「平和構築」を専門にする国際政治学者

篠田英朗(東京外国語大学教授)のブログです。篠田が自分自身で著作・論文に関する情報や、時々の意見・解説を書いています。過去のブログ記事は、転載してくださっている『アゴラ』さんが、一覧をまとめてくださっています。http://agora-web.jp/archives/author/hideakishinoda なお『BLOGOS』さんも時折は転載してくださっていますが、『BLOGOS』さんが拾い上げる一部記事のみだけです。ブログ記事が連続している場合でも『BLOGOS』では途中が掲載されていない場合などもありますので、ご注意ください。

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過去のブログ記事(『アゴラ』) http://agora-web.jp/archives/author/hideakishinoda

 安倍首相は、47日の非常事態宣言会見の際に、「東京都では感染者の累計が1,000人を超えました。足元では5日で2倍になるペースで感染者が増加を続けており、このペースで感染拡大が続けば、2週間後には1万人、1か月後には8万人を超えることとなります」、と発言した。

 前回書いたように、東京都の累積感染者数が1,000人を超えたのは、45日のことで、1,032人であった。http://agora-web.jp/archives/2045379.html?fbclid=IwAR2G-8odabRWow54joc7u7eQfwswVxQkdoJs55gxPGpUvWU0PZHGmWmZRWQ 412日は、ちょうどそこから1週間がたった日だ。累積感染者数は、2,068名となっている。

 47日からの5日間を見ると、約73%増で、「足元では5日で約1.73倍になるペース」である。ちなみに今週の新規感染者数は、先週の新規感染者数の1.72倍である。倍増は7日かかる。

 果たして「2週間後には1万人、1か月後には8万人を超えることとなります」、という予測は妥当だっただろうか。

 確かに、一つ前の週の330日~45日の一週間は、前の週から2.4倍の増加を見せていた。新規感染者数では、2.06倍だった。緊急事態宣言が発出される直前の週は、増加率が高かったわけである。しかし今週の感染者増加率は鈍化している。

 ちなみに323日~329日の週の増加率も非常に高い3.1倍で(週単位の新規感染者数は6.08倍)、その前の3月16 日~322 日の週の1.5倍の増加率(週単位の新規感染者数は1.84倍)から大きな変化を見せていた。この大きな増加の中で、小池東京都知事が、3月25日に外出自粛を求める会見を行った。

 Googleモビリティを見ても、325日小池都知事会見の後には、東京(及び近郊県)では、かなり目立った人の移動の減少があったことがわかる。http://agora-web.jp/archives/2045275.html?fbclid=IwAR3Wf-Gj_TuvLDk0pIIyn1XB4W2Ln5VF2OQkAxmRFtRnxaYw454BPp0SqQw 

日本全体の傾向も見ておこう。https://gis.jag-japan.com/covid19jp/?fbclid=IwAR2qWjCDnAI3mCV-B5m8pJzfUb9_R3WDdYlFytzJvAzmHg_orWR51JRiWEs )。

 日本全体では、46日~12日(現在の測定値)の週は1.85倍の増加(週単位の新規感染者数は1.67倍)、330日~45日の週は204倍の増加(週単位の新規感染者数は2.50倍)、323日~329日の週は1.71倍の増加(週単位の新規感染者数は2.78倍)、316日~322日の週は1.33倍の増加(週単位の新規感染者数は0.88倍)であった。ゆるやかな推移ではあるが、基本的には、東京とほぼ同じような傾向を示している。

224日に新型コロナウイルス感染症対策専門家会議が出した「今後2週間が急速な拡大に進むかの瀬戸際」という見解を受けて、安倍首相が学校の一斉休校要請を打ち出したのが227日だった。その後の3月半ばまでの2週間は東京を含めて全国的に増加率が抑えられていた。ところが3月の後半は、東京が牽引する形で、全国的に増加率が上がった。そして、325日小池東京都知事会見の効果が出始めた今週に入って、鈍化がみられるようになった。

 ところで、最近、巷では、「今の東京は2週間前のニューヨークだ」という言説が洪水のようにあふれた。しかし現在の東京の累積感染者数は、(人口比も加味すると)ニューヨーク市の313日頃の水準である。「4週間前」だ。しかもその頃のニューヨーク市は、12日に倍増のペースを続けていたので、現在の東京都の増加率とは全く次元の異なる世界であった。

 もちろん、私は、世界最悪のニューヨークと東京が違うからといって、東京が安心できる状況にある、と言いたいわけではない。世界全体の累積感染者数はこの1週間で120万から180万人と50%増のペースで、週単位の新規感染者数でもスピードは鈍化してきている。現在、東京(日本)は、世界平均より速いスピードで増加している。

