「平和構築」を専門にする国際関係学者

篠田英朗(東京外国語大学教授)のブログです。篠田が自分自身で著作・論文に関する情報や、時々の意見・解説を書いています。過去のブログ記事は、転載してくださっている『アゴラ』さんが、一覧をまとめてくださっています。http://agora-web.jp/archives/author/hideakishinoda 

2024年09月

 石破茂・新自民党総裁の組閣に向けた閣僚・党三役の人選が済んできたようである。大きな特徴の一つが、防衛大臣経験者の多さだ。総理になる石破氏をはじめとして、5人の防衛大臣経験者が、要職に就く。外務大臣に岩屋毅氏に加え、防衛大臣に再任の中谷元氏が内定したという。対外的な顔となる外務大臣と防衛大臣に二人の防衛大臣経験者をあてた。さらに自民党内きっての防衛通で知られる小野寺五典氏が政務調整会長に内定した。防衛関係の案件を党側で推進してもらう意気込みだろう。さらに官房長官留任の林芳正氏も防衛大臣経験者である。官邸(総理―官房長官)、外務省、防衛省、自民党の要職に、防衛大臣経験者をあてた形だ。これで防衛関係の案件の推進に関心がなかったら、不思議だろう。

 石破氏は、憲法92項削除論者として知られる。自衛隊の実態が軍隊であるのに「戦力不保持」を定めている憲法の条項があるのはおかしい、という主張である。この点に関しては、私自身には、一連の著作がある。憲法起草者であるGHQを含めて連合国が使用していた「戦力(war potential)」概念は、違法行為である「戦争(war)」の潜在力という意味で用いられていたものなので、「軍隊」一般を指していない、ということを、私は数冊の著作で主張している。自民党の憲法改正推進本部などに招いていただいて講演したことも、複数回ある。石破氏は、必ず最初に手を挙げて、長い質問をしてくださった方である。

正直、石破氏の世界観は、憲法学通説の教科書によって強固に形作られている、という印象が強い。憲法改正論者の中にも、世界観そのものは憲法学通説によって確立されており、ただ結論として「だから改正したい」という主張だけをする方は、日本に多数存在する。これらの方々に、国際法に依拠した国際社会で理解される概念構成や用語の説明をしても、全く受け付けてくれない。私は学者なので、憲法起草者が、国連憲章、不戦条約、そして合衆国憲法を下敷きにして日本国憲法を起草した事実に着目して憲法解釈をする、という学説的立場にこだわりがあるのだが、石破氏は、その点は受け入れない。日本の大多数の憲法改正論者も、憲法解釈では憲法学通説を丸のみしたうえで、「だから改正したい」という結論を強調する。その点では、石破氏は決して例外的な存在ではない。

より論争的なのは、「アジア版NATO」として語られている安全保障政策の構想だろう。これは石破氏が憲法解釈の観点からのみこの構想を語っているため、国際法との整合性が不明瞭である。正直、これは私が以前から抱いている石破氏の印象に完全に合致する状況だ。懸念すべき点だと思う。国内だけで終わる憲法改正論議と違って、安全保障政策、特に同盟関係に関する政策は、他国との間で、利益の一致はもちろん、まずは理解の一致が必要だ。それなのに日本国憲法の観点でしか、「アジア版NATO」を語れず、国際法上の位置づけは曖昧模糊としている、ということになったら、これは一大事である。

率直に言って、「アジア版NATO」は実現可能性が乏しい。日本だけで実現することができない案件であるにもかかわらず、同調してくれそうな国が全く思いつかない。

防衛大臣経験者が立ち並ぶのが石破内閣とすると、あるいは防衛省界隈で石破内閣の支持者が多いのではないか、という誤解をする一般の方もいらっしゃるかもしれない。しかし実情は真逆である。石破氏が防衛大臣だったときの実績から、防衛省・自衛隊関係者の間で著しく評判が悪いのが、石破氏である。

「アジア版NATO」は、実現可能性が乏しいうえに、国際法上の位置づけも曖昧だ。となれば、本気で支持して協力してくれる安全保障の研究者も数少ないと思われる。

つまり防衛関係を専門にする政府内官僚・自衛隊関係者のみならず、研究者層も、石破内閣の構想を強く支持するとは予測できない。これは2015年平和安全法制成立の際に、安倍内閣が、野党の強い反対に遭遇しながら、安全保障を専門とする実務家・研究者の強力な支持を得ていたのとは、全く異なる様相だろう。

石破「防衛大臣経験者」内閣は、おそらく、このような事態を想定したものだ、と言うことができる。防衛・安全保障政策を専門とする実務家・研究者の懸念を、「防衛大臣経験者」陣でスクラムを組んで押し切って、乗り切っていこうとしているように見える。

大変な意気込みだ。

私個人は、外交政策全般までが、憲法論を意識したうえでの同盟関係の整理を中心とした防衛問題に特化されてしまい、視野の狭いものになっていかないかも、非常に心配している。

