「平和構築」を専門にする国際関係学者

篠田英朗(東京外国語大学教授)のブログです。篠田が自分自身で著作・論文に関する情報や、時々の意見・解説を書いています。過去のブログ記事は、転載してくださっている『アゴラ』さんが、一覧をまとめてