新型コロナの感染が広がって、緊張感が広がってきている。他方、10ヵ月ほどの経験があり、以前よりも落ち着いてきたところもあるように感じる。

立場の違いによって懸念点をことさら強調したがる人もいれば、逆の人もいる。新型コロナ問題を見る姿勢が、左右の政治イデオロギー対立と結びついてきている傾向も顕著になってきた。二極分化社会の構造が、新型コロナ対策への見方にも影を落としているアメリカの姿を、いたずらに後追いしないように気を付けたい。

現在の状況の深刻度は、重症者数が医療能力に影響を与える水準になってきたためである。これについて医療施設受け入れ能力(地域間協力)の問題として考えなければならない。他方、毎日の新規陽性者数のニュースは、必ずしも同じ性格の問題ではない。一日当たりの新規陽性者数が「史上最高」とか「二日連続で〇〇人以上」などの「煽り系」の見出しには、あまり意味がない。

私は統計屋ではなく、専門家でも何でもない。奇抜なことを言おうとも思わない。ただ、「煽り系」に人たちの無責任な言説に翻弄されるだけの人生は送りたくない。そこで少しだけ常識を働かせてデータを見ることにしている。それだけでも、だいぶ「煽り系」の人たちに惑わされなくて済むようになる。

新型コロナの新規陽性者数に関して、最初に確認しておくべき常識のポイントは以下の通りのはずだ。あくまでも常識の話だと思うが。

 

1. 新規陽性者数を観察する最大の目的は、増減の大きな傾向を見ることである。

2. 曜日による偏差が出ることは織り込み済なので、7日移動平均(週平均)を見る。

3. 新規陽性者数の数字のトレンドは、1~3週間程度の前の時点の感染のトレンドである。

 

すでによく知られている常識の話なので説明は不要だと思うが、念のため確認しておこう。第一に、新規陽性者の絶対数は、検査数の従属変数なので、絶対値だけを見ていても評価ができない。見るべきはトレンドである。

たとえば、市中に100人の感染者がいるときに1日で200人と倍増した場合と、199人の感染者が1日で200人になった場合とでは、同じ200人でも、感染スピードが全く違う。より深刻なのは、前者の場合であり、後者の場合ではない。

「感染者学の専門家で日本医科大学特任教授の北村義浩氏」が、140人だった累積重症者が11月に410人になったことをもって、「1週間ごとに倍々」のペースだ、などとテレビで発言したらしい。「https://news.yahoo.co.jp/articles/09d2145cb020c0204548f6d3c2e8def1176eae91 意識的か無意識的か知らないが、「煽り」だと言わざるを得ない。1週間で倍増するペースとは、140人が11日程度で410人をこえるペースだ。4週間あると、2,240人に達しなければならない。

実際には、10月に150人程度だった数が11月に160人から410人になったので約4週間で310人増えて2.9倍になった増加率である。全く同じスピードで増加したと仮定したら、一週間あたり1.31倍程度の増加率である。

北村教授はただ「毎週140人ずつ増えて3週間強で3倍程度になったように見える」と言いたいだけだったのと思われるが、母数が日々変わっていく対象物の計算の方法に関する常識を欠いた言い間違えでだったと言わざるを得ない。

第二に、一日当たりの絶対数で一喜一憂すべきではない、ということは、常に週平均(7日移動平均の一日当たり新規陽性者数)を見なければいけない、ということである。週末に検査数が少なくて、平日の後半に検査結果がたくさん出てくることに文句を言っても仕方ない。単に慣れてしまえば、それでいい。

第三に、政策介入の効果が新規陽性者数に反映されてくるのは、1~3週間たってからである。今行い始めた政策の効果は、1~3週間たたないと、見えてこない。たとえば、119日に政府分科会が緊急提言を行い、尾身茂・分科会会長が記者会見を行った。この効果が出るとしたら、今、見えてきているはずである。

 タイトルなし

 

本来であれば、実効再生産数の速報値があるともっとトレンドは見えやすいのだが、正式な実効再生産数の計算は複雑であるため、各種公開サイトで値が出てくるまでに何日も時間がかかるのが歯がゆいところである。素人が、暇を見て計算を済ませるものとは言えない。

そこで暫定値として、週単位(7日移動平均)の増加率の比較をしてみると、だいたいの傾向はつかめる。以下が最近の全国の新規陽性者数を使ったサンプルである。

 