 さて西浦理論にもとづいた安倍首相の緊急事態宣言には、東京都が「2週間後には1万人、1か月後には8万人」の悲観的な予測が一つ、「人と人との接触機会を最低7割、極力8割削減することができれば、2週間後には感染者の増加をピークアウトさせ、減少に転じさせることができます」という楽観的な見通しが一つあった。インフレ気味に厳しい現状認識と、すぐそこにあるかもしれない明るい未来提示の二つの要素があった。

 私は、この二つの要素の関係に、疑問を持っている。

安倍首相の緊急事態宣言会見の冒頭で示された目的説明である「医療崩壊を防ぐ」は、増加率をふまえた感染者数予測と、現在及び近い将来の医療能力とを比較することによって計算されてくるはずだ。本来であれば、その計算にもとづいて、人と人との移動の制限の範囲の妥当性もまた、政策的に見極められるはずである。

 しかし西浦理論にもとづく安倍会見は、「8割削減」で「2週間後には感染者の増加をピークアウトさせ、減少に転じさせる」という野心的な目標も挿入した。西浦教授が示したグラフの影響も大きくり、巷では、「8割削減」は、コロナ危機の「収束」として語られている。https://www.nikkei.com/article/DGXMZO57610560T00C20A4MM0000/?fbclid=IwAR0FLPQr3uOlBDUvGfYgBKCfvMH3ksABAtgE6HVkxxxEVQ4144d6lQ-auL4 

 わかりやすく言おう。「医療崩壊を防ぐ」は「長期戦」に即した目標である。「2週間後には減少に転じさせる」は早期の収束を目指した「短期戦」に即した目標である。

 現在、緊急事態宣言下の日本人は、「長期戦」の目標と「短期戦」の目標を同時に掲げて、がむしゃらに努力することを求められている。

果たしてこれは何を意味するのか。

今、日本は、「8割削減」を掲げて、「医療崩壊を防ぐ」ことを達成しようとしているのではないだろうか。これはこれで妥当である。(「8割削減」について、西浦モデルとは違うモデルを用いると、そうなる。)https://medium.com/@mmcat/モデリングから考える長期的なcovid-19戦略-fe4ed42f6698 

しかし、そのために、なぜか「長期戦」と「短期戦」が混同されるような説明がなされた。

この説明では、「短期戦」を終えたと思ったとき、「実は長期戦でした」と言われて国民の疲弊が高まる、というリスクがあるのではないだろうか?

この問いに答える手がかかりを考えるためには、さらに楽観論の部分についての検証も必要なのだが、それはまたの機会に譲る。

今回の検証では、東京都の感染者数が「1か月後に8万人」でなければ緊急事態宣言の効果があったと言える、というわけではなさそうであることについて、とりあえずの示唆をした。

 

    なお前回の「緊急事態宣言・西浦モデルの検証(410日)」について、日本の感染者数は検査数が少ないので信用できない、という指摘を受けた。しかし、私が行っているのは、緊急事態宣言の時点からの増加率の検証なので、感染者の絶対数の信ぴょう性は基本的にあまり関係がない。検査が一貫したやり方で行われていれば、傾向は判明するはずである。そもそも安倍首相の緊急事態宣言も、同じ統計を根拠にしている。ただし、もちろん検査対象が飽和状態になってくればくるほど、統計が意味を失うことはあるだろう。たとえば検査対象の陽性率が100%となってくるような場合には、増加の傾向を考えることは無意味になってくる。その点は、留意点として、付記しておく。

  安倍首相は、47日の非常事態宣言会見の際に、次のように述べた。すでに以前に指摘したように、西浦博教授の理論に依拠した発言である。

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 東京都では感染者の累計が1,000人を超えました。足元では5日で2倍になるペースで感染者が増加を続けており、このペースで感染拡大が続けば、2週間後には1万人、1か月後には8万人を超えることとなります。しかし、専門家の試算では、私たち全員が努力を重ね、人と人との接触機会を最低7割、極力8割削減することができれば、2週間後には感染者の増加をピークアウトさせ、減少に転じさせることができます。

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 東京の感染者累計が1,000人を超えたのは、45日で、1,032人あった。331日には521人だったので、確かにほぼ倍増していた。ところで45日から5日して、東京の総感染者数は倍増しただろうか。連日の「最高数」の報道でやや異なる印象を受けている方もいらっしゃるかもしれないが、410日現在の累計感染者数は1,708人なので、5日間で7割弱の増加率にとどまった。

 もっとも、東京の場合には週末に検査を実施しない医療機関が多いため、週の初めの感染者の数が低く集計される。そこで7日単位で見てみるとどうなるだろうか。43日は773人だったので、410日までの一週間で2.2倍の増加である。これに対してその一週間前の327日は299人であったので、そこからの一週間で2.58倍の増加だった。やはり最近の一週間の増加率は、鈍化している。

ちなみに129人だった320日からの一週間の増加率は2.3倍、77人だった313日からの増加率は1.6倍、58人だった36日からの増加率は1.3倍だった。

それより以前の東京の感染者数は数が小さすぎて統計的な意味を失ってくるので、2月下旬からの日本全体の推移を見てみよう。

https://twitter.com/jburnmurdoch/status/1248354297177419776/photo/1

John Burn-Murdoch/Financial Timesのデータ)

症例百件目以降の日数と累積感染者数を示す「片対数スケール」のグラフである。増加率の様子がわかるものである。

日本(Japan)の場合には、累積感染者数が100人をこえた223日が起点となっている。日本の場合には、基調として一週間で倍増のペースだったが、20日目の315日あたりから増加スピードの鈍化が見られる。

224日に新型コロナウイルス感染症対策専門家会議が出した「今後2週間が急速な拡大に進むかの瀬戸際」という見解を受けて、安倍首相が32日からの学校の一斉休校要請を打ち出したのが227日だった。その時期から、ほぼぴったり、潜伏期間である2週間がたった315日頃から、増加率の鈍化が始まっていたわけである。ただし日本全体でも、現在、この傾向は、一週間で倍増のペースに急速に戻している。

すでにみたように東京に限ってみても、3月中旬の増加率は低く、「気が緩んだ3連休」の結果が出てきた4月に入るところで感染者数の増加が見られる。東京に限って言えば、325日小池都知事記者会見の効果が見られるかもしれない時期になってきたところで、増加率の悪化は食い止められ始めている。

ウイルスの蔓延の傾向は、「一日何人増加」だけ見ていては、わからない。むしろ感染者が100人しかいない時の1100人増加と、感染者がすでに1,000人いる時の11,000人増加が、増加率の観点からは、同じである。毎日毎日ゼロからやり直すわけにはいかないのである。市中の感染者数は常に増えているので、ある週の新規感染者数が、前の週の新規感染者数を下回る、というのは、よほどのことがないと起こってこない。欧米諸国は、血みどろの努力を数週間続けて、なかなかその段階に至れない。

いずれにせよ安倍首相が「足元では5日で2倍になるペースで感染者が増加を続けており」という認識表明は、実は専門家の助言を受けたとは思えないほど、大雑把なものだった。「このペースで感染拡大が続けば、2週間後には1万人、1か月後には8万人を超えることとなります」という安倍首相の東京都の状況見込みは、今後どうなっていくのだろうか。

さて、「西浦モデル」の特徴は、「放っておけば急激な拡大」を予告する反面、人の移動を「8割減少」させれば感染者数も急激に減少する、と予言していることである。これを受けて安倍首相は、「2週間後には感染者の増加をピークアウトさせ、減少に転じさせることができます」とまで言った。

これはかなり大胆な発言だった。実際、その後にもっとも論争を巻き起こしたのは、この点だった。

より厳しい措置をとっている欧州諸国を見ても、なかなか新規感染者数の減少すら果たせていない。安倍首相の発言は、現実に挑戦する大胆な発言であった。

安倍首相の発言は、西浦博教授のモデルに基づいている。https://www.nikkei.com/article/DGXMZO57610560T00C20A4MM0000/?fbclid=IwAR3U7Zh8naAM0xSijpQ1bfMGFO_pgYhPjniOT34Qod-SgVVfmvj3iRG5NGU

 しかし前回も書いたように、佐藤彰洋・横浜市立大教授(データサイエンス)は、「東京都の場合、公共交通機関の乗車時間と面会する人数を各個人が98%減らす必要」があるという記事を毎日新聞に出した。福岡なら、99.8%の削減が必要である。http://agora-web.jp/archives/2045340.html?fbclid=IwAR3AYOqopqSK7PGSLP22c8vMuUg-raJNmI9av3KLCQn6Z8Z5tg2L3qq3XFA

