安倍首相が、今月下旬にニューヨークで行われる国連総会に合わせてイランのロウハニ大統領と会談するという。極めて勇気ある行動だ。事の重要性は認識しているだろう。それでもあえて挑戦しようとする意気込みは、率直に評価したい。

 現在、日本は韓国との緊張関係を強めている。しかし中東情勢の緊迫度と比べたら、比較の対象にならない低次元の対立である。

重要なのは、日本が国際社会の重大問題を理解している国であるか、低次元の身の回りの出来事だけしか目に入らない国であるか、だ。世界の国々が、日本を前者の国だと思うか、後者の国だと思うか、が重要だ。それが結局、日韓対立の主戦場である国際世論対策にも、大きな意味を持ってくることになる。

もし日本が前者であることが明らかであれば、つまり世界平和への貢献を常に考えている国であることが明らかであれば、世界の国々は、必ず20世紀前半の歴史の問題などで日本を責めることなどしなくなる。もし日本が後者の国であるとすれば、世界の国々は、日本の主張に対して、関心を持たないだろう。

安倍・ロウハニ会談は、日本が前者の国であることを世界にアピールする絶好の機会になる。つまり近隣諸国との低次元の争いのみを他国に訴えるような国ではなく、世界の深刻な問題について苦悩し、改善に努力している国であることを示す、絶好の機会になる。

成果を出すのは、簡単ではない。

914日にサウジアラビア東部州の国営石油会社サウジ・アラムコの石油施設が攻撃を受けた事件は、日本では「原油価格の上昇がどれくらいか」、といったレベルでしか受け止められなかったようだ。あるいは、「テロ攻撃でドローンが使われるなんて新しい時代の到来だ!」などといった時代錯誤な観察まである。「イエメンのフーシー派」って何?のような、そもそも論も見受けられるようだ。

原油価格の上昇は、今後の中東情勢の進展次第だ。今どきはソマリアのアルシャバブでもドローンを保有している。「フーシー派」は、軍事用ドローンを大量保有しているし、繰り返しサウジアラビアを攻撃しているし、バブ・エル・マンデブ海峡を航行する船舶への攻撃も繰り返している。「フーシー派」の後ろ盾はイランであり、イラン製の武器でサウジアラビアをはじめとする連合軍と戦い続けている。実行犯が「フーシー派」であるかイランであるかという問いは、決して簡単に答えが出せるものではない。

米国は、今回の事件を通じて、イランへの圧力を強めようとしている。圧力の強化が、事態の打開に必要だと信じているからだ。しかしマティスもボルトンもいないトランプ政権は、ツィッターで脅かすだけで何も行動しない弱虫だと見なされ始めている。

欧州諸国は、今回の事件への対応の重要性を強調しながら、2015年核合意の状態に戻すことこそが事態の鎮静化のカギだという認識を持ち続けている。しかしアメリカを説得する方法は全く見出せていない。

イランは、事件への関与を否定しつつ、イエメン戦争における甚大な被害を容認し続けているアメリカの偽善を国際世論に訴えている。アメリカとの直接交渉に臨むことは、ありえない。だが制裁から抜け出す手立てを知っているわけではない。

ロシアのプーチン大統領が「サウジアラビア政府もロシア製のS-400地対空ミサイルシステムを購入すべきだ」という強烈な皮肉を述べたのは、米国製の兵器群が、今回の攻撃では無力であったことを揶揄してのことだが、近年のロシアの中東における影響力の高まりは目覚ましい。中国も同様に浸透を深めている。

さらに中東情勢は、イスラエルの総選挙の結果や、サウジアラビアのイエメン軍事介入の態度の如何によって、情勢は大きく変化していく。

それぞれが、自らの国際情勢分析を基盤にして、外交政策を構築しようとしている。

そこに日本はどう食い込むのか。

アメリカの同盟国であり、イランの友好国でもあることを自任する日本は、国際情勢の好転に、どう貢献するのか。

もし日本の首相が、イランのロウハニ大統領と会談した後、中東情勢については全く無知で関心を持っていないような態度を示したら、破滅的だ。

もし日本の首相が、頓珍漢なアメリカ寄りの態度や、的外れなイランへの懐柔姿勢を見せたら、破滅的だ。

もちろん起こりそうもない机上の空論を述べるわけにはいかない。そこまでは誰も日本に期待しない。しかし何も考えていない国であるかのように見せるわけにはいかない。

アメリカかイランのどちらかが譲歩したら、事態が打開できる、といった子どもじみた発想だけは、禁物である。アメリカもイランも、簡単に相手に譲歩できる状態にはない。

それでも日本は、双方の最低限の利益を計算して、最悪の事態を避けるための有効な一手を打つことができるのか。

誇張でもなんでもなく、会談の成果によって、日韓関係の緊張問題にも、大きな影響が及ぶだろう。注視したい。