 

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 2023107日のハマスのテロ攻撃から、間もなく一年がたとうとしている。ガザにおけるイスラエルの軍事侵攻は終わりが見えない。それどころかイスラエルとレバノンのヒズボラとの間の戦闘までが拡大し、大規模被害をもたらす爆撃を双方が繰り返している。紅海をめぐっては相変わらずイエメンのフーシー派の船舶攻撃が続いている。戦果が絶えなかったような中東だが、その中東の歴史でも未曽有の危機が進行中だと言える。

 過去一年のうちに、ガザに対する日本の人々の関心は高まった。しかしまだまだ信頼できる良質な情報は限られている。この機会に、落ち着いて問題を理解するためのきっかけとしていただくために、昨年10月以降に執筆されて今年になってから公刊された私が良質だと考える日本語の文献について紹介してみたい。

 何と言っても、圧巻なのは、ガザで生きる人々の生と死が耕作する生活を克明に伝えるアーティフ・アブー・サイフ『ガザ日記 ジェノサイドの記録』(中野真紀子訳・地平社)だ。202310月当時、ガザにいた著者のサイフ氏は、奇跡的に12月末にガザから脱したのだが、そこまでのガザでの3カ月の様子を、詳細に、かつ叙述的に、本書に記した。「ありとあらゆる大惨事に必要なセットが、すべてある」ガザを、内部から克明に記したのが、貴重な記録だ。どのような政治的眼差しでガザ危機を見ようとも、ガザで生きる人々が、現代世界において、あるいは世界史において、極めて特異な環境の中で、苦闘を続けている事実を否定することはできない。本書は、あまりに重たい。だがガザに生きる人々が現実に存在しているという事実が、どうしても気になる人にとっては、必読の書だ。https://www.amazon.co.jp/%E3%82%AC%E3%82%B6%E6%97%A5%E8%A8%98-%E3%82%B8%E3%82%A7%E3%83%8E%E3%82%B5%E3%82%A4%E3%83%89%E3%81%AE%E8%A8%98%E9%8C%B2-%E3%82%A2%E3%83%BC%E3%83%86%E3%82%A3%E3%83%95%E3%83%BB%E3%82%A2%E3%83%96%E3%83%BC%E3%83%BB%E3%82%B5%E3%82%A4%E3%83%95/dp/4911256060

 107日のテロ事件をどう考えるかに関わらず、現在のガザ危機の渦中に「ハマス」という組織の存在がある。川上泰徳『ハマスの実像』 (集英社新書) は、昨年10月以降の動きをふまえつつ、ハマスの成立や発展の経緯を丁寧も説明している良書だ。パレスチナ問題に初めてふれる人にとっても、それなりに詳しい人にとっても、有益な仕上がりとなっている。現地調査を重視するジャーナリストが提供する情報は、非常に貴重だ。https://www.amazon.co.jp/%E3%83%8F%E3%83%9E%E3%82%B9%E3%81%AE%E5%AE%9F%E5%83%8F-%E9%9B%86%E8%8B%B1%E7%A4%BE%E6%96%B0%E6%9B%B8-%E5%B7%9D%E4%B8%8A-%E6%B3%B0%E5%BE%B3/dp/4087213269/ref=sr_1_1?__mk_ja_JP=%E3%82%AB%E3%82%BF%E3%82%AB%E3%83%8A&crid=24140FM8OQYNS&dib=eyJ2IjoiMSJ9.x5Dj3maYqCvZeGxquUxqLOrj5xSD4NB8ED96_WDQrOI.nYxonuuu3rNc1oDOZeXhl7-ihindHvb5Q_SeeVZEQ6k&dib_tag=se&keywords=%E5%B7%9D%E4%B8%8A%E3%83%8F%E3%83%9E%E3%82%B9&qid=1727553228&s=books&sprefix=%E5%B7%9D%E4%B8%8A+%E3%83%8F%E3%83%9E%E3%82%B9%2Cstripbooks%2C388&sr=1-1

 ハマスについては、土井俊邦『ガザからの報告:現地で何が起きているのか』(岩波ブックレット)が、ガザで生活するパレスチナ人ジャーナリストのハマスに批判的な声を紹介している。複雑な情勢の中で生きるガザの人々のハマスに対する意見や感情は、単純に一枚岩であるわけではない。https://www.amazon.co.jp/%E3%82%AC%E3%82%B6%E3%81%8B%E3%82%89%E3%81%AE%E5%A0%B1%E5%91%8A%E2%94%80%E2%94%80%E7%8F%BE%E5%9C%B0%E3%81%A7%E4%BD%95%E3%81%8C%E8%B5%B7%E3%81%8D%E3%81%A6%E3%81%84%E3%82%8B%E3%81%AE%E3%81%8B-%E5%B2%A9%E6%B3%A2%E3%83%96%E3%83%83%E3%82%AF%E3%83%AC%E3%83%83%E3%83%88-1096-%E5%9C%9F%E4%BA%95-%E6%95%8F%E9%82%A6/dp/4002710963/ref=sr_1_1?__mk_ja_JP=%E3%82%AB%E3%82%BF%E3%82%AB%E3%83%8A&crid=3VG1PZES4O531&dib=eyJ2IjoiMSJ9.TZryfiUaW9BiAvseZLL_QlpBrpgDQTBZaclEYE4Pey8._WffRWd8PXrfyhGNNMOw9CBhUlvC3abG3qcRE42_9rE&dib_tag=se&keywords=%E3%82%AC%E3%82%B6%E3%81%8B%E3%82%89%E3%81%AE%E5%A0%B1%E5%91%8A&qid=1727553847&s=books&sprefix=%E3%82%AC%E3%82%B6%E3%81%8B%E3%82%89%E3%81%AE%E5%A0%B1%E5%91%8A%2Cstripbooks%2C409&sr=1-1 

