安田純平氏が記者会見を開いた。安田氏についてブログ記事を書いた直後だったので、http://agora-web.jp/archives/2035452-2.html 私も会見の内容を見てみた。いくつか興味深い点があった。
 
私が「三つの謎」とブログで書いたことのうち、一つ目の拘束の目的に関する謎については、示唆があった。 やはり政治的主張や経済的利潤が当初の拘束の目的ではなかったようで、スパイの疑いも持たれたうえ身柄を拘束され、一か月してから初めて「正式に人質であると言われ」たことが、語られた。
 
安田氏は、自分が拘束されていた場所が「ジャバル・ザウイーヤ」であることを聞いていた。これによってかねてから言われていたとおり、拘束場所が反政府勢力の最後の砦となっているイドリブ周辺地域であることが、確かになった。
 
安田氏を拘束した勢力は「新興」アル・カイダ系勢力の「フッラース・アル・ディーン」だといった話があったが、安田氏の証言から、その可能性が高まった。リーダーの様子や、トルキスタン部隊との関係についても、明らかになった。トルキスタンとは、新疆ウイグル系の人々の存在を意味する。ちなみに中国政府は、シリア領内のウイグル系の勢力の除去に動いており、アサド政権を強く支援している。安田氏の発言の詳細に、中国政府も注目していることだろう。
 
驚いたのは、安田氏が、シリアに入国してすぐに拘束された経緯だ。武装勢力系の有力者に身をゆだねるような画策をして武装勢力に拘束された安田氏の経験には、目を見張る。
 
どのような人々が反政府武装勢力の中で戦っているか知りたかった、と言う安田氏の取材の目的は、単なる戦地の取材ではない。いわば武装勢力の構成員の身辺調査だ。戦争被害の現場を見るといったレベルの戦地の取材とは、次元が違う。スパイだと疑われても仕方がない。
 
おそらくフリージャーナリストとしての境遇では、本当の大々的な準備を要する戦地取材は、できない。少なくとも国際的な競争に耐えられるような取材はできない。そこでフリージャーナリストは、武装勢力内部への潜伏取材のような行為に及ぶのではないか。
 
いわゆる自己責任論では、フリージャーナリストがこうした危険な取材をすることの是非が議論されたようだ。安田氏は、自らの自己責任について肯定をする発言をして、お詫びと感謝の念を表明した。
 
違和感を抱くのは、自己責任論を批判する人々が、実際には日本政府の怠慢を批判するだけであったことだ。政府は、渡航制限をかけ、情報収集を怠らないという、邦人保護の面での努力は払った。
 
何もしていないのは、フリージャーナリストが危険極まりない形でシリアに入っているのに何も組織的な支援をせず、ただ後で情報を買おうとしているだけの人々なのではないか。そしてフリージャーナリストが拘束されると、ただ日本政府批判だけを繰り返して、手ごろな日本国内の論争をけしかけて何かやっている気分にだけなる人々なのではないか。
 
今さら安田氏を非難するのは、気乗りしない。日本政府を批判することも、違う、という気がする。
 
安田氏拘束事件の教訓として問題視すべきは、フリージャーナリストにだけ危険な取材をさせ、あとは日本政府の批判をすることだけで何かしているような気持になっている人々の存在なのではないか。