「平和構築」を専門にする国際関係学者

篠田英朗(東京外国語大学教授)のブログです。篠田が自分自身で著作・論文に関する情報や、時々の意見・解説を書いています。過去のブログ記事は、転載してくださっている『アゴラ』さんが、一覧をまとめてくださっています。http://agora-web.jp/archives/author/hideakishinoda 

経歴・業績 http://www.tufs.ac.jp/ts/personal/shinoda/ 
過去のブログ記事(『アゴラ』) http://agora-web.jp/archives/author/hideakishinoda

国家安全保障戦略などの安保関連3文書の改定に向けた「有識者会議」15名のメンバーが公表された。この「有識者会議」では、経済安保やサイバーセキュリティーといった防衛分野の強化策や、「非核三原則」の見直しなど、高市首相が公約に掲げている政策の実現に向けた方策が議題になる予定と報道されている。

メンバーは以下の通りである。

秋池玲子(ボストン・コンサルティング・グループ日本共同代表)

遠藤典子(早稲田大学研究院 教授)

大矢光雄( 東レ株式会社 代表取締役社長)

黒江哲郎(三井住友海上火災保険株式会社 顧問・元防衛事務次官)

佐々江賢一郎(公益財団法人 日本国際問題研究所 理事長・元駐米大使)

清水賢治(株式会社フジテレビジョン 代表取締役社長 社長執行役員)

鈴木一人(国立大学法人 東京大学公共政策大学院 教授 )

橋本和仁(国立研究開発法人 科学技術振興機構 理事長)

東野篤子(国立大学法人 筑波大学人文社会系教授)

細谷雄一( 慶應義塾大学法学部 教授 )

松尾豊(国立大学法人 東京大学大学院工学系研究科 技術経営戦略学専攻 教授)

三毛兼承(株式会社三菱UFJ銀行 特別顧問)

森田隆之(日本電気株式会社 取締役代表執行役社長兼CEO)

山口寿一(株式会社読売新聞グループ本社 代表取締役社長)

山崎幸二((公益財団法人 笹川平和財団 上席フェロー・元統合幕僚長)

 

一般にこの種の有識者会議は、通常は政府官僚の書いたペーパーを追認するだけなのではないかと指摘されたりする。それでも政府が頻繁に会議を開催することの意味は、官僚のペーパーの権威付けにあるので、その分野の専門家とされる人物たちが集められるのが通例である。

それを考えると、この安保三文書改訂「有識者会議」は、やや異例な印象を与える。いわゆる通常の意味での伝統的な軍事戦略専門家としての安全保障の専門家がメンバーに入っていない。

あえて言えば、元防衛事務次官の黒江氏や元統合幕僚長の山崎氏は、安全保障の専門家に該当はするだろうが、防衛省・自衛隊の政府機構の背広・制服組それぞれのトップを務めた人物としての意味が大きすぎる。外務省からは、元駐米大使と紹介される佐々江氏が、やはり事務次官経験者として入った。

防衛省・自衛隊・外務省の元官僚トップに、メディア、金融業界、メーカーの有力企業のトップと、発信力のある大学人たちを集めた、という社会的インパクトを重視した構成である印象を強く受ける。

「総合的な国力から安全保障を考える有識者会議」という正式名称からは、非核三原則のような伝統的な安全保障問題に関する議題だけでなく、いわゆる経済安全保障やサイバーセキュリティといった新しい議題も盛り込む、という意図が感じられる。

近年、防衛省は、「対中認知戦」への対抗策を充実させる必要性を強く唱えている。小泉防衛相や茂木外相は、「中国は平素から国内外で情報戦を行っている」と国名を名指しして、中国に対抗するための「認知戦」対策の必要性を訴えてきている。昨年の参議院選挙の際には、「ロシアに有利な情報をSNSで発信している」といった理由で、大量のSNSアカウントが選挙前に凍結される事象について、自民党の平井卓也広報本部長(当時)が、「相当消し込みには行ってます」と発言したことが話題となった。発信力重視の「有識者」の選定には、こうした領域での議題を盛り込む「安保三文書改訂」への方向性に向かう政策意図が感じられる。

