「平和構築」を専門にする国際関係学者

篠田英朗(東京外国語大学教授)のブログです。篠田が自分自身で著作・論文に関する情報や、時々の意見・解説を書いています。過去のブログ記事は、転載してくださっている『アゴラ』さんが、一覧をまとめてくださっています。http://agora-web.jp/archives/author/hideakishinoda 

経歴・業績 http://www.tufs.ac.jp/ts/personal/shinoda/ 
過去のブログ記事(『アゴラ』) http://agora-web.jp/archives/author/hideakishinoda

衆議院選挙が、自民党の大勝で終わった。「奇襲選挙」とも描写されているが、「奇襲」そのものは、狙い通りであった。自民党は、初の女性首相の高市氏に擁立し直し、刷新したイメージで支持率を上げたところで、政策の成果等が見える前に、急ぎ解散・選挙を行った。首相は、予定された討論会の類は欠席し続ける一方、SNS等の広告には1億回再生などの雰囲気で、徹底してイメージ中心の短期の選挙戦を主導して、勝ち切った。

私は、昨年7月に、「日本政治はいよいよ本格的な流動化の時代に入ったか」という題名の記事を『アゴラ』に書いた。多数派を獲れる政党が生まれないまま、複数の連立のパターンが摸索される流動性の高い状況について書いたものだった。

https://agora-web.jp/archives/250707173010.html 

疑問形の題名にしたとはいえ、当時の私の現状認識は、間違いであったことになった。自民党の徹底したイメージ戦略選挙が、状況を覆した。

もっとも流動化を作り出している状況の分析そのものは、私の分析と、自民党の広報担当(あるいは自民党が雇った広告代理店)のそれとは、同じだったようだ。自民党の課題は、高齢者層に支持者が偏ってしまったことなので、現役層への切込みが必要だったことだ。また、自民党の最大の強みは冷戦期から日米同盟体制を運営してきた政権党であったことなので、石破政権時代のように、そのイメージが弱まると不利になるので、立て直しが必要だった。

55年体制が崩れた冷戦終焉後の全般的な流動性の高い状況の中で、自民党が安定した支持基盤を確保したのは、二人の首相、つまり小泉純一郎氏と安倍晋三氏の下においてであったが、二つの要素が共通していた。一つは、徹底して親米路線をとって特にアメリカの大統領との個人的な親密さをアピールしつつ、日米同盟さえあれば日本の安全保障は安心していい、というイメージを作り出すことであった。第二は、経済低迷に苦しむ現役層に対して、経済政策の「改革」を断行する姿勢をアピールし、それによって経済状況が改善されるようなイメージを作り出すことだった。

今回の高市首相も、小泉氏や安倍氏を凌駕する徹底度で、親米路線を強調し、経済政策「改革」のイメージを振りまいた。冷戦終焉後の時代の二度の「例外的」な自民党長期政権のパターンを踏襲する王道路線をとり、功を奏したことになる。

ただ、上記の二つのアピールを実質的内容を伴った形で行うのは、過去2度の「例外的」な時代と比しても、非常に厳しくなっている。

アメリカとの関係について考えてみよう。小泉内閣の時代は、アメリカの「一極支配」が懸念されるほどの圧倒的な国力を、アメリカが持っていた。ブッシュ政権との蜜月関係は、アフガニスタンやイラクをめぐる失敗に付き合わされる苦渋を日本外交にももたらしたが、当時のアメリカの圧倒的な国力を考えると、合理性の度合いは高い、つまり、いずれにせよ消去法では選択せざるを得ない政策姿勢であり、小泉首相の外交姿勢で日本が多大な不利益を受けた、とまでは言えないものであった。

安倍首相が第二次政権を組閣したのは、オバマ大統領の時代で、平和安全法制を通じた日米同盟強化の努力を、穏健に評価してくれる人物であった。平和安全法制そのものは、非合理的な性格が残っていた日米同盟の運営体制を、制度的に整理するもので、当初は反対運動も根強かったとはいえ、内容的には納得感を国民に感じさせることができるものだった。なんといっても、超大国として台頭しつつあった中国に対する抑止体制の整備について、日米間で見解の相違がなかったことが大きい。トランプ大統領が登場した後は、安倍首相は、もっぱら平和安全法制の成果を強調することによって、日米関係の安定を図った。

