「平和構築」を専門にする国際関係学者

篠田英朗(東京外国語大学教授)のブログです。篠田が自分自身で著作・論文に関する情報や、時々の意見・解説を書いています。過去のブログ記事は、転載してくださっている『アゴラ』さんが、一覧をまとめてくださっています。http://agora-web.jp/archives/author/hideakishinoda 

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74日は、アメリカにおいて「独立記念日(Independence Day)」として知られる祝日である。1776年に、13の北米の英領植民地が、イギリス王の支配から逃れるため、独立宣言を公布した日だ。

前年の1775年から始まっていた独立戦争が進行中の最中に、その戦争の大義と目的を明らかにするために発せられた宣言であった。独立諸国家群は、ジョージ・ワシントンを総司令官とする「大陸軍(Continental Army)」を形成し、フランスなどを同盟国として、1783年まで戦い抜いた。

今年は、1776年から250年目にあたる。そこでアメリカでは「独立250周年」として節目を祝う行事が企画されているようだ。ところがトランプ大統領の企画には参加したくないといったミュージシャンが続出して、企画が実行できないなどの混乱が起こっているのだという。

https://news.yahoo.co.jp/articles/83d768996d0512713cf813e3eda4133a40191f31?source=sns&dv=pc&mid=other&date=20260605&ctg=wor&bt=tw_up

このことを取り上げて、日本のメディアは「建国250周年」という表現で描写している。あるいはメディアをこえて、「建国250周年」という表現は、日本ですっかり定着しているようだ。

だが上述のように、正しくは「独立250周年」である。日本語の「建国」に相当する英単語は、アメリカでは使われていない。そもそも今年は「建国」から250周年ではない。

250年前の1776年に独立宣言を発したのは、「大陸会議におけるアメリカの13の連合した諸邦の代表者たち」である。1776年「独立宣言」は、複数形で表現された複数の「植民地(colonies)」が「自由で独立した諸国(states)」になったことを明記しており、日本人が想像する「アメリカ合衆国」という単一の国家は、このときには誕生していない。

「独立宣言」後に13カ国によって批准された1777年『連合規約(Articles of the Confederation)』は、第2条で、「各国家が主権、自由、独立を保持する」と明確に定める。「連合」は、諸国間の恒久的同盟と定められ、連合会議には、宣戦と講和、外交使節の交換、条約の締結など対外関係に関する権限が与えられた。しかし内政に関する権限は各国に残されたままであり、外政部分についても、連合として行動するための執行権を持った政府は設置されなかったので、戦争がなくなれば、連合が共同行動をとる機会もほとんどなくなる仕組みであった。

当時の人びとは、北米大陸に13の主権国家が生まれたが、イギリス王に対抗するために戦争では「大陸軍」という連合軍を作っている、という意識だった。そのため1783年に独立戦争が終わると、「大陸軍」は解散してしまった。

独立戦争後の北米13州は、自由を謳歌しつつ、共通の政策を持たず、仲違いも激しかった。このままでは諸国間の衝突が起こるのでなければ、再びイギリスのような外国軍が攻め込んでくる、と危機意識を持った者たちが集まって実施したのが、1787年の「制憲会議」であった。

この会議で起草された合衆国憲法が発効に十分な数の批准を集めたのが1788年であったので、アメリカ合衆国(United States of America)という国家体制が誕生したのは、1776年ではなく、1788年だと言うべきである。ちなみにジョージ・ワシントンが初代大統領に就任したのは、1789年のことである。

なお1887年の時点で合衆国憲法を批准したのは、11「州(State)」にとどまっていた。難色を示していたノースカロライナとロードアイランドを含めて13州全てが批准し終わったのは、ようやく1790年になってからのことであった。