 別のロンドン在住の日本人研究者の方も、「8割削減」の極めて限定的な効果を試算している。

https://medium.com/@mmcat/モデリングから考える長期的なcovid-19戦略-fe4ed42f6698

私にはこの方の試算や、そもそもの考え方のほうが現実的であるように感じる。

 安倍首相の会見の大枠は、医療関係者への謝意と称賛で始まり、緊急事態宣言の目的を「医療崩壊を防ぐ」点に置くものだった。私は社会科学者として、この目標設定を明確かつ妥当なものだと感じている。

ところがなぜか、会見の途中で、その目的とどう論理的に結びつくのかは必ずしも判然としない「西浦モデル」にもとづく、厳しい現状認識と、楽観的な収束への道筋まで示されてしまった。

 池田信夫氏は、安倍会見のこの部分を「ギャンブル」と呼んだ。http://agora-web.jp/archives/2045327.html いずれにせよ緊急事態宣言の大きな試金石の部分だろう。

 ここ最近、医学の専門家の方々が、社会運動家してきているのが目立つ。社会的使命を感じて行動されているということなのだろうが、非常に特異な状況になってきていると感じる。

 時の人と言ってもいい「クラスター対策班」の西浦博・北海道大学教授については、私はしばらく前に、こう書いたことがある。

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 今、日本において、西浦教授ほど重要な人物は他にいないのではないか。私が政治家なら、即座に巨額の研究資金を西浦教授に預けるために奔走する。http://agora-web.jp/archives/2045006.html 

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 私がこう書いたのは、全国の保健所の方々が持っている情報などを集積・分析して進める研究には、相当な労力が必要だ、と思ったからだ。しかし私の期待は外れた。

西浦教授は、もっぱらメディアやSNSを通じた発信や政治家への影響力行使に関心があるようだ。個人ツィッターでの濃厚なやりとりだけでなく、新規に開設した「新型コロナクラスター対策専門家」というアカウントでは、非常事態宣言を通じて人の移動を8割減らそう、という運動系の話が中心になっている。

安倍首相は、47日の非常事態宣言会見の際に、次のように述べた。

 ――――――――――――

 東京都では感染者の累計が1,000人を超えました。足元では5日で2倍になるペースで感染者が増加を続けており、このペースで感染拡大が続けば、2週間後には1万人、1か月後には8万人を超えることとなります。しかし、専門家の試算では、私たち全員が努力を重ね、人と人との接触機会を最低7割、極力8割削減することができれば、2週間後には感染者の増加をピークアウトさせ、減少に転じさせることができます。

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 これは西浦教授の理論を信じて安倍首相が非常事態宣言を発令したことを意味している。「西浦理論」と言えるのは、これが43日の日本経済新聞に出た西谷教授のモデルの話だからである。https://www.nikkei.com/article/DGXMZO57610560T00C20A4MM0000/?fbclid=IwAR3U7Zh8naAM0xSijpQ1bfMGFO_pgYhPjniOT34Qod-SgVVfmvj3iRG5NGU 

 日本経済新聞に掲載されたグラフは、西浦教授が提供したもので、架空の条件にもとづいた抽象的な試算モデルだ。東京の未来を試算したグラフではない。それを日本経済新聞があえて東京の未来の予言としてしか読めないような記事に入れこんだ。ただし、この記事が西浦教授の意図で掲載されたものであったことは、「新型コロナクラスター対策専門家」ツイッターで西浦教授がこのグラフの解説を行ったことによって明らかになった。

 日本経済新聞の記事の問題性については、私も一度書いたことがあるし、http://agora-web.jp/archives/2045258.html 池田信夫氏も複数回にわたって書いている。http://agora-web.jp/archives/2045256.html  http://agora-web.jp/archives/2045327.html 

 一言で言えば、東京の今後について書かれた記事に掲載されたグラフは、東京の今後についてのグラフではなかった、ということである。

 早く緊急事態宣言を出させる圧力が正義だという風潮の中で、とにかく地獄のシナリオと克服のシナリオを国民や首相に見せることが正義だという思惑があったかのように感じざるを得ない、不思議な記事だった。

  自民党の二階幹事長が「8割削減なんてできるわけない」と発言したことがニュースになった。これは西浦教授⇒安倍首相のルートで首相会見に入ってしまった内容について、自民党が不満を感じていることを示唆しているように見える。https://headlines.yahoo.co.jp/videonews/jnn?a=20200408-00000057-jnn-pol&fbclid=IwAR2LhEt65yTZmxdjiJ6jQgQeBqiWNZK8wmi2KzcV07P0hdhPdVGbUxw83_U 

確かに、そもそも首相会見の冒頭の「医療崩壊を防ぐために緊急事態宣言をする」という説明だけなら、「人と人との接触機会を8割削減」は不要だった。人工呼吸器の数と、「人と人との接触機会を8割削減」は、論理的に結びついていない。

