トランプ米国新大統領について、繰り返し「孤立主義」という概念で描写する試みがなされている。だが過激な発言で知られるトランプ大統領が「孤立主義」というのは、どういうことだろうか。

TTP(環太平洋戦略的経済連携協定)からの脱退の政策が、国際協調主義からの撤退を意味すると解釈され、「孤立主義」と描写されたりするようだ。だがトランプ大統領は、英国や日本との間に二国間貿易協定を結ぶことを目指しているようであり、単なる「孤立主義」者には見えない。安全保障の言葉を借用すれば、「ハブ・アンド・スポークス」(アジア・オセアニアのように米国を中心とする二国間安全保障条約によって自転車の車輪のような形で安全保障体制が作られている仕組みを指す)の形態がとられるかもしれないということだ。

TPPは、自由貿易を推進する仕組みではあったのだろうけれども、域外から見ればブロック経済のようなものであった。中国を包囲する諸国の関税同盟としての政治的性格を持っていたことは否めない。トランプは、実際の経済的利益を自由貿易体制から求めるという方針だ。

トランプ大統領の政策を歴史的観点から検証する際に、「内向き」な「孤立主義」としての「モンロー主義」が参照されることもある。だが19世紀「モンロー・ドクトリン」の時代とは、アメリカが北米大陸において拡張に次ぐ拡張を遂げていた時代だ。メキシコに戦争を仕掛けてテキサスなどを獲得し、ネイティブ・インデイアンを虐殺し、強制移住させ、19世紀半ばまでに太平洋岸まで支配地域を拡張させた。その後も、南北戦争後の南部諸州の軍事占領をへて、ハワイなどの太平洋諸島を占領・併合し、米西戦争をへてフィリピンも植民地化した。モンロー・ドクトリン時代のアメリカは、ヨーロッパ列強との「錯綜関係回避(non-entanglement)」の原則を採用しつつ、「新世界」における米国の覇権を自明視していた。

ウッドロー・ウィルソンにとって第一次世界大戦後の「国際連盟」は、モンロー・ドクトリンの地理的適用範囲をヨーロッパにまで広げようとする試みであった。冷戦構造下の「トルーマン・ドクトリン」も、地理的範囲が拡大させた「モンロー・ドクトリン」の応用であったと言ってよい。(篠田英朗「重層的な国際秩序観における法と力:『モンロー・ドクトリン』の思想的伝統の再検討」、大沼保昭(編)『国際社会における法と力』(日本評論社、2008年)、231274頁。)

トランプ政権は、単に内向きになって孤立しようとする政権であるようには見えない。「アメリカ・ファースト」のスローガンとは、アメリカ国民が利益を享受できるように自由貿易体制を運営していきたいという意思表明のことだ。そして安全保障面に着目すれば、トランプ政権は、「対テロ戦争」を断固として戦い抜き、勝ち抜こうとする立場だ。「内向き」「孤立主義」といったマスコミ用語に惑わされてはいけない。