パレスチナ問題を研究する学者の共著作集では、鈴木啓之(編)『ガザ紛争』(東京大学出版会)が充実している。パレスチナ問題を見守ってきた中東研究者が、多角的にガザ危機の性格を捉えていく。編者によれば、現在進行形で変化する危機を扱うことに躊躇した一方、怪しい内容の言説が広がり続けていることに危惧をして、公刊を決断したという。https://www.amazon.co.jp/%E3%82%AC%E3%82%B6%E7%B4%9B%E4%BA%89-U-P-plus-%E9%88%B4%E6%9C%A8-%E5%95%93%E4%B9%8B/dp/4130333089

現下のガザ危機は、パレスチナをめぐる現代的な「植民地主義」の問題に、あらためて注目を引き寄せた。ガザを研究し続けてきたサラ・ロイ氏の著作の翻訳書だという意味では昨年10月以降に執筆された著作ではないが、サラ・ロイ氏自身の序文と、翻訳者である三名のパレスチナ研究者の解説文が、昨年10月以降に執筆されて収録されているサラ・ロイ(岡真理・小田切拓・早尾貴紀訳)『なぜガザなのか: パレスチナの分断、孤立化、反開発』(青土社)は、「反開発」の視点から、現在のガザ危機を大きな視座で捉える重厚な書だ。緊急復刊されたサラ・ロイ(岡真理・小田切拓・早尾貴紀訳)『ホロコーストからガザへ: パレスチナの政治経済学』(青土社)とあわせて読みたい。

https://www.amazon.co.jp/s?k=%E3%82%B5%E3%83%A9%E3%83%BB%E3%83%AD%E3%82%A4&i=stripbooks&__mk_ja_JP=%E3%82%AB%E3%82%BF%E3%82%AB%E3%83%8A&crid=FDNAOEJL0D4D&sprefix=%E3%82%B5%E3%83%A9+%E3%83%AD%E3%82%A4%2Cstripbooks%2C425&ref=nb_sb_noss_1 

 なお現在進行形のガザ危機を扱っているわけではないが、現代的な問題意識をもって、最近になって公刊されたパレスチナ問題の歴史的検証の労作に、阿部俊哉『パレスチナ和平交渉の歴史:二国家解決と紛争の30年』(みすず書房)、

https://www.amazon.co.jp/%E3%83%91%E3%83%AC%E3%82%B9%E3%83%81%E3%83%8A%E5%92%8C%E5%B9%B3%E4%BA%A4%E6%B8%89%E3%81%AE%E6%AD%B4%E5%8F%B2%E2%80%95%E2%80%95%E4%BA%8C%E5%9B%BD%E5%AE%B6%E8%A7%A3%E6%B1%BA%E3%81%A8%E7%B4%9B%E4%BA%89%E3%81%AE30%E5%B9%B4-%E9%98%BF%E9%83%A8%E4%BF%8A%E5%93%89/dp/4622097060/ref=sr_1_68?__mk_ja_JP=%E3%82%AB%E3%82%BF%E3%82%AB%E3%83%8A&crid=3UTF618AWHN0H&dib=eyJ2IjoiMSJ9.nUEaw-TWp3YyXb2AZfzsGK4EGGnou9r4PXJ06i1Wyef1OILD1elBxCHkBenF6h8dnJoG1uAUD8IQi29qUGpxoeGotMTnFM7uSlxv_sivAJlXUsxg14USCDkqViRAyYXg9aF5xC7htXiSgjHJ2GSlJCBaywlEsedO6v0zwcLf0Rk.dZh6lzw1RMDShWpPgc3yeJnPMmidJk_LxikC0KjZjxQ&dib_tag=se&keywords=%E3%82%A4%E3%82%B9%E3%83%A9%E3%82%A8%E3%83%AB&qid=1727563267&s=books&sprefix=%E3%82%A4%E3%82%B9%E3%83%A9%E3%82%A8%E3%83%AB%2Cstripbooks%2C324&sr=1-68

中川浩一『ガザ 日本人外交官が見たイスラエルとパレスチナ』(幻冬舎新書)、

https://www.amazon.co.jp/%E3%82%AC%E3%82%B6-%E6%97%A5%E6%9C%AC%E4%BA%BA%E5%A4%96%E4%BA%A4%E5%AE%98%E3%81%8C%E8%A6%8B%E3%81%9F%E3%82%A4%E3%82%B9%E3%83%A9%E3%82%A8%E3%83%AB%E3%81%A8%E3%83%91%E3%83%AC%E3%82%B9%E3%83%81%E3%83%8A-%E5%B9%BB%E5%86%AC%E8%88%8E%E6%96%B0%E6%9B%B8-714-%E4%B8%AD%E5%B7%9D/dp/4344987160/ref=sr_1_84?__mk_ja_JP=%E3%82%AB%E3%82%BF%E3%82%AB%E3%83%8A&crid=3UTF618AWHN0H&dib=eyJ2IjoiMSJ9.FxfJX4ZCpOuDnJZFtDJpIIasPCp1FBoHDRD6sQMkT44lGQNCsVotzY9ikZieDBJ6T5zA26Io155XY2fSsqDwlfahgehTy0kVZIWAlfCdDqpL24EtIkcDcunfnWRvq_NTz9lsTPUNGv3A2Ex9jQvS5loSSCrtO7dDUK3ayGnc1H0.cvVZwe7-3Ey6NEHDwWUAUD6S6By5GjjOf8kaq-yR_MY&dib_tag=se&keywords=%E3%82%A4%E3%82%B9%E3%83%A9%E3%82%A8%E3%83%AB&qid=1727563339&s=books&sprefix=%E3%82%A4%E3%82%B9%E3%83%A9%E3%82%A8%E3%83%AB%2Cstripbooks%2C324&sr=1-84 

がある。

イスラエルについては、宮田律『ガザ紛争の正体: 暴走するイスラエル極右思想と修正シオニズム』(平凡社新書)に加えて、

https://www.amazon.co.jp/%E3%82%AC%E3%82%B6%E7%B4%9B%E4%BA%89%E3%81%AE%E6%AD%A3%E4%BD%93-%E6%9A%B4%E8%B5%B0%E3%81%99%E3%82%8B%E3%82%A4%E3%82%B9%E3%83%A9%E3%82%A8%E3%83%AB%E6%A5%B5%E5%8F%B3%E6%80%9D%E6%83%B3%E3%81%A8%E4%BF%AE%E6%AD%A3%E3%82%B7%E3%82%AA%E3%83%8B%E3%82%BA%E3%83%A0-1055-%E5%B9%B3%E5%87%A1%E7%A4%BE%E6%96%B0%E6%9B%B8/dp/4582860559/ref=sr_1_88?__mk_ja_JP=%E3%82%AB%E3%82%BF%E3%82%AB%E3%83%8A&crid=3UTF618AWHN0H&dib=eyJ2IjoiMSJ9.FxfJX4ZCpOuDnJZFtDJpIIasPCp1FBoHDRD6sQMkT44lGQNCsVotzY9ikZieDBJ6T5zA26Io155XY2fSsqDwlfahgehTy0kVZIWAlfCdDqpL24EtIkcDcunfnWRvq_NTz9lsTPUNGv3A2Ex9jQvS5loSSCrtO7dDUK3ayGnc1H0.cvVZwe7-3Ey6NEHDwWUAUD6S6By5GjjOf8kaq-yR_MY&dib_tag=se&keywords=%E3%82%A4%E3%82%B9%E3%83%A9%E3%82%A8%E3%83%AB&qid=1727563339&s=books&sprefix=%E3%82%A4%E3%82%B9%E3%83%A9%E3%82%A8%E3%83%AB%2Cstripbooks%2C324&sr=1-88

2020年公刊の書ではあるが、あらためてロネン・バーグマン(山田美明・長尾莉紗・飯塚久道訳、小谷賢監修)『イスラエル諜報機関 暗殺作戦全史:血塗られた諜報三機関』(上)(下)を読み直すのも、極めて示唆深いと思われる。