8割削減」は、西浦教授のルートが首相に結びついて挿入されたものに見える。だから、当然、自民党は不満だろう。

西浦教授は、自らを「専門家」と呼んでいるが、今や完全に永田町の重要政治アクターになっている。

大きな政治論点になっている、西浦/日経/安倍理論の中身について整理しよう。

    東京では、感染者数が千人を超えた45日の2週間後の419日に感染者数が1万人になる。非常事態宣言の効果は2週間現れないので、この予測は絶対である。<計算上、410日金曜に少なくとも2千人を超え、415日水曜には少なくとも4千人を超えて、419日までに1万人を超える。一か月後に8万人になるかどうかは緊急事態宣言後の情勢次第だが、東京において4102千人、4154千人、4191万人は、絶対である。1億2千万人に影響を与えた問題である。恐らく西浦教授が学者生命を賭けて絶対視している予測だろう。>

    非常事態宣言の「10日後~2週間後」、感染者数は、劇的に減少し始める。つまり418日~22日頃、累積感染者数は6分の1程度になる。

    そこから20日経過した58日~512日頃には、コロナ危機はほぼ収束する。

 上記のうち、①は絶対に発生する事柄である。②・③には条件がある。「人と人との接触を8割削減する」ことである。

 もっとも日本人同士の接触が一カ月ほど「8割削減」されると、日本列島においてコロナウイルスが撲滅される、ということが、本当に科学的に証明されているのかどうか、私は知らない。西浦教授がそれを学術的に証明する論文を書いたのかどうかも、私は知らない。
 むしろ欧米諸国の様子を見ると、交通利用者を8割減らすと「10日後~2週間後」に劇的に減少が始まる、などということは言える実例は皆無であるように見える。

佐藤彰洋・横浜市立大教授(データサイエンス)は、「

東京都の場合、公共交通機関の乗車時間と面会する人数を各個人が98%減らす必要」があるという記事を毎日新聞に出した。

https://mainichi.jp/articles/20200407/k00/00m/040/269000c


 しかしいずれにせよ、「西浦理論」の「8割削減」を目標にして、一カ月の緊急事態宣言が運用されることが明言された。12千万人の日本国民に、この「西浦理論」だけにもとづく課題が与えられた。

私は「医療崩壊を防ぐ」という目標は、社会的意義と内容が明確で、良い目標だと考えている。しかし「8割減少」は、架空の条件下の抽象モデルの話を、具体的な日本の現実に強引に当てはめようとするだけの考え方で、果たして現実的な意味があるのか定かではないと思っている。

 私はむしろ、「8割削減」というのは、架空のモデルに即した極度に抽象化された目標なのではないか、と疑っている。真面目に現実にあてはめようとしても、測定不可能な政治スローガンとしてしか働かないのではないか、と疑っている。ある人は渋谷の街の歩行者の数を見て「8割」を測定しようとするし、別の人は自分が一日に会った人の数で測定するし、また別の人は他人と話した時間の長さで測定するかもしれない。そもそも「三密の回避」を重視する立場からすれば、「人と人との接触」の感染リスクは、接触の様態によって大きく変わる。「8割削減」を機械的な数値で一律測定するなどという「質」を無視した考え方と、「三密の回避」には、根本的な矛盾すらある。

 仮に実現不可能であるだけでなく測定不可能なスローガンであるとしても、「まあ後で一人でも感染者が減れば、それでいいじゃないか、国民はなるべく焦らせるべきだ」、という意見もあるのかもしれない。

 しかし、非常事態宣言によって経済は停滞し、財政赤字は膨張し、失業者が増大し、数多くの人々が経済的苦境を経験する。政治家なら、「まあ、一人でも感染者が減ればそれでいいじゃないか」、という態度はとれない。巨大な「責任」を背負うのだ。政治家に影響を与えた「専門家」も、当然、「責任」を負うと考えるべきだろう。

 われわれ社会科学者は、通常、自分の発言には社会的責任がある、と考える。明言したことが事実と異なれば、社会的責任を負う。あるいは、わからないことをわからないと言い、推測であれば推測でしかないことがわかるように言う責任を負っている、と考える。

 「専門家」の予測にも当然責任がある。まして自ら積極的にマスコミ・SNS・政治家に働きかけたというような経緯があったのならば、なおさらだ。

このことは、事態の推移を見守りながら、今後時間をかけてしっかりと検証していく必要がある事柄だと考える。

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