秋池玲子(ボストン・コンサルティング・グループ日本共同代表)氏は、竹中平蔵氏などとともに国家戦略特別区域諮問会議有識者議員を務め、加計学園が愛媛県今治市の特区に開校した岡山理科大学獣医学部などの審議を行った。2018年経済同友会副代表幹事に就任しつつ、森友学園決裁文書の改ざんやセクハラの不祥事を起こした財務省が再発防止のための設置した会議の参与にもなった。2022年には新型コロナウイルス感染症対応に関する有識者会議の構成員、任意組織の令和臨調運営幹事なども務めた。現職肩書から受ける印象を超えて、政府機構と幅広く仕事をしてきている経験を持つ人物だ。特に世論対応をする機能を持つ政府の有識者会議などを歴任している印象を受ける。

遠藤典子氏は、早大研究院教授が現在の肩書だが、ダイヤモンド社に長く務めて編集者としてのキャリアを長く持つ人物である。2013年の著書『原子力損害賠償制度の研究:東京電力福島原発事故からの考察』を公刊してから、大学での研究者としてのポストを持ち、同時に多数の大手企業の社外取締役を兼務するようになった。加えて、財務省財政制度等審議会委員、原子力損害賠償・廃炉等支援機構運営委員などを兼務する。

東レ株式会社代表取締役社長CEOの大矢光雄氏は、1980年に東レに入社してから、一貫して同社に勤務している。東レは、防衛装備の基盤となる高機能素材の供給者で、炭素繊維(CFRP)、高機能樹脂、繊維材料(防護用途含む)などに強い。米欧の防衛産業にも素材供給している。大矢氏は、重要メーカーの代表枠と言えるだろう。

黒江哲郎(元防衛事務次官)氏は、2017年「南スーダンPKO日報問題」の時の事務次官で、引責辞任を余儀なくされた人物である。ただし、直後に、国家安全保障局参与に就任した。退官後は、三井住友海上火災保険顧問となった。事務次官になる前に、運用企画局長、大臣官房長、防衛政策局長の政策・運用・組織管理の三部門の長をすべて経験し、官邸ポストも経験したという点で、総合的な調整能力が評価されるタイプだ。

佐々江賢一郎氏は、外務事務次官から駐米大使に転出するという外務省キャリアの頂点を辿った王道「対米派」の元外務官僚である。退官後は、ホテルオークラ取締役、セーレン取締役、三菱自動車工業取締役、富士通取締役などを兼職する。

清水賢治氏は、1983年の入社以来、フジテレビに勤めてきたメディア業界の人物である。2025年に中居正広・フジテレビ問題を巡って引責辞任した港浩一の後任として、フジテレビジョン代表取締役社長に就任し、親会社フジ・メディア・ホールディングス代表取締役社長にも就任した。テレビ業界の代表枠の「有識者」と言える。

鈴木一人氏は、頻繁にメディアに登場し、SNSでの発信なども活発である知名度の高い東大教授として知られる。『宇宙開発と国際政治』という著書を持つが、近年は「経済安全保障」に関して活発な発言を行っており、昨年『地経学とは何か─経済が武器化する時代の戦略思考』を公刊し、国際文化会館地経学研究所(IOG)所長の肩書も持つ。加えて、内閣府宇宙政策委員会委員、日本成長戦略会議有識者メンバーなど政府の有識者会議メンバーを複数兼務している。

橋本和仁氏は、東京大学先端科学技術研究センター教授・東京大学大学院工学系研究科教授だが、科学技術振興機構理事長の肩書で、「有識者会議」メンバーとなっている。酸化チタンの光触媒反応・光誘起親水化反応研究、およびそれを産業展開した光触媒ナノコーティング材料は様々な分野で製品化されている。文部科学省や科学技術振興機構 (JST)、新エネルギー・産業技術総合開発機構 (NEDO) 等の様々な研究開発プロジェクトでディレクターやリーダーを務め、第2次安倍内閣時の日本経済再生本部に設置された産業競争力会議に唯一の科学者の民間議員として参加した。また内閣府総合科学技術会議民間議員、内閣官房科学技術顧問などの政府の役職も歴任してきている。

東野篤子(筑波大教授)氏は、ヨーロッパ・EUの国際政治を専門とする。ウクライナ研究会副会長という肩書を持ち、ウクライナ支援の重要性を訴える立場をとって、2022年ロシアのウクライナ全面侵攻後に頻繁にメディア出演するだけでなく、SNSでの発信にも余念がない知名度の高い大学教授として知られる。

