小野寺大臣が、北朝鮮は核保有国としての能力を持っている、と発言した。その一方で、日本としては北朝鮮の核保有を容認することはできない、という立場を明言した。率直な言い方であり、妥当だと思う。
 現状認識として、核開発がここまで進んでしまっては、北朝鮮に核廃棄をさせるのは困難である。巷では、軍事的圧力だけではなく外交交渉を進めろ、といった抽象的主張が横行しているが、外交交渉をするのは簡単ではない。在韓米軍の撤退くらいの手土産を用意するのであれば、話は別だ。だが北朝鮮に譲歩する形で撤退したら、朝鮮半島の力学に大きな転機をもたらし、新たな問題を引き起こすことが懸念される。
 小野寺防衛相が述べているように、北朝鮮が核武装をしていること自体は、もはや一つの事実である。したがって、米国とその同盟諸国が抑止効果を狙った対策をとっていること、北朝鮮がすでに抑止効果を持つ手段を保有したと自負していることは、すでに発生した事実のことである。北朝鮮に対する抑止策とは、現在すでに存在している仕組みのことなのである。ただ、抑止策だけで、実験・開発を止めさせることはできない、ということだ。
 この状態は、次のいずれかが実現するまで、続くだろう。何らかの状況の変化による劇的な外交交渉の進展、北朝鮮における体制転換、戦争の勃発、のいずれかである。現状では、これら三つの全てについて、準備をしておかなければならない。
 北朝鮮を核保有国として容認するかどうか、という問いは、今後も核廃棄を北朝鮮に対して求め続けていくか、という外交姿勢の問題である。私自身は、求め続けていくべきだと考えている。そのため、「異次元制裁」を実施できるかどうかが、当面の課題だと考えている。制裁に限らず、中国を取り込めるかどうかが、大きな鍵である。(『現代ビジネス』寄稿の拙稿http://gendai.ismedia.jp/articles/-/52841
 最近、スーザン・ライス元国家安全保障担当大統領補佐官や、ロバート・ゲーツ元国防長官ら、オバマ前政権時代の高官が、北朝鮮を核保有国として認めたうえで、制限管理策に関する合意を模索するべきだ、という見解を表明している。だが実は制裁以上に中国が合意するか不明な政策方針であり、簡単に実現し、維持できる見込みがあるわけではない。無策だったと批判されているオバマ前政権時代の高官の発言だ、と理解せざるを得ない。
 容認論の延長線上で、韓国と日本の核保有が議論される。日本国内にも、核兵器を保持すれば、現状が打開できるのであれば、それでいいのではないか、といった議論が見られる。だが本来は核抑止とは、非常に複雑な仕組みである。日本がただ一つや二つ核兵器を開発すれば、それで全て安定するというわけではない。これほど非対称かつ不安定な状況で、核抑止体制が構築された前例はないのではないか。むしろリスクが高まる恐れがある。
 事態を打開する簡単な方策はないと認めた上で、安易な仮説に飛びつく誘惑には警戒したい。