現在のトランプ第二期政権の性質や、日本を取り巻く国際環境は、過去に2回の「例外的」時代とは、異なっている。トランプ大統領は、同盟国の防衛費の5倍増を要求する態度を強調している。その背景には、累積した巨額のアメリカの財政赤字と貿易赤字の事情がある。防衛費の大幅増加の内実を、アメリカの兵器産業が潤うものにしなければ、トランプ大統領を満足させることができない。この状況は、過去2回の「例外的」時期と比して、非常に厳しい。しかも中国の経済力・軍事力の規模が圧倒的に大きくなっている。西太平洋地域におけるアメリカの軍事的・経済的優位は、中国に深刻に脅かされている。もはや日米同盟さえあれば、日本の安全保障は安心だ、と言える状況ではない。アメリカは、不足分は日本の防衛努力の強化によって補うべきだ、という態度を明確に打ち出しているが、やはり巨額の財政赤字を抱える日本が、そのような防衛負担に耐えられるのかは、未知数だ。中国との関係改善が難しいという問題の負担も、日本の外交政策には重すぎる。

高市首相は、こうした困難な事情を全て捨象し、自分はトランプ大統領と親密で、日米同盟さえあれば中国との関係が悪化しても大丈夫だ、という「世界の真ん中で咲き誇る日本外交」イメージ戦略で、選挙を乗り切ってしまった。ある意味で狡猾だった。だが、内実の乏しいイメージ選挙を行ってしまうことの責任の重さを感じ取るタイプの人物であったら、耐えられなかっただろう。

経済政策については、さらに評判が悪いことは、ここで指摘するまでもない。「行き過ぎた緊縮志向からの脱却」路線は、経済学者にほとんど意味不明の扱いを受けている。そもそも高市首相に経済政策と呼べるものがあるのか、疑問だ。これは郵政改革のような政府機構の改革を通じた新自由主義的政策を推進しようとした小泉氏や、アベノミクスのスローガンで知られる実際に存在していたデフレからの脱却を目指す一連の経済政策をとった安倍氏の場合と比しても、高市首相の経済政策の空虚感は、印象深い。過去2度の「例外的」首相の時代には、賛否両論があったが、確かに経済政策の考えがあった。今、高市首相の「責任ある積極財政」が何なのかを、体系的に説明できる者は、ほとんどいないのではないか。これもやりたり、あれもやりたい、これはダメ、あれはやめておこう・・・、というものはあったとしても、体系的な経済政策の考えがあるようには見えない。

そもそも日本の経済情勢・財政事情は、年々深刻度を増しているのであり、過去2度の「例外的」時期と比しても、厳しい政策を目指さなければならない必要性は増しているはずだ。それがバラ色の未来だけを語るイメージ戦略の選挙で乗り切ってしまったのだから、大変なことである。これもやはり、高市首相が、内実の乏しいイメージ選挙を行ってしまうことの責任の重さを感じ取るタイプの人物であったら、耐えられなかっただろう。

こうした事情を鑑みて、高市政権は、仮に選挙で大勝しても、現実の厳しさに直面して、短命で終わるのではないか、といった予測をする方もいらっしゃるようだ。これは仮に選挙で自民党が大勝しても、やはり政局そのものは流動的なままだろう、という予測だとも言える。

しかし選挙で大勝した後、政権を放り出すことなど、自民党の政治家たちが許すはずがない。万が一の場合に、自民党の中で総裁/首相をたらい回すような事態になるとしても、本当の意味での政権交代は、約4年間行われないはずだ。

政策的には流動しても、政局は流動しない。それは良いことなのか、悪いことなのか。

実は、あまり良いことではない可能性がある。仮に政策の破綻が明らかになっても、政権交代の選択肢がないとしたら、むしろ最悪だ。

果たして、イメージ先行で選挙に大勝したが、現実には政策的な内実を持たない政権が、4年間にわたる長期の国政運営を委ねられると、いったいどうなるのか。

日本は、新たな危険な実験の時代に突入したのだと言える。

 