日付

新規陽性者数

直近一週間の陽性者数

7日移動平均

前日からの増加比

直近一週間の増加比

10/30

769

4553

650

101%

120%

10/31

868

4703

672

103%

119%

11/1

606

4821

689

103%

121%

11/2

482

4902

700

102%

121%

11/3

868

5121

732

104%

121%

11/4

607

5004

715

98%

115%

11/5

1049

5249

750

105%

116%

11/6

1137

5617

802

107%

123%

11/7

1302

6051

864

108%

129%

11/8

938

6383

912

105%

132%

11/9

772

6673

953

105%

136%

11/10

1278

7083

1012

106%

138%

11/11

1535

8011

1144

113%

160%

11/12

1623

8585

1226

107%

164%

11/13

1704

9152

1307

107%

163%

11/14

1723

9573

1368

105%

158%

11/15

1423

10058

1437

105%

158%

11/16

948

10234

1462

102%

153%

11/17

1686

10642

1520

104%

150%

11/18

2179

11286

1612

106%

141%

11/19

2383

12046

1721

107%

140%

11/20

2418

12760

1823

106%

139%

11/21

2508

13545

1935

106%

141%

11/22

2150

14272

2039

105%

142%

11/23

1513

14837

2120

104%

145%

11/24

1217

14368

2053

97%

135%

11/25

1930

14119

2017

98%

125%

11/26

2499

14235

2033

100%

118%

11/27

 

2530

14347

2049

100%

112%

(小数点切り下げ、1127日新規感染者数は暫定値)

 

グラフ

 

一進一退が続いているという言い方もできるし、最悪の時期は通り過ぎているかもしれないという言い方もできる。いずれにせよ尾身分科会長が「緊急提言」を行った11月第2週に増加が激しく、1112日木曜日に前の週の同じ曜日の164%増という高い増加率を見せていた。その後は増加ペースを落とし、1127日には112%となった。

なお東洋経済オンラインは、簡易計算方式で11月26日時点での全国の実効再生産数を1.13と計算しながら、だいたい同じような傾向を示している。

 実効再生産数

私は決して、新型コロナ対策は必要ない、などと言いたいわけではない。むしろ逆だ。重症者数が医療機関を圧迫し始めているのは確かなようだ。新規陽性者数の高止まりは、医療機関に対する圧迫を重くし続ける。尾身分科会会長が言っているように、全国を少なくともステージ2に十分に押し戻すことが必要なのも確かだろう。

他方、国民の努力の意味を判定することは、意欲を喚起するために、非常に重要である。いたずらに扇動的に脅威認識を高めることだけが、新型コロナ対策ではない。

最近の新規陽性者の拡大傾向の中で、西浦博教授が頻繁にメディアに登場するようになった。1125日には「報道各社のインタビューに応じ『都市部で感染者が指数関数的に増加している』と述べ」たという。https://www.tokyo-np.co.jp/article/70490/ しかし、上述の全国的傾向は、大都市部でも見られている傾向である。もし、「指数関数的拡大」という概念の意味が、「週の後半になると『一日の最高値』を記録することが何回か続く」、という程度のことであれば、西浦教授は正しい。しかし、それでは、単に「まだ減少傾向に入っていない」ということと「指数関数的拡大」が、同じ意味になってしまう。

1117日にGoogle AIによる4週間の新規陽性者数と死者数の予測が公開されるようになった。大変に良い企画だと思う。重要なのは、それから10日の間だけでも、実際のデータをふまえた修正が施され続けていることだ。AIが絶えず修正を加えながら、一つの予測を出してくれるのは、参考情報として有益だ。

人間の「専門家」だったら、一度出してしまった予測を守るのに、心理的に必死になってしまう。挙句の果てに、説明を施すこともなく、都合の悪い過去の言動を誤魔化すか、隠すか、してしまいがちだ。その点、こだわりがないのが、AIのいいところだ。

トレンドには、変更不可能な大きな幅がある。拡大基調にあるところで、急に数を半減させることはできない。市中に存在する感染者の数によって、感染拡大の傾向は相当に規定されるからだ。

他方、感染は人間のなせる業であり、可変的な要素も相当にあるはずだ。そのことも冷静に理解していきたい。

そのためには、われわれ人間も、AIのように冷静にデータを見ていきたい。将来に向かって可変的な幅を見極めて、可能な努力をしていくために。

 

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