細谷雄一氏は、東野教授と同じ慶應義塾大学大学院の田中俊郎ゼミ出身で、イギリス外交史を専門とする。多数の著作を持つだけでなく、メディア出演等も活発であり、やはり抜群に知名度の高い大学教授として知られる。政府有識者会議座長等を歴任した北岡伸一・元東大教授/JICA理事長に、立教大学時代に師事したことでも知られ、「安全保障と防衛力に関する懇談会」委員、「安全保障の法的基盤の再構築に関する懇談会」委員、国家安全保障局顧問、自民党「歴史を学び、未来を考える本部」アドバイザー、経済産業省産業構造審議会通商・貿易分科会委員、「天皇の退位等に関する皇室典範特例法案に対する附帯決議」に関する有識者会議メンバーなどの政府・自民党の会議メンバーを歴任してきた。

松尾豊(東京大学大学院工学系研究科人工物工学研究センター/技術経営戦略学専攻教授)氏は、AI分野などでの学生起業を推奨していることで有名で、松尾研究室を母体にしたスタートアップ企業が10社以上、関連するスタートアップを含めると30社近くがあるという。2021年同じ香川県の出身である平井卓也デジタル改革担当大臣が、デジタル庁の入退室管理の顔認証システム発注を巡り、「NECではなく、松尾先生のベンチャー、ACESと一緒にやれ」と個別の社名を指示したとされる事件も、広く報道された。国家戦略室「叡智のフロンティア部会」委員、経済産業省「IT融合フォーラム有識者会議」委員、経済産業省産業構造審議会「新産業構造部会」、産業技術総合研究所人工知能研究センター企画チーム長、金融庁「フィンテック・ベンチャーに関する有識者会議」、総務省「AIネットワーク社会推進会議」メンバー、内閣府「人間中心のAI社会原則検討会議」、情報処理推進機構「AI社会実装推進委員会」委員長、東京都「『東京ベイエリアビジョン』に係る官民連携チーム」 最先端技術のまちWG座長、総務省「多言語音声翻訳高度化のためのディープラーニング技術の研究開発」アドバイザリーメンバー座長、経済産業省「未来イノベーションワーキンググループ」、首相官邸デジタル市場競争本部 「デジタル市場競争会議」、内閣官房「新しい資本主義実現会議」、デジタル庁デジタル臨時行政調査会作業部会「テクノロジーベースの規制改革推進委員会」、香川県坂出市 政策アドバイザー、内閣府「AI戦略会議」座長、香川県「産業AI参与」を歴任してきている。

三毛兼承(三菱UFJ銀行特別顧問)氏は、1979年の三菱銀行入行後、ほぼ一貫して株式会社三菱UFJフィナンシャル・グループで勤務し、株式会社三菱UFJ銀行代表取締役頭取兼CEO・株式会社三菱UFJフィナンシャル・グループ取締役兼代表執行役社長兼CEOとして、全国銀行協会会長も務めた人物である。「有識者会議」では、金融業界の代表枠と言える。

森田隆之(日本電気 (NEC) 取締役代表執行役社長兼CEO)氏は、1983年に東大法学部卒業後に日本電気に入社して以来、一貫してNECに勤務している。NECは防衛省にとって、C4ISR(指揮・統制・通信・情報・監視・偵察)分野の基盤企業であり、「有識者会議」では、「情報・通信系インテグレーター」代表枠と言えるだろう。

山口寿一(読売新聞グループ本社社長)氏は、1979年の読売新聞社入社後、一貫して同社に勤務しているジャーナリストである。現在は、読売新聞グループ本社代表取締役社長・主筆代理、読売新聞東京本社代表取締役会長、読売巨人軍取締役オーナー、日本テレビホールディングス代表取締役取締役会議長、日本テレビ放送網取締役、読売中京FSホールディングス取締役、読売テレビ放送取締役の肩書も持つ。新聞メディアとテレビメディアを兼ね備えた「有識者」枠と言えるだろう。

山崎幸二(公益財団法人 笹川平和財団 上席フェロー)氏は、防衛大学校出身で陸上自衛隊においてキャリアを積み上げ、北部方面総監、陸上幕僚長をへて、2019年から2023年まで4年に渡って統合幕僚長を務めた人物である。

 

