない地方議会においては、共産党が巨大な勢力を持っていることも、よく知られている。地方議員数は2,800人以上で、特に市区町村レベルでは自民党より多い(公明党にわずかに及ばず2位)。

 テリー伊藤氏が執筆した『お笑い革命日本共産党』(1994年)という本を読んだことがある。テリー伊藤氏が、冷戦が終焉したときこそ、最も注目すべき躍進が期待される政党は共産党だ、という主張をされていたと記憶している。テリー伊藤氏の主張(もともと少しおどけたトーンが含まれていたわけだが)は、必ずしも現実のものになったとは言えない。しかし共産党が依然として日本の国政で独特の存在感を持っていることは、否定できない。

 日本共産党の歴史には、裏話としてしか語られない様々な暗部がある。「代々木」と呼ばれていた時代を体感として知っている世代には、特にそうだろう。鉄の結束のようなものを感じさせる反面、個人プレーがなく、長期に渡る同一党首の君臨とスター議員の不在が、構造的な問題ではある。最近では、政党交付金拒絶の伝統を、『赤旗』購読者激減の時代の中で、どう維持していくか、と言った問題に直面しているとも言われる。だが何と言ってももったいないのは、共産党の外交政策観だ。

しかしひとたび改憲がなされてしまったら、どうだろうか。自衛隊の合憲性のみならず、日米安保体制の合憲性も明確になる改憲がなされてしまったら、どうだろうか。共産党も、改憲の暁には、新憲法に従うしかないのではないだろうか。その時は、共産党にも、新しい時代が訪れるだろう。

 あやふやな憲法学通説の怪しい権威に訴えて自らの政治勢力の温存を図る勢力によって、日本の政治は停滞している。改憲が果たされれば、国政に新しい構図がもたらされるだろう。

 2年ほど前に、「改憲の鍵を握るのは、枝野幸男氏だ」http://agora-web.jp/archives/2029204.html という文章を書いたことがある。野党勢力は、軍国主義を防ぎたいというのであれば、私の本でも読んで国際法による自衛権の制約をよく勉強していただいたうえで、むやみに改憲反対だけを唱えないことが得策だと思う。

https://www.amazon.co.jp/憲法学の病-新潮新書-篠田-英朗/dp/4106108224/ref=sr_1_2?qid=1574423318&s=books&sr=1-2 

  この週末は、「桜を見る会」と「沢尻エリカ」のどちらがTVのワイドショーの枠を多くとるかが、大きな関心事だったという。時事通信の「思いやり予算4倍増要求」(河野大臣が週末の間に否定)報道をそこにぶつけたい、という意見もあったという。

 私個人は、日頃から日本のテレビは扱わないニュースを追っている人間なので、「テレビのワイドショーは何に時間を使うべきか」は、苦手なテーマである。

もっとも、文字媒体で見る限り、少しは取り上げられたニュースが、取り上げられなくなっているように感じるのは、気になる。

 中国当局に拘束されていた北大教授が解放された。

中国問題の専門家ではない私ですら、国際平和活動を扱う中国における会議に招待されたことはある。同業者として関心を持っていた。まずは無事な解放に安堵したい。

しかし、状況に関する情報が全く出てこないのは、歯がゆい。

中国当局への配慮もあるのだろう。関係者は、騒がないでほしい、と思っていることだろう。だがそれでいいのか。

もちろん、中国は、日本の約3倍の経済力を持ち、アメリカに匹敵し始めた軍事力を持つ超大国だ。ワイドショーを見ない私も、それを知らないわけではない。

しかし、だからといって、香港、チベット、新疆ウイグルといった問題をとにかく徹底的に封印し、満面の笑みで国賓来日の習主席を迎える、といった態度を世界中のニュースメディアに流すことが、日本外交の長期的な利益になるだろうか。

日本のテレビのワイドショーは、そういう話題は取り上げていないのかもしれないが、世界的には取り上げられている。https://www.nytimes.com/interactive/2019/11/16/world/asia/china-xinjiang-documents.html?smid=nytcore-ios-share&fbclid=IwAR12HnXhAWH1fQgXrxxHJgXcrSQ1wWmomMXFU2D9tAKgdkGcL7es4Jx-Zuw 

できれば、せめて「ロヒンギャ問題の解決に向けて日中で一緒にミャンマー政府に働きかけよう」、といった提案でもして、その点をインドやバングラデシュでのニュースで取り上げられるようにもしてもらえないだろうか。

アムネスティを通じて、「林鄭月娥・香港特別行政区行政長官」宛のアピール文に署名をした。

https://www.amnesty.or.jp/get-involved/action/hk_201910.html?fbclid=IwAR3lkzOjoUG4AiKzxv-nrpctSI2yeaI8GtlcfeWvF-5jsHfX0t1eT0shU_8 だが私のような人間が署名をしているくらいでは、全く足りない。こういう国際的なリベラルの訴えは、日本では響いていない。

自民党の有志議員のグループ「日本の尊厳と国益を護(まも)る会」が、習近平・国家主席の国賓来日に反対する決議を出し、岡田直樹官房副長官に決議文を手渡したという。青山繁晴・参院議員を代表幹事とするグループは、自民党の中でも保守派で知られる。だが他の論点に関する彼らの個々の政策的立場は、ここではどうでもいい。

岡田官房副長官が、決議文の内容を安倍晋三首相と菅義偉官房長官に伝えるとした上で、「自民党の反対論や国民の中にある賛成できないという気持ちを無くせるよう、官邸一体となって努力する」と語った、というのが重要だと思う。

今から国賓来日を中止するとなれば、相当な判断になる。簡単にはできないだろう。だがこうした意見を、国会議員やその他の人々が表明することは、当然ではないのか。決議文に書かれていることは、至極真っ当である。https://www.sankei.com/politics/news/191113/plt1911130018-n1.html  

日本のいわゆる「知識人」たちも、もう少し他国の人権問題などに目を向けてみたらどうだろうか。世界の人権問題のために、「リベラル」派も時には保守派と意見を一致させてみたりする度量を見せたらどうだろうか。

野党勢力も、「桜を見る会」が「沢尻エリカ」に負けることを心配する層だけではなく、ワイドショーを見てない国民からも応援してもらうことを、もう少しくらいは考えてみてもらえないだろうか。

「桜を見る会」は巨大な疑獄だ!と叫んだりするだけでなく、「タレントと桜を見て人気取りをする暇があったら、首相にも、国益をもっと真剣に考える時間を作ってほしい」、とでも述べて、支持層を広げてみようとする野党党首はいないのだろうか。

↑このページのトップヘ