石川健次・東京大学法学部教授は、10カ月前、次のように予言していた。
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「安倍政権の支持率が下降すると、必ず絶妙のタイミングで、北朝鮮からミサイルが寸止めの形で発射されてきます。敵対関係というよりはむしろ、お互いがお互いを必要とする、隠れた相互依存関係の存在すら感じられます。」(「石川健治東京大教授に聞く―自衛隊に対する憲法上のコントロールをゼロにする提案だ」『朝日新聞Webronza』2017年7月21日)http://agora-web.jp/archives/2027793.html
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最近、安倍政権の内閣支持率が顕著に下がっている。とすれば、石川教授によれば、北朝鮮はミサイルを発射するはずだ。しかし、どういうわけか、今その兆候はない。
安倍政権の内閣支持率との「相互依存関係」で、北朝鮮の動きを分析するという「憲法学者=知的指導者」の理論は、今、どうなっているのか?
多くの国民に届くように、きちんと説明していただかないと、「憲法学者=知的指導者」の方々は、アベ首相を憎むあまり、その場限りの発言を繰り返しているのではないか?という疑念が深まる。早く説明されたほうがいい。
3月27日南北会談のシーンを見て、日本「蚊帳の外」論が華やかになってきているという。しかし「蚊帳の外」論は、日本の立場と国力を買いかぶりすぎている発想だ。外交政策の論理の部分で諸国と協調関係が保たれているのに、金正恩氏と会った、会わない、で「蚊帳の外」云々をするのは、ナンセンスである。どうやら「蚊帳の外」論も、安倍内閣を批判するために、あえて安倍首相を世界の中心においてみたうえで、それを否定的に取り扱ってみたりするもののようだ。
石川教授は、改憲を通じて自衛隊の合憲性を明記してしまうと、自衛隊をコントロールすることができなくなる、と主張している。
憲法に規定がないことを利用して政府機関を制限すべきだ、憲法の規定を通じて制限すべきではない、と憲法学者が主張するというのは、かなり特異な情景だ、と私は思う。もっとも憲法学者が「知的指導者」だという「良識」を信じて国政を運営する方針のことを、憲法典を超越する立憲主義の原理と呼ぶのであれば、もちろん石川教授は正しい。
もしそうなら、内閣法制局長官を一橋大学卒の国際法に精通した者にすると、一斉に憲法学者の方々が「立憲主義違反だ」「クーデターだ」とヒステリックに叫び出すのも当然だということになるのだろう。
前回のブログを書いた後、親切な方々に、元最高裁判事の藤田宙靖教授(行政法)氏と長谷部恭男・元東京大学法学部教授との間の「論争」や、井上達夫教授(法哲学)による石川健次教授への批判https://www.youtube.com/watch?v=gdIjbJcg_TU がありますよ、とコメント欄で言われた。もちろんこれらは私も知っている。
藤田教授の二度にわたる長谷部教授を中心とする憲法学者批判は、『集団的自衛権の思想史』や『ほんとうの憲法』でも参照している。私の感想を言えば、率直に言って、藤田教授の言っていることが徹頭徹尾妥当だ。長谷部教授は全く反論ができていない。「有権解釈」云々といったことを長々と述べても、なぜ1972年~2014年内閣法制局見解は絶対的なもので、2014年以降の内閣法制局見解は違憲で無効なのか、長谷部教授は全く説明しない。http://www.hatorishoten-articles.com/hasebeyasuo/7 そもそも長谷部教授は、アイス20個食べると体に悪い、といった無関係な比喩をこえて、集団的自衛権の違憲性について語ってきていない。http://agora-web.jp/archives/2032313.html http://agora-web.jp/archives/2029141.html
「隊長」長谷部教授や石川教授は、日本の憲法学会の権威的存在で、どちらにしても憲法学会の内部からは異論が出ないのだろう。金正恩氏のミサイル発射についても憲法学会からは異論が出ないだろう。しかし非法律分野のみならず、多分野の法律家からは、異論や疑念がすでに出されている。
長谷部教授や石川教授は、憲法学界を代表している。それはわかった。しかし本当に日本の「法律家共同体」を代表しているのだろうか。