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ホルムズ海峡をめぐる情勢が緊迫している。これについて日本政府は、戦争当事国の一方のアメリカにしたがって、ホルムズ海峡が「事実上の封鎖」の状態にあるとみなしている。そこで、その解除をイランに要請する、という立場をとっている。そのため逆にイラン政府と交渉をしていないので、基本的に日本国籍の船舶は通行ができていない。

 これに対してもう一方の戦争当事国であるイランは、ホルムズ海峡を封鎖などしていない、という立場を主張している。単に敵国であるアメリカとイスラエルの船舶の通行を認めていないだけだ、という主張である。このイランの立場を反映して、中国、インド、パキスタン、バングラデシュ、マレーシア、タイなどの南アジアから東南アジアにかけての諸国の船舶が、ホルムズ海峡を通過している。さらにはフランス籍の船舶も通過したという情報もあり、イランはその他の諸国との交渉を通じて南アフリカなどにも通行許可を出していると報道されている。

 日本政府が「海峡は封鎖されている」と主張しているのを尻目に、続々と船舶がホルムズ海峡を通行し始めている状況だ。一部船舶は、ホルムズ海峡南側のオマーン領海を通行しており、イランが主張しているように、イランとオマーンの間に連絡調整関係が生まれていることが示されている。

 高市政権支持者層は、イランを邪悪化することに熱心で、イランの無法行為を認めてはいけない!といったことを声高に主張している。しかしイランのホルムズ海峡管理が国際法違反であるかは、簡単には言えない。起こっていることだけを見ると、特にそう考えざるを得なくなる。(イランのホルムズ海峡管理の国際法から見たときの評価は、どうしても説明が長くなるので、『The Letter』を通じて配信した拙文を読んでいただきたい。https://shinodahideaki.theletter.jp/posts/27031930-f2c8-4164-8fa4-0c3bc42436ec?utm_medium=email&utm_source=newsletter&utm_campaign=27031930-f2c8-4164-8fa4-0c3bc42436ec )

 仮にイランの行動に国際法の観点から疑義を覚えるという立場をとるとして、これは現時点ではアメリカとイスラエルの明白な国連憲章24項違反の武力行使、及び文民に対する標的殺害や民生施設の無警告の破壊などによる国際人道法違反と比すと、深刻度が低い。

 しかもイランの主張にそって、敵性国家ではないことを証明すればホルムズ海峡の通行ができるようになるわけだから、敵性国家ではないことをイランに示して通行を認めてもらえば済む話である。日本のように中東の原油への依存度が高い国であれば、なおさらそうした実際的な事情に基づく行動があって然るべきだ。

 しかし高市政権は、アメリカとイスラエルの劇義的な世界観にあわせて、イランを悪魔化する描写を強調することに躍起になり、しかもイランと交渉しないように東南アジア諸国に働きかけた様子さえ見せている。https://news.yahoo.co.jp/articles/e696cecedca29a731655488edd51c6e249c2792d 

 ただし結果としては、日本が欧州諸国などと作り上げた「イランに封鎖を解除せよと要請する」グループに、アジア諸国は、ようやく後から韓国が来ただけにとどまっているようだ。むしろアジア諸国の間では、反対に、イランと交渉して、ホルムズ海峡を通行することを認めてもらう大きな流れができている。日本が加わっているグループは、当初はほぼアメリカの軍事同盟諸国だけだった。その後に国連総会投票などで一貫してイスラエル寄りの投票行動をすることで知られる親イスラエルの太平洋島嶼国の小国群が加わってきているような構成である。

 https://x.com/ShinodaHideaki/status/2039452241669603471

 こういう描写を認めたくない国際政治学者の方などもいるようだ。https://x.com/ShinodaHideaki/status/2040402823167516717 

しかし、普遍主義の観点からイランが完全な悪だと断定するよりは、世界が米国の同盟諸国ブロックと、そこから距離を置く諸国に分化している、という現実が、ホルムズ海峡をめぐる情勢にも影響している、と考える方が自然であるように思われる。

イランはBRICSメンバー国であることを強く意識しており、BRICSメンバー国・パートナー国にまず通行を許可している様子もうかがえる。逆にNATO構成欧州諸国や日本などアメリカの同盟諸国は(しかし全部の同盟国ではない)、アメリカが戦争をしている最中にイランと交渉することはアメリカのメンツを潰してアメリカの敵を有利にしてしまうことになるので望ましくない、という発想が強いようだ。