制憲議会で憲法起草した「フェデラリスト」たちの議論では、合衆国憲法体制において、主権は、州と連邦に「分割」されて行使される。この「分割主権(divided sovereignty)」の教義は、絶対主権論が流通していたヨーロッパ(特に大陸諸国)では異端視されなければならないものだったが、当時のアメリカ人は、むしろ「神の恩寵」にしたがった共和国からなる「新世界」で可能になった誇るべき仕組みだと考えていた。南北戦争に至るまでの時期のアメリカでは、「分割主権」論こそが正統な原則であり、合衆国最高裁判所も「分割主権」論を明示する判例を繰り返し作った(拙著『「国家主権」という思想:国際立憲主義への軌跡』(勁草書房、2012年)第1章参照)。

このあたりの史実の重要性は、単なる歴史的な経緯の正確な把握という次元を超えて、憲法(The Constitution)」という政治共同体を構成する(constitute)諸原則を作る作業の理解の作法に大きく関わってくる。

憲法を作る、という作業は、極めて人間的な思想的・政治的営みである。国家は、憲法に謳われた諸原則によって形成されるものであり、逆ではない。

しかし日本では、先に国家があって、その先天的な国家なるものが、自らの憲法を後付けで生み出したかのような史実の理解が一般的であるため、憲法がなくても国家が「建国」されているのが普通だ、という観念が強くなるのだろう。

現在、皇室典範改正の動きをめぐり、論争が起こっている。そもそも皇室典範は、明治期に政治的判断でプロイセン憲法を模倣して1889年に大日本帝国憲法が制定された際に、あわせて1889年に導入された法律の名称でしかない。

プロイセン憲法は、国王を男性と定めていたが、それは国王が国軍の最高指揮官で、当時のプロイセンが男性だけを対象にした徴兵制度を持っていたからだ。つまり国王は男性に限る、というプロイセン憲法の条項は、当時のプロイセンの軍国主義の思想の産物であった。富国強兵政策を推進していた当時の日本は、そうであるがゆえにプロイセン憲法を模倣して、大日本帝国憲法第11條「天皇ハ陸海軍ヲ統帥ス」という規定を挿入した。後に「統帥権干犯問題」を引き起こす「統帥権」規定である。

女性天皇を認めない立場を取る者は、ことを、あまり快くは認めたくないようだ。古代から連なる男性・男系の「万世一系の天皇」の神話が、憲法を上回る権威を持っているかのように理解しようとする。大日本帝国憲法も、日本国憲法も超越する、「万世一系の天皇」なる存在があるかのように振る舞おうとする。

しかしそれは社会契約論の考え方に依拠する「立憲主義(constitutionalism)」の思想を否定する態度である。

アメリカ人自身が「独立250周年」と呼んでいるものを、何とか強引に日本語では「建国250周年」と言い換えようとする日本のメディア関係者らの努力は、意識的であるか否かにかかわらず、社会契約論に依拠する「立憲主義(constitutionalism)」の意味を貶めようとしているに等しい。そのことは、決して過小評価されるべきではないだろう。

 

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米国のヘグセス長官が、シンガポールで開かれた「アジア安全保障会議(シャングリラ会合)」で、同盟国に国防費の増額を要求した。アジアの同盟国及びパートナー国が国防費を国内総生産(GDP)の3.5%に増やすことを期待する、と述べたのである。

GDP3.5%の国防費」は、すでに欧州の同盟諸国が受け入れているものと同じだ。アメリカは、「GDP3.5%」という数値目標を、あたかもそれが具体的で明確な目標なので普遍的な基準になりうる、といわんばかりに、所かまわず振り回しているわけである。

我々は、すっかりこの光景を見慣れたものだと感じるようになってしまった。しかし、この慣行は、それほど古いものではない。

かつてのアメリカは、駐留経費負担、装備購入、兵力整備などの具体性のある内容で、同盟諸国に対する防衛負担向上の要請していた。この傾向が変わり始めたのは、ほんの10年ほど前だ。ロシアのクリミア併合が起こった2014年のNATO首脳会議で、加盟国の防衛費をGDP2%以上に近づける、という目標が採択された。ただ当初は、10年ほどかけて達成したい長期的な努力目標でしかなかった。