https://www.amazon.co.jp/%E3%82%A4%E3%82%B9%E3%83%A9%E3%82%A8%E3%83%AB%E8%AB%9C%E5%A0%B1%E6%A9%9F%E9%96%A2-%E6%9A%97%E6%AE%BA%E4%BD%9C%E6%88%A6%E5%85%A8%E5%8F%B2-%E8%A1%80%E5%A1%97%E3%82%89%E3%82%8C%E3%81%9F%E8%AB%9C%E5%A0%B1%E4%B8%89%E6%A9%9F%E9%96%A2-Ronen-Bergman/dp/4152099437/ref=sr_1_1?__mk_ja_JP=%E3%82%AB%E3%82%BF%E3%82%AB%E3%83%8A&crid=1DXT2TAX3T7D6&dib=eyJ2IjoiMSJ9.3fkrM_mKyUHM_Y5sbXeYc7HgeO0cI0nyUrO9rT79LrY1yVzveN3EZJgHYqpDm7MWewIUPWRdjCYMcixY9k_oJuVJs3vmqd1bsF197EFP3b8WLnre0SIWvVBZNbyW5-l7twuhgIDYIgls30kqyXEX4YF2S57nT0nTh9MRhvVC6eg_CQLkhEjBYymb63bRmzc2.pkLI7raII1O5R8QiTQZW3msLN_BbpWXildObbq2dZ90&dib_tag=se&keywords=%E3%82%A4%E3%82%B9%E3%83%A9%E3%82%A8%E3%83%AB+%E6%9A%97%E6%AE%BA&qid=1727563583&s=books&sprefix=%E3%82%A4%E3%82%B9%E3%83%A9%E3%82%A8%E3%83%AB+%E6%9A%97%E6%AE%BA%2Cstripbooks%2C307&sr=1-1 

 

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 自民党の新総裁に石破茂氏が選ばれた。長く自民党の有力な総裁候補として知られ、政策には誰よりも精通しているだろう。ただ、良く知られている防衛問題への強い関心や憲法改正への熱意のわりには、その他の領域を含めた外交政策の姿勢は、未知数の部分がある。日米同盟のあり方には強いこだわりが見られるが、その他の国々との関係となると、あまり発言の記録もないように思われる。外務大臣が決まると、あらためて石破内閣の外交政策の色も見えてくるだろう。
 いずれにせよ石破氏と取り巻く国際環境は、非常に厳しい。北東アジアの安全保障環境については、日本の防衛政策への強い関心があり、非常に詳しいのではないか、と思う。しかしそれも、「アジア版NATO」など、実現可能性はもちろん、具体的な内容の骨格も不明瞭な制度論に関する発案ばかりが目立っている。どのような外交姿勢をとっていくのかに関しては、意外にもあまり語られていない。
 日米同盟のパートナーであるアメリカは、事実上の3正面作戦を強いられている状態にある。バイデン政権は、中国に対する政策の整備を外交政策の中心に置くことを画策していた。対テロ戦争の終了を演出するはずだった犠牲を伴ったアフガニスタンからの撤退は、中国シフトを作るための布石であった。
 しかし現状では、4年前のバイデン政権の狙いは、大枠で、破綻している。中国との対立関係は緩和されていない。しかし、イスラエルの泥沼の中東の対テロ戦争に深く関わらされ、その国際的な威信を凋落させている。ロシア・ウクライナ戦争は、古い冷戦の構図にしたがったロシアとの敵対関係の復活であり、これについてもアメリカはウクライナの屋台骨としてほとんど事実上の当事国と化している。
 石破氏の欧州情勢観や中東情勢観は、あまり明らかにはなっていないように思われる。欧州と中東から切り離して、北東アジアだけを見ながら、日米同盟のあり方に改変をもたらそうとする試みは、極めて危ういものにならざるをえないだろう。
 私は、キャッシュ・ディスペンサーと揶揄されていた1990年代の日本外交に立ち戻るかのような財政支援オンリーに見える岸田政権のウクライナとガザへの対応には、批判的な眼差しを向けている。しかし岸田政権は、日米同盟堅固の観点から、アメリカの意向にそったキャッシュ・ディスペンサーの役に徹するという覚悟の点で、一貫性はあったとは言えるだろう。
 石破氏も、大枠では岸田政権の路線を踏襲する、というのが、基本的な理解にはなるのかもしれない。しかしロシア・ウクライナ戦争も、中東の危機も、深刻度が累積的に高まり、出口が見えない閉塞感の圧迫が、米国そのものと行動を共にしている米国の同盟諸国に及んでいる。岸田政権時代よりも、さらに情勢は厳しくなる。
 折しも中東では、イスラエルのレバノン攻撃が激しくなっている。ヒズボラが拠点を持つ南部のみならず、首都ベイルートにも激しい爆撃を行った。ほぼ完全にレイムダック化しているバイデン政権末期の間に、思いつく標的を全て爆破してしまおうというイスラエルの過激な行動が過熱している。 https://agora-web.jp/archives/240812012607.html
 バイデン大統領の中東政策は全く機能しておらず、ハリス氏にはまだ中東政策など存在していないような状態だ。ロシア・ウクライナ戦争については、停戦に向けて大きく動こうとしているアメリカの共和党大統領候補のトランプ氏も、イランとの対立構図にそっている限り、選挙中はもちろん、その後もイスラエルの行動に口は出せないだろう。中東の行きつくところが見えない泥沼の混迷は深まる一方で、石破政権も、危機の波及度を軽視すると、痛い目にあう可能性がある。
 欧州のロシア・ウクライナ戦争は、アメリカの大統領がハリス氏になるのか、トランプ氏になるのかで、大きく情勢が変わる。そのことは、日米同盟堅持の観点から、ウクライナへの政策を決めてきた日本にとっては、特に大きな意味がある。
 ただ、それだけでなく、現実の戦争の様相が、厳しい。トランプ氏の当選も恐れているためか、ウクライナ政府の政策が、非常に近視眼的なものになってきている印象がある。いわゆる「勝利計画」も、今年末までに、つまりバイデン氏が大統領でいる間に、支援国にさらなる支援を求める、という内容で染まっている。トランプ氏が大統領になる可能性を見越して、年内に最大限の軍事的成果を出したい、という感情的な思いは、わかる。だが結果として、クルスク侵攻作戦のような合理性の欠けた行動に、貴重な人命とその他の資源を浪費するようなことが続けば、来年を待たず、危機が増幅する恐れがある。現実に、「成熟」が成立する機運があったロシア・ウクライナ戦争の戦況は、クルスク侵攻作戦以降、ウクライナ不利の流れで、流動化し始めている。
https://www.fsight.jp/articles/-/50837
 さらには自衛隊が持つ唯一の海外基地であるジブチが存在する東アフリカで、ソマリアを巻き込んだエチオピアとエジプトの対立が過熱気味になっていることなど、アメリカも関与せざるを得ない国際紛争が山積している。
 こうした国際紛争群を見て、特に3正面作戦の現実において、アメリカは、そして欧州のアメリカの同盟諸国は、北東アジアに注意と資源を傾注できるような状態にはない。その現実をふまえて、石破内閣は、どのように日本の国益を増進させながら、国際社会の安定に貢献していくか。