イラン政府は、「欧州にも、日本にも、ホルムズ海峡は開かれている、封鎖はしていない」、と述べているわけだが、言われた諸国の側が「封鎖を解除せよ、封鎖されているから通れない、封鎖されていないというイランの主張は認めない、イランは邪悪な国家だ」、といった立場を頑なに取り続け、アジア諸国の船舶がホルムズ海峡を通行していることについては、あえて視界に入らないふりをしている。

実際の戦況は、長期消耗戦に持ち込むイランの計算にしたがって進み、短期で圧勝したかったアメリカの思惑が外れる形で、進んでいる。準備がないアメリカは、様々な失策を見せており、イラン側が有利に戦争を進めている。その現実を見ながら、なお日本のような頑な態度を取り続けることに、国益から見たときの合理性があるか。大きな疑問を感じざるを得ない。

 芳しくない戦況を見ながら、41日の演説で、トランプ大統領はあえて、「アメリカはすでに勝っている、イランはすでに政権転換を起こした、軍事的能力も壊滅状態に陥った」、といった主張を展開した。現実から乖離した主張をしてでも、戦争から脱け出すきっかけをつかみたい、という姿勢だったと言えるだろう。イラン側は、それを見透かして、アメリカの条件での停戦は拒絶する、という姿勢を貫いている。

 日本では「専門家」層が、アメリカ政府の見解をそのまま日本のメディアを通じて広めて、あたかも現実から乖離した描写のほうこそが現実であるかのような印象を振りまいてしまう現象も起こってきている。

画像

 

 

 これについては以前に私も書いたことがある。

https://agora-web.jp/archives/260310194711.html

単純に過度にアメリカ寄りの楽観的な見方を取っていただけ、ということもあったのかもしれないが、いずれにせよ日本の「専門家」は、そのような傾向に陥りやすい。気を付けておきたい。

https://x.com/Peaceke81017283/status/2030437395280302196/photo/1

 

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前回の記事で、安倍首相がイラン高官との外交チャンネルの開拓に非常に熱心であったことについてふれた。https://agora-web.jp/archives/260326133437.html 

2019年には、最高指導者ハメネイ師と面談するなどの外交努力を目立って行っていた。当時は、アメリカのトランプ政権が、イランとの国際的な核合意から一方的に離脱して、圧力を高める強硬路線に転換していたときだった。安倍首相は、不穏な事態を憂慮し、緊張緩和のための仲介役を演じることを目指していた。実態として、今日のホルムズ海峡の状況にも通じるような事態も当然想定して、あえてイランとの外交チャンネルの充実に苦心していたと言える。

歴史にif(もし)はないが、今日の事態が第一次トランプ政権時代に起こっていたらどうだっただろうか。安倍首相は、培っていた外交チャンネルを活用して、イランとの交渉にあたったのではないだろうか。

翻って、現在の高市政権の態度は、安倍路線とは明確な対比をなしている。イランとは交渉しない、と鼻息が荒い。圧力をかけて「ホルムズ海峡をこじ開ける」といった威勢のいい声も、政権周辺から聞こえてくるが、どうやってこじ開けるのかは、全く不明だ。自衛隊を派遣した程度で、こじ開けられるはずもない。

アメリカが地上軍を派遣して実力行使をして「こじ開ける」のを期待して待っているということなのかもしれないが、そんなことはアメリカにもできない。もし地上軍派遣をしたら、海峡に大混乱が広がる恐れがある。現在すでに通行できるようになった国籍の船舶も通行できないようになり、大迷惑を被る。

普通に考えれば、万が一にもアメリカをけしかけて間違った道に進むのを促すことだけはしないようにするべきだ。できれば、事態を穏便に収めていく気運を高めるほうに貢献すべきである。かつての安倍首相の路線であれば、そうなる。ただ現在の高市政権の路線では、政府の立場も、世論の動向も、全く真逆になっている。中国は悪、イランは悪、という威勢のいい掛け声が、評論家や学者の間にも、飛び交う。