 

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高市自民党の支持率が高いという報道が続いている。内閣支持率が高いのは、そもそもそれが解散の理由のようなもので、折り込み済であった。自民党の政党支持率は、内閣支持率ほどは高くないのだが、それでも自民党大勝の予測が出ているのは、他党が伸び悩んでいるからだと言える。もっとも、自民党の都合で任意の時期に総裁選挙を行って、支持率が高いのを見て争点も明らかにせず解散総選挙に臨んでいるわけなので、野党側の準備が追い付いていないのも、やはり当然かもしれない。

そんな中、年代別の政党支持率のデータが、SNSで注目されているのを見た。確かに興味深い点がいくつかある。https://x.com/nhk_election/status/2018269350738919528

以下の3点に集約されるわけではないだろうが、高市自民党を支えているのはどのような層なのか、という観点から、私が目に付いた事柄を3つ、列挙しておきたい。

第一に、石破政権時代に大きな課題となっていた現役層への浸透を狙って高市首相を擁立した自民党の狙いは、当たっているという点だ。政策的な争点が目立たない反面、初の女性首相であり、派手目のパフォーマンスを好む高市首相のイメージ戦略は、奏功しているようだ。

高齢者層の支持に依存していた一年前の石破政権時代の年代別の政党支持率と比較してみると、現役層への自民党の浸透が顕著であることが、一目瞭然である。https://x.com/nhk_election/status/1888895797372289187?utm_source=chatgpt.com

第二に、他方において、自民党の最大の支持者層が若者層に移行したとまでは言えず、依然として高齢者層の支持が厚いことを指摘しておかなければならない。
 第三に、現役層に限ると、50歳代での支持が多いことが目に付く。

SNSでは、自民党の支持が現役層に浸透したのを見て、若者層が高市首相のイメージ戦略に乗せられている、というコメントがなされているのを、数多く見る。しかし(18歳以上)20歳代の自民党支持率は、依然として全世代で最低である。自民党への支持が一番高いのは、80歳代の高齢者層だ。その次は、50歳代である。自民党の支持率だけを取り出してみると、次のようになる。なお真ん中の行が最新の自民との支持率で、一番下の行は、一年前の支持率である。

1829

30歳代

40歳代

50歳代

60歳代

70歳代

80歳代

31.8

32.5

33.8

39.3

33.6

36.5

43.7

16.2

24.0

23.5

35.9

35.3

48.5

一年前の数字と比較してみて、60歳代と80歳代以上では、自民党の支持率は減っている。高市首相のパフォーマンスが逆効果になっているのだ。しかし現役層では増加している。中でも増加率が高いのは、18歳~30歳代と、50歳代だ。ただし、18歳~30歳代は、他の世代を圧倒するほど自民党支持者が多いわけではない。依然として、若年層では、全世代で一番自民党の支持率が低い。自民党が支持率を減らしてもなおまだ高い80歳代に次いで、自民党の支持率が高い世代は、むしろ現役層の高齢層である50歳代である。

20歳代の右傾化が語られることが多いのは、全世代平均の3.5%の支持率を大きく上回る8.2%が、参政党を支持しているためだろう。だがそれを考慮しても、最も右寄りの層が20歳代だとまでは言えない。

高市自民党と参政党の支持率を足した数字を、世代別に見てみると、次のようになる。

1829

30歳代

40歳代

50歳代

60歳代

70歳代

80歳代

40.1

38.1

39.4

43.5

37.7

37.9

44.8

やはり80歳代に次いで高いのは、50歳代だ。20歳代は、参政党の支持者を足しても、まだ50歳代ほどではない。

さらに自民党と連立を組む維新と、保守党の支持率を足していき、さらに広い右派ブロックのようなものを見てみようとすると、以下のようになる。

1829

30歳代

40歳代

50歳代

60歳代

70歳代

80歳代

42.0

50.6

45.3

47.1

42.5

43.3

48.8

30歳代では維新の支持率が6.9%と、他の世代に比して際立って高くなっているため、ここでは一番高くなる世代となる。一年前は、国民民主党の支持者が一番多かった世代だ。それに次いで多いのは、やはり80歳代と50歳代である。