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https://x.com/ShinodaHideaki/status/1830508418148553115 

 訪米中のゼレンスキー大統領は、いよいよ9月26日にバイデン大統領と会談を持ち、「勝利計画」を説明して、支援を求める。数週間前から「平和の公式」を実現させる具体案としてウクライナ政府は「勝利計画」を喧伝してきた。しかしその内容の公式発表を控えているのは、最初にバイデン大統領に説明をして支援を求める、という形を作りたかったからだ。

 しかし、すでに複数の報道機関が「勝利計画」の内容を伝えている。いずれも同一内容になっているため、基本線は判明していると言ってよいだろう。

NATOEU加入に向けたさらなる支援国の関与、復興支援に向けた民生支援の約束、といった内容は、いずれもウクライナにとって意味あるものだが、目新しい内容ではない。どのように「勝利」につながるのかも、判然としない。

ウクライナ政府がこだわる「勝利」に、より直接的に結びついているのは、武器支援だろう。報道では、かなり具体的な支援要請対象の兵器のリストが出てきているという。ただ、それだけを見るならば、今まで行ってきた支援と、違いがわからない。何が今あらためてウクライナを「勝利」に導くのかは、判然としない。

前回の記事で書いたように、ウクライナ「勝利計画」の要点は、新しい兵器のリストではない。兵器の新しい使い方である。

ゼレンスキー大統領は、ロシア領土を攻撃したい。ロシア領の奥深くに攻撃するための長距離兵器の使用許可を、アメリカから取り付けたい。加えて、ロシア領を攻撃するための長距離兵器を自国で開発生産したい。そのための協力を支援国から取り付けたい。これが「勝利計画」の要点のようだ。

https://agora-web.jp/archives/240924071516.html

なぜロシア領への攻撃が、「勝利計画」の根幹をなしているのか。ゼレンスキー大統領が「心理戦」による形成挽回を目論んでいるからだ。
 すでにゼレンスキー大統領は、クルスク侵攻作戦が「勝利計画」の一部である、という見解を披露している。なぜかと言えば、クルスク侵攻作戦を通じて、プーチン大統領が自国民を守らない人物であることが明らかになったからだという。ロシアの安全を守っているというプーチン大統領の神話は、ウクライナの攻撃によって傷つけられる。特にロシアの一般市民に被害が及ぶ攻撃によって、プーチン大統領への信頼感は消滅する。ロシア国内に政権批判の声が高まると、厭戦気運も高まる。焦ったプーチン大統領は、ウクライナから撤退せざるをえなくなるだろう。

ゼレンスキー大統領は、このような楽観的な仮説にもとづいた「心理戦」の計算に基づいて、ロシア領の攻撃こそが、ウクライナが求める「公正な平和」を実現したうえでの終戦への道である、と信じているようである。

ゼレンスキー大統領をはじめとするウクライナの人々は、2年半にわたり、あるいはそれ以前から、力の限りを尽くして、ロシアは悪魔だ、という思想を普及させることに多大な努力を払ってきた。中でもプーチン大統領は、悪魔の中の悪魔だ。ロシア国民が、戦争命令にも付き従っているのは、悪魔の中の悪魔に騙されているからだろう。しかし悪魔もまたウクライナ軍に攻撃されるしかない弱い存在であることがわかれば、魔法が解かれるように、ロシア国民は覚醒し、遂に悪魔が悪魔であることに気づくだろう。