この目標の早期達成を、欧州諸国に強く要請するようになったのは、2017年に成立した第一次トランプ政権だった。

難色を示していた欧州諸国が、「GDP2.0%」を早期に達成するようになったのは、2022年のロシアのウクライナ全面侵攻のためである。日本のその流れにそって「GDP2%」を5年で実現することにした。

ところが欧州諸国・日本がその目標が達成すると、第二次トランプ政権のアメリカは、「GDP3.5%」の数値目標が要請するようになった。おそらく、この目標が達成されたら、「GDP5.0%」の目標が導入されるはずである。

アメリカは世界最高の軍需産業を持っている。同盟諸国が防衛費を拡大させれば、まず潤うのは、アメリカの軍需産業だ。トランプ政権の姿勢の背景に、そうした経済的利益の計算があることは、言うまでもないことである。

だがよく考えてみると、アメリカの態度は、かなり乱暴である。NATO構成諸国のように、ロシアという共通の仮想敵に対して、組織的な対応を図る諸国であれば、共通の数値目標には、負担の公平配分という観点から、妥当性があるかもしれない。しかしアジアにはロシアという共通の仮想敵は存在しておらず、そもそもNATOのような軍事組織も存在しない。それなのに全く同じ数値目標での防衛費の増額を要求するというのは、必ずしも論理的な議論に基づく態度であるとは言えないように思われる。

そもそも「GDP3.5%」の中身の議論をすっ飛ばして、予算増額だけを求めていくというのも、かなり乱暴な話である。

日本は中国を仮想敵とみなし始めているが、他のアジア諸国が同じように中国を仮想敵とみなしている経緯はない。日本ですら、万が一、政権交代がなされて、中国との和解がなされれば、事情は一変する。ロシアとの敵対関係についても、同じ事情があると言えるだろう。

さらに指摘すれば、お金を沢山使うと、それに比例して軍事力が向上する、という保証があるわけではない。たとえば、必要性が低い中古の兵器を、アメリカから言い値の高額で購入し続けたら、どうなるか。軍事力の向上が図られないまま、軍事費ばかりが高騰していく事態となる。

さらに突っ込んで指摘すれば、「必要性が高い兵器」は、精緻な分析に基づいて評価した脅威に対抗するための精緻な政策の構築があって初めて、認定できるものだ。分析が精緻になればなるほど、「必要性が高い兵器」の評価は、相対的になっていく。

たとえば安価なドローンによる攻撃に、高額の地対空迎撃兵器で対抗していたら、費用の非対称性が著しく高まり、軍事作戦の合理性が失われてしまう。つい最近もイラン対アメリカ・イスラエル戦争で示された点だ。

果たして日本に、防衛費の執行の指針になるような、精緻な兵器購入計画を導き出す防衛政策に関する議論が、行われて様子があるだろうか?

5年間で2倍になった防衛費が、どのような追加支出を行うようになったのか、どれだけの日本国民が知っているだろうか?

「防衛費が2倍になった」ということだけで、もう何かを達成したかのような気になる人がほとんどではないだろうか?

2倍になった防衛費を支える防衛政策を説明している国際政治学者らが、どれだけ存在しているだろうか?

「中国は脅威だ、だから防衛費を増やさなければならない」ということだけを繰り返し主張している「専門家」ばかりだ、という状況になっていないだろうか?