このようにして見てみると、一年前の石破政権時代と比して、高市自民党の支持層が、確かに高齢者層から、現役層に比重を移したことがわかる。

他方、ただ若ければ若いほど高市自民党を支持しているというわけではなく、実は50歳代の支持が堅固であることなども見えてくる。

なぜ50歳代なのか。もちろんそれは、より詳細なデータを集めてから検討してみないと、わからない。

漠然とした想像だけを働かせてみると、次のようになる。50歳代の中核を占めてきているのは、上半分がいわゆる「バブル」世代で、下半分が「氷河期」の「団塊ジュニア」の世代だ。特に下半分の世代に、一般に経済学者などに評判の悪い「行き過ぎた緊縮志向から脱する」高市首相のスローガンが受け入れられている可能性がある。また中国とロシアに対峙する二正面作戦を辞さず、その補填としてアメリカとの同盟関係を強調する「世界の真ん中で咲き誇る日本外交」にも、この世代が好感を抱いているようであことも、留意したい点だ。国際政治学者らが強調する「リベラル国際秩序」が、冷戦終焉とともに世界標準であるとみなされるようになり、日本もその中核を占める重要国だ、という認識が広まった時代に成人してキャリアを形成してきた世代である。

自民党の支持者層の比率よりも、参政党の支持者層の比率が、相対的に高い20歳代は、移民問題などにより厳しい考えをもっている反面、「世界の真ん中で咲き誇る日本外交」などには、相対的には関心を強くは持っていない可能性がある。

こうした世代別の動向が、非常に短い選挙戦期間とはいえ、投票日までに動くのか、実際の投票行動に反映されるのかは、もちろんまたあらためて検証したいテーマではある。

 


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127日、衆議院選挙が公示となり、28日の投票日に向けた選挙戦が開始された。ただ、争点が見えない。

解散を決断した高市首相は、自らに対する信任の選挙だ、と訴えている。実際のところ、争点が見えないだけに、首相に対する好き嫌いが、投票行動に影響を与える大きな要素にはなるのだろう。

争点が見えないのは、日本に深刻な問題が少ないからではない。むしろ一朝一夕には解決できない構造的な問題にあえいでいるのが日本の実情だ。閉塞感が強いだけに、政治家たちももはや地に足を付けた堅実な政策を訴えていくような姿勢を放棄しているように見える。

各党は選挙公約を公表している。しかし単に争点が見えないだけではなく、抽象度が高く、現実との接点が見えない。

自民党の公約で、私の専門に近い外交・安全保障分野に関するものを見てみよう。「我が国を守る責任。国際秩序を担う外交。」という標題の横で、高市首相がトランプ大統領と握手をしながら、にっこりとカメラ目線を見せている写真が掲載されている。https://www.jimin.jp/election/sen_shu51/political_promise/manifesto/03/

こちらを向いて笑顔を見せながら、トランプ大統領と握手をしている様子のイメージが、「我が国を守る責任。国際秩序を担う外交。」ということになっているらしい。「我が国を守る責任」や「国際秩序を担う外交」のイメージが、高市首相とアメリカの大統領の二人によって表現されるのは、確かに昨年来の高市政権のイメージそのままではある。

ただイメージだけでは、政策を文章で表現することは難しい。「国力の根幹である経済力と防衛力を高めることで外交力を強化し、『世界の中心に立つ日本外交』を取り戻します。同盟国・同志国との連携を強めつつ、わが国の防衛力を強化し、災害・テロ・サイバー攻撃など複合的な危機にも対応できる安全保障体制を実現します。」というのは、決意表明としては当然の事柄ばかりだが、実際の政策でどう表現されていくのかは、必ずしも判然としない。

「外交」分野については、次のように記載されている。

――――――――――――――――――――――――――

・日米同盟を基軸に、「自由で開かれたインド太平洋(FOIP)」を力強く推進し、ODAOSAを戦略的に活用しながら、基本的価値を共有する同志国・地域やグローバルサウス諸国等との連携強化に取り組みます。