ゼレンスキー大統領の一連の発言には、このような世界観が、色濃くにじみ出ている。

私自身は、このゼレンスキー大統領の見解に、批判的である。「心理戦」の見立ては、ロシアの歴史を見ても、論理的な推論をしても、根拠がない。控えめに言って、このような根拠薄弱な「心理戦」への期待に基づいて、数万人の兵士を動かし、ロシアの辺境の片田舎の町をロシア軍から守るために犠牲になって倒れることを強いるのは、全く合理性のない行為だ、と考えている。そのことについては、様々な媒体で、何度も書いてきた。

しかしゼレンスキー大統領の確信は、容易には変わらないだろう。そもそも「ウクライナは勝たなければならない」の呪縛でがんじがらめになっている状態では、たとえ合理性がない無謀な作戦であってても、「勝利」の夢を見ることができる作戦であるならば、試してみるしかない。ゼレンスキー大統領の悲壮感あふれる発言からは、そのような破綻した決意すら読み取れる。

ここで奇妙なのは、日本の軍事専門家である。これまで数多くの軍事評論家の方々が、「ウクライナは勝たなければならない」キャンペーンに参加して、日本の世論を誘導することにも、大きな役割を果たしてきた。

ところが今回のゼレンスキー大統領の「勝利計画」を取り上げて、「交渉に本気になってきた」などと、ゼレンスキー大統領が全く言っていない内容を、解説し始めている。https://www.yomiuri.co.jp/world/20240924-OYT1T50150/ 

ゼレンスキー大統領は、「勝利計画にロシアとの協議は含まれない」と明言しているのに、日本の軍事評論家が、ゼレンスキー大統領の発言を真っ向から否定して、ゼレンスキー大統領の「勝利計画」は、ウクライナが「交渉に本気になってきた」ことを示している、などと解説しているのである。

https://www.ukrinform.jp/rubric-polytics/3909143-zerenshiki-yu-da-tong-lingsheng-li-ji-huaniroshiatono-xie-yiha-hanmarenaito-zhi-zhai.html

ゼレンスキー大統領は、「勝利計画」の必須の一部に、ウクライナ憲法も規定しているNATO加盟への前進を、含みこませている。ところが日本の軍事評論家が、ゼレンスキー大統領の発言を真っ向から否定して、ゼレンスキー大統領の「勝利計画」は、ウクライナが「主権を守り切る」ことなので、その代わりに「NATO加盟は諦める」ことを解説していたりする。

どういうことなのか。

日本の軍事評論家は、「親露派」情報にふれているような輩は、「老害」だ、として、嘲笑してきた。https://www.youtube.com/shorts/-Hs7gXGKO5g 

ロシア寄りの情報にもふれたうえで、ウクライナ政府の見解も受け入れ、そして総合的な分析をする努力をへて、肯定的であったり批判的であったりするコメントをする者たちを、「老害」と嘲笑し、軍事評論家たちは、「ウクライナは勝たなければならない」のキャンペーンを展開してきた。

ところがウクライナ政府が「勝利計画」を出している今、どういうわけか、ウクライナ政府の言っている内容を無視する。そして説明されていない「交渉」や「NATO断念」が、ウクライナ政府の意向である、といった解説を行う。

どういうことなのか。

これは、あまりにも錯綜した態度ではないだろうか。

このようなややこしい態度をとるのであれば、最初からロシア寄りの情報にもふれ、ウクライナ政府の言っていることも尊重して受け止めたうえで、自分自身の意見として、ウクライナを肯定したり批判したりする方が、まだましではないだろうか。

軍事評論家の方々には、実際に「老害」学者など決して足許にも及ばない圧倒的な世論と政策への影響力がある。そうであるがゆえに、推し量れない熟慮や配慮といったものがあるのかもしれない。だがそうだとしても、可能な限り、明晰な態度をとっていただきたいものである。

 

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ウクライナのゼレンスキー大統領が訪米中だ。兵器工場を視察したり、国連総会で演説したりしているが、大きな山場は26日に予定されているバイデン大統領との会談のようだ。ここでゼレンスキー大統領は、「勝利計画(victory plan)」と呼んでいる考えを披露することになっている。ゼレンスキー大統領は、さらにハリス副大統領とトランプ前大統領という二人の大統領候補とも会って、この「勝利計画」を説明する予定だと報道されている。

この「勝利計画」の内容について、ウクライナ政府はまだ公には説明をしていない。だがすでに各種の報道で、明らかになってきていることがある。

まず、大きな枠組みとして、これはウクライナ政府が従来から推進してきた「平和の公式(peace formula)」を実現するための「計画」として位置付けられている。「平和の公式」は、2022年秋からウクライナ政府が掲げている10項目で、ロシア軍の撤退や領土の回復などが掲げられている。「公正な平和(just peace)」とウクライナが呼ぶものだ。ウクライナにとっての「公正な平和」は、現在の戦場の現実を反映した「停戦合意」のようなものではない。

