中満泉さんが国際の軍縮担当上級代表に就任するというニュースが入ってきた。事務次長(Under-Secretary-General: USG)の職階にあたるポストである。副(Deputy)事務総長が事務総長(SG)の補佐役であるため、局長級にあたるUSGが、国連システムの中では自分の「城」を持つ実力者の階層である。個人的には、中満さんはそろそろフィールドに戻って昇進する可能性もあると思っていたが、日本のメディアで報じられている、「日本人女性初の本部事務次長」という点にも意味はあるだろう。祝福したい。
 われわれの「業界」からすると、中満さんは「JPO(Junior Professional Officer)」制度(P-2という国際職員としてはエントリーレベルで加盟国が費用負担をする形でポストを作って自国籍の人物を二年程度国連システムに入れる制度・欧州諸国や日本や韓国が行っている)で国連システムに入り、たたき上げでUSGまで登りつめた人物になるという点が、大きい。
 私が代表をしている「広島平和構築人材育成センター(HPC)」が現在手掛けている研修の中に、「JPO赴任前研修」があるが、中満さんには毎年ビデオメッセージという形で研修に花を添えてきていただいている。中満さんが日本で研究職のキャリアを積んでいた際には、実際に研修会場で講師として貢献もしてもらった。ニューヨークに行って時間の余裕のある際には、お会いしてお話をうかがっている。
 中満さんの昇進でASG(Assistant-Secretary-General)の職階に日本人はいなくなってしまったかもしれないが、それに次ぐD2ポストに邦人女性が複数名いる。中満さんを含めて彼女たちに共通していることの一つは(もちろん能力の高さや人格の高潔さは当然として)、実は、日本人ではない伴侶を持っていることだ。そのことが何を意味しているのか、簡単には言いにくいが、あなどれない事実ではある。
 なおUSGの職階は、明石康さんが最初の日本人国連職員という立場からUNTAC(カンボジアPKO)特別代表職に就任したときに経験し、緒方貞子さんもUNHCR(難民高等弁務官事務所)高等弁務官職で経験した。両名は、日本でもわりあい有名だろう。その他のUSGには、外務省から転出してきたパターンが多く見られる。
 日本国内の「天下り」ポストが減り、霞が関の人事体系も、微妙な変質をしてきている。たとえば現在、文科省が大学に新しい天下り先を開拓したことが、問題になっている。気をつけたいところだ。
 国連では、高位のポストには、「政治的な押し」が必要だ。最近は、閣僚経験者などの政治家層がUSG以上のポストについているくらいだ。現在のグテレス事務総長は、UNHCRの高等弁務官になる前は、ポルトガルの首相だった。日本の政治家で、国連高位ポストに関心を持っている者は、皆無ではないだろうか。となると、外務省員、というのは、わからないではない。加盟国政府職員から転出してくるパターンが少ないわけではない。しかし政治家の方々には、自分が立候補するのでなければ、より政治的な配慮をもって、他人を推す作業に関わっていただきたい。
 日本の未来のためには、あえてたたき上げの有為な国連職員(すでに高位職についている方を見ればいい)を徹底的に推してもらいたい。たたき上げの日本人職員を昇任させることに、精力を注いでもらいたい。中満さんのような方が、次々と国連で活躍するように本国の政治家層も関心を持って関わっていくことが、日本社会を活性化させ、日本の総合的な国益にもかなうことだと、私は考える。