米国のブリンケン国務長官とオースティン国防長官の初外遊による日米の2+2会合が終わった。その直前の12日には、「クアッド」4カ国の首脳会議が開催された。これらの会談の成功は、大変に素晴らしい。
 ただし気になることがある。ブリンケン長官が、ミャンマー問題への懸念の表明を、価値を共有する日米両国、という文脈で述べたことが、日本国内では報道されなかったことだ。
 日本の報道では、中国、中国、中国、と、アメリカの高官が中国について何を言ったか、だけが大々的に扱われる。しかし、日米同盟を、反中同盟に仕立て上げようとする風潮は、望ましくない。日本が重視して強化すべきなのは、第二次安倍政権時代に頻繁に語られたような「価値観外交」である。
 言うまでもなく、バイデン政権は人権を重んじる外交を標榜している。そのバイデン政権が心掛けているのは、「民主主義vs.権威主義」という世界観にそって米中対立を世界に説明することである。
 バイデン政権時代においても日米同盟を堅持するのであれば、ミャンマー問題を軽視してはいけない。
 外国で起きた重大な人権侵害に制裁を科す日本版「マグニツキー法」の議員立法をめざす動きが高まっている。世界各地での人権侵害行為に対する制裁を可能にする法案である。「マグニツキー法」という名称は、ロシア当局による汚職を告発後に逮捕された後に獄中死したロシア人弁護士の名前に由来する。甚大な人権侵害に関わった外国の個人や団体に、資産凍結や入国禁止といった制裁を科す法律は、アメリカがオバマ政権時代の2012年に対ロ制裁法として制定し、その後対象を全世界に拡大した。ウイグル問題をめぐり中国政府高官らに適用している。同趣旨の法律を、イギリスやカナダなどは制定済みで、EUも昨年12月に導入を決めた。
 しかし日本版「マグニツキー法」=対中強硬路線と解釈する外務省は、警戒しているという。親中派と言われる自民党の二階幹事長や公明党も警戒しているとされる。しかし本来の「マグニツキー法」は、中国と敵対することを目的にした法案ではない。
 私は、日本版「マグニツキー法」の制定を強く支持する。その立場から申し上げれば、できれば議員立法を目指す方々には、ウイグル、チベットについて述べたら、次に必ずミャンマーについてふれてほしい。
 ミャンマー問題については、「ミャンマー軍幹部に強硬姿勢をとったらミャンマーがいっそう中国に近寄ってしまう」といった中国に対する過剰意識の主張がまかり通っている。近視眼的だと言わざるをえない。日本は軍政に親和的で、ミャンマー軍幹部に気を使いすぎているという印象を、これ以上世界に喧伝したら、国際的な評判だけでなく、軍政に対して勇敢に立ち向かっているミャンマーの一般の人々からも日本が嫌悪される対象になることは必至である。日米同盟も脆弱化する。何もいいことはない。
 ミャンマーという国への制裁は議題ではない。マグニツキー法のような「標的制裁」が対象にするのは、軍幹部と資産分配を受けている家族ら関係者、そしてその資産の源泉になっている軍系列企業だけだ。
 ただ「何もできない」という言い訳を維持するためだけに法律の制定に反対する人々は、日米同盟やFOIPの価値観外交の基盤も脅かし、日本外交を袋小路に追いやろうとしていることに、早く気づいてほしい。