訪米前に行なったインタビューで、ゼレンスキー大統領は、バンス共和党上院議員・副大統領候補を、領土の回復を確証しない停戦を語っているという理由で、「急進的」と呼んだ。そのうえで「第二次世界大戦の歴史を勉強せよ」といった言葉で、苛立ちを表現した。ウクライナ政府が、依然として「公正な平和」の実現にこだわり、それに反する停戦合意などを拒絶する姿勢を続けていることの証左だ。https://www.newyorker.com/news/the-new-yorker-interview/volodymyr-zelensky-has-a-plan-for-ukraines-victory 

ではその「平和の公式」を実現するために、「勝利計画」は、何を目指すのか。NATOEUの早期加盟を促す内容や、復興支援の呼びかけが含まれているようだ。だがそれらは従来から明らかになっていることであり、しかもどちらかというと戦後にとるべき政策に関わる事項だ。

ゼレンスキー大統領が、「勝利」のための「計画」の柱として認識しているようであるのが、ロシア領土への攻撃である。そのために「勝利計画」は、長距離兵器を含む支援国提供兵器の無制限の使用の許可を要請しているらしい。ゼレンスキー大統領が、繰り返し強く要請し続けていながら、まだ実現していない事項だ。

さらにゼレンスキー大統領は、クルスク侵攻作戦は、「勝利計画」の一部だ、という認識も披露してきている。また、自国の兵器生産能力を高めてウクライナ製の長距離兵器を開発・生産していきたい意向も示している。

これらをまとめると、ゼレンスキー大統領にとって、「勝利計画」とは、ロシア領土の攻撃、ということになる。ウクライナがロシア領を深く攻撃する能力を高めれば高めるほど、ウクライナの勝利の見込みも高くなる、という考え方が、すでにゼレンスキー大統領の一連の発言から、顕著になっている。

なぜロシア領を攻撃すると、ウクライナは勝利するのか。ウクライナにとっての勝利とは、「平和の公式」を構成するロシア軍の撤退や占領されている領土の回復ではなかったのか。

確かに、ロシア領内のロシア軍の武器供給ラインへの攻撃などは、ウクライナ占領地におけるロシア軍の動きを鈍化させる効果を持つだろう。実際に、ウクライナ軍は、ロシア領内の兵器貯蔵庫などへの攻撃をこれまでも繰り返し行ってきている。また、主にドローンを使用しているとされる攻撃能力を高めている様子も見られる。

だがゼレンスキー大統領がロシア領への攻撃にこだわるのは、武器供給ラインへの攻撃だけが理由ではないようだ。むしろゼレンスキー大統領は、「心理戦」への関心を、繰り返し表明してきている。

上述のインタビューにおいても、クルスク侵攻作戦によって、プーチン大統領が自国民を守らない人物であることがロシア国民の眼前に明らかになった、ということを力説している。そしてこのままウクライナによるロシア領への攻撃あるいは軍事作戦が続けば、ロシア国民のプーチン大統領への不信感は高まり続けていく、といった見込みを語っている。

どうやらゼレンスキー大統領は、ウクライナがロシア領を攻撃すると、ロシア国民はショックを受け、プーチン大統領を信用しなくなり、厭戦気分に苛まれるようになって、やがてウクライナからのロシア軍の撤退を求めるようになる、と計算しているようである。

どうやらこのゼレンスキー大統領の「心理戦」への期待が、ウクライナの「勝利計画」の根幹をなしているようである。

果たしてこの「心理戦」への期待は、妥当か。ウクライナがロシア国民に被害をもたらす攻撃を仕掛けると、プーチン大統領に愛想を尽かせてプーチン大統領も無視できないほどの強さでロシア軍のウクライナからの撤退を求めるようになる、といった事態は、本当に起こるのだろうか。

果たして、ゼレンスキー大統領の「心理戦」への期待は、ロシアの歴史をふまえた史実の裏付けや、現実の条件をふまえた論理的な計算に依拠した推論だろうか。

ウクライナ及び世界中のウクライナ支持者は、過去二年半にわたり、プーチン大統領とロシア人の悪魔化の描写を熱心に行ってきた。少しでもプーチン大統領に近づいたり、ロシア寄りの情報にふれたりしているだけの者に対しても、まとめて十把一絡げで親露派と呼んで糾弾する運動を繰り広げてきた。
 その結果、悪魔を征伐したい、という願望を、合理的な政策遂行の判断に優先させてしまう傾向を持ち始めていたりしないだろうか。

悪魔は、実は何の思想も持っていないこと、力にものを言わせて侵略をしているだけで脅かせばすぐに引っ込むひ弱な存在でしかないことなどを、ウクライナの手によって白日の下に晒したい、という願望にかられて、軍事作戦の方向性まで決め始めているような事態が起こっていないだろうか。

一つ明らかなのは、「勝利計画」は、さらなる戦争の継続を意味する、ということだ。それによってウクライナが何を得られるのかは、残念ながら、明らかではない。

 

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