増えた防衛費の中から相当額が、「中国の認知戦への対抗」に充てられる。防衛費の増額に異論を唱えるようであれば、「媚中派」として「認知戦対策」の対象に指定されてしまいかねない。そんな怪しい雰囲気を感じているのは、私だけだろうか。

 

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アメリカとイランの間の一時停戦は続いているが、交渉は行き詰まりを見せている。トランプ大統領は、週末に合意に向けた決断を行うかのようにほのめかしていたが、合意はなされていない。「米国政府関係筋」から、「米ニュースサイトのアクシオス」などのメディアを通じて、頻繁に「合意が近い」などの観測記事が出てくるが、ほとんど現実化することがない。

 一時期は過敏に反応していた原油市場や株式市場の関係者も、さすがに最近はこうした観測記事にほとんど関心を寄せていないように見える。ただそれでも日本のメディアは、せっせと律儀に毎度毎度「米ニュースサイトのアクシオスによると米国間政府関係者筋が・・・」の記事を書き続けている。

 合意の相手方であるイランは、一貫して合意が近いことを否定している。それでも意地を張るようにムキになって「米ニュースサイトのアクシオスによると米国間政府関係者筋が・・・」の記事を書き続けている日本のメディアは、相当に度胸がいい、というか、よほど浮世離れしている。

 アメリカとイランの交渉の行き詰まりは、客観的な事情によるものだ。

https://shinodahideaki.theletter.jp/posts/59776910-a8ef-4bc2-a3d0-8f1f319a55b2 

確かに、イランとの戦争を始めたアメリカが撤退するのであれば、状況は大きく変わるだろう。しかし厳しい判断を回避したまま、あたかも状況を自由に左右できるかのような発言を繰り返しているトランプ大統領の虚言的な言葉を、そのまま信じることはできない。

3月に『言論アリーナ』に出演させていただいた際に私が述べているように、アメリカ・イスラエルの対イラン戦争は、超大国の驕りによる状況判断の誤りによって始まった戦争だ。アメリカの思い描くシナリオで戦争を終わりにしていくことは非常に難しい。https://www.youtube.com/watch?v=qxGR_NVOg4U&source_ve_path=MjM4NTE&embeds_referring_euri=https%3A%2F%2Fagora-web.jp%2F

日本の高市政権の態度は、アメリカの早期勝利を確信していたかのようなものだ。「抜け駆けはしない」という立場で、ホルムズ海峡の通過をめぐるイランとの交渉を拒んできている。結果として、ホルムズ海峡を通過しない交通路の開拓を通じて社会機能を維持する必要性に迫られている。それが可能なのかどうかも相当に怪しい。仮にある程度は可能になるとして、そこにかかるコストは、大きなものだ。

先行きの見通しがつかない状況が続く中、この問題を扱う私の本の公刊がなされてしまうことになった。『トランプの戦争とアメリカの敗北:イラン攻撃を招いた「ドンロー主義」の正体』(ビジネス社)は、61Amazon先行発売、63日書店発売である。https://www.amazon.co.jp/%E3%83%88%E3%83%A9%E3%83%B3%E3%83%97%E3%81%AE%E6%88%A6%E4%BA%89%E3%81%A8%E3%82%A2%E3%83%A1%E3%83%AA%E3%82%AB%E3%81%AE%E6%95%97%E5%8C%97-%E7%AF%A0%E7%94%B0%E8%8B%B1%E6%9C%97/dp/4828428380/ref=sr_1_1?dib=eyJ2IjoiMSJ9.KG8TQC76gfWD44zuIQ58I3T3UFrFX9tUSf5RY3M0m09sZJ2COKA0ZXH68DY2ciGD15WlN9Xp7COpKDWtz1IgQPsyb82aG09qltgTaEYB3fAH6fXPwnhMnHce2PwwDXjw10LLBsWzPTNeGBdpAaGm9sSvNAjoJv__5io65R3Zh3qg3AMwDWwUz4Qa1A6RMM6E44kVBdXY9rS0pcxMPXE6H06zA05dBWdW3MY05c8qqyk.e5FoL-z6kwFWwRFtHrMcCyYG_cOkC5_eBfr8OAgMtIQ&dib_tag=se&qid=1780231120&s=books&sr=1-1 

 

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