・自由、民主主義、法の支配といった価値やルールに基づく国際秩序を堅持し、国際社会の平和と安定に積極的に貢献します。力による一方的な現状変更の試みや経済的威圧への対応を抜本強化します。

・中国とは開かれた対話を通じ、建設的かつ安定的な関係構築を目指します。挑発的な行為には冷静かつ毅然と対応します。台湾海峡の平和と安定は重要です。

・すべての拉致被害者の即時一括帰国実現に向け、あらゆる手段を尽くします。

―――――――――――――

これらの諸点は、やはり決意表明としては当然の事柄ばかりだ。だがやはり、具体的な外交政策にどう反映されていくのかは、よくわからない。

中国への言及が典型例だ。10月下旬以降の約3カ月の間の高市政権は、中国との間で「開かれた対話を通じ」た「建設的かつ安定的な関係構築を目指し」ているものには見えなかった。

高市首相が、「挑発的な行為に冷静かつ毅然と対応」や、「台湾海峡の平和と安定は重要」という認識も持っていることは、わかる。ただ、それらがどのような外交政策に反映されて、「開かれた対話を通じ」た「建設的かつ安定的な関係」へと発展していく可能性があるのかは、わからない。

「『自由で開かれたインド太平洋(FOIP)』を力強く推進」するという決意も、過去3カ月の間では、具体的な外交姿勢で表現されたとは言えない。「基本的価値を共有する同志国・地域やグローバルサウス諸国等との連携強化」も、過去3カ月間に何か具体的な取り組みがあったような印象が乏しい。

突っ込みを入れると、そもそも「基本的価値を共有する同志国・地域やグローバルサウス諸国等」のどちらにも含まれない国はあるのか?という疑念がありうる。「全ての諸国と仲良くやる」ということを言っているのだろうか。そうであれば、それはそれとして、もちろん悪いことは何もなく、結構な話ではある。ただ、具体的な外交政策として何が生まれてくるのかは、わからなくなる。

また、さらに突っ込みを入れると、なぜ「基本的価値を共有する同志国・地域」と「グローバルサウス諸国等」だけは、きっちりと区分けをしなければならないのだろうか。「グローバルサウス諸国」とは、「基本的価値観を共有」していない諸国のこと、という定義なのだろうか。果たして、そんな決めつけで、本当に仲良くなれるのだろうか。

日本にしてみても、「自由、民主主義、法の支配といった価値やルールに基づく国際秩序を堅持」するとして、それは「日米同盟の堅持」と抵触しない限りである。そのことは、アメリカのベネズエラ対応の後の日本政府の様子を例にとるまでもなく、その他のあらゆる案件における日本政府の態度から、明らかだ。そうなると、「同志国」と共有する「基本的価値観」とは、米国との同盟関係を最重要視する、という価値観のことなのだろうか。

「国際社会の平和と安定に積極的に貢献します。力による一方的な現状変更の試みや経済的威圧への対応を抜本強化します。」も、具体策は判然としない。

首相の信任投票として選挙が行われるのが実情だ。高市首相は、いわば決意表明だけをして、選挙に臨んでいる状態だ。結果のみならず、具体的な政策実行そのものが、選挙後に明らかになる話になっている。

誇張表現が常態のトランプ大統領が大統領選挙で初勝利を収めた2016年頃から、「ポスト・トゥルース(脱真実)」といった概念が、最近の政治文化の傾向の描写のために用いられるようになった。「ポスト・トゥルース」とは、客観的な事実よりも個人の感情や信念が世論形成に強い影響力を持つ状況を指す概念だ。

政治の世界で、特に一般大衆の投票行動を誘導しなければならない選挙の機会などにおいて、イメージ先行の世論操作が多々行われることは、民主主義国家の必然的な運命なのかもしれない。

ただ、冷戦終焉後の時代の民主主義国家において、イデオロギー的な体系すらない宣伝戦として選挙が行われるようになったのは、一つの大きな特徴的な出来事だ。

深刻な構造的な問題を抱える日本であるからこそ、閉塞感の中で、「ポスト・トゥルース」の状況が広がりやすい傾向は生まれるのかもしれない。

 


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