赤澤大臣が「日本はアジアの代表」なので、イランと交渉できない、という発言を行った。どういう意味なのか、不明だ。

東アジアで圧倒的な経済規模を誇る中国、南アジアで圧倒的な経済規模を誇るインドは、すでに自国籍のタンカーにホルムズ海峡を通過させている。それにならって、パキスタンやスリランカなどの南アジア諸国に加えて、東南アジアでもマレーシアやタイが、イランとの協議を通じて、ホルムズ海峡通過の確認を得ている。

この状況で、日本が「日本がアジアの代表です、皆さん、イランと交渉してはいけません、アメリカがさらなる軍事攻勢をかけてイランを完全に駆逐する日が来るのを待ちましょう」、と言うのは、あまりにも「平和ボケ」した緊張感のない話である。

そもそも「日本がアジアの代表」というのは、いったい何のことなのだろうか。「ホルムズ海峡を開放せよ」という要請の表明に賛同した諸国が欧米諸国ばかりで、アジアでは日本だけだったため、わざとそのようなレトリックを使っているのかもしれない(韓国が後で賛同したという報道もあるが)。だが上述のように、アジア諸国は続々とホルムズ海峡を通過している状況では、「日本がアジアの代表」というよりは、むしろ「日本だけがアジアで意固地」と言われても仕方がない面がある。

かつて日本だけが「G7」に加入しているアジアの国なので、「日本がアジアの先進国代表」と考えるような風潮があった。一つ前の世紀の時代の話ではないかと思う。「G7」を「先進国として国際社会全体を代表する協議体」と捉える見方は、減退している。有力な諸国ではあるだろうが、要するにアメリカの同盟諸国が集まって、自分たちの政策調整をするためのフォーラムにすぎない。

現在、高市首相の国際的なイメージにより、G7諸国の中でも際立ってアメリカの政策に、国際法違反であっても迷惑行為であっても、従属していく度合いが高いのが、日本だ。

G7諸国のGDPの合算額は、25年前、21世紀に入ったばかりの頃には、世界経済全体の約3分の2を占める圧倒的なシェアを持っていた、現在では、名目GDPで4割強、購買力平価GDPでは3割程度のシェアしかない。劇的な低落である。

そしてアジアでは、名目GDPでも、そして特に購買力平価GDPでも、中国とインドの経済規模のほうが、日本よりも大きい。それなのに、なぜ日本が「アジアの代表」と強弁できるのか。

安倍首相の時代には、こうした大きな国際社会の構造転換を見越して、「FOIP」を提唱して、太平洋地域とインド洋地域との接合を強調し、日本外交の幅を、広げる努力があった。「クアッド」は、アメリカとインドが共有するプラットフォームとして画期的な意味を持ち、G7BRICSをつなげる含意すら持った。日米同盟と、新興国重視外交を、円滑に接合していく努力だった。

その路線にそって、安倍首相のイランとの独自のチャンネルを確立する外交努力もあったはずだ。なぜ今になって、アジア諸国に、「イランと交渉してはいけない、さらなる軍事行動でアメリカがイランを完全破壊するのを待とう」という路線を支持するように働きかけなければいけないのか。

高市政権では、安倍政権時代の気運は霧消しており、ただ対中強硬姿勢と、アメリカ一辺倒傾斜の姿勢ばかりが目立っている。それをもって「アジアの代表」として振る舞いと称するのは、国内世論向けの「昭和の復活」路線としては成立しているのかもしれないが、国際的には的外れで時代錯誤な態度である。

もちろん高市路線で、とりあえずの日本の生存の手段の確保、国益の増進が、図られるのであれば、それはそれでいいだろう。だが今のところは、それが図られる具体的な様子が見られない。国際的には、ひたすら対中強硬路線、国内的には、ひたすらサヨク攻撃路線で、高い支持率の維持だけを考えているように見える。

だが、当然のことながら、高市内閣の支持率が維持されるのと、日本の国益が確保されるのは、全く異なる二つの別次元の事柄である。

今のところ、高市政権の目立った成果と言えば、選挙で大勝した、支持率が高い、といった内向きで、国益そのものとは関係のない事項だけである。だが支持者層は、そのたびに「勝った、勝った」と喜ぶ。国際問題への対策でも、反中国、反サヨクにつなげて、国内世論動向で「勝った、勝った」につなげたいという欲求ばかりが目立つ。

その結果、安倍政権時代の外交よりもかえって時代に逆行しているように見えるのは、現在の危機的状況では、非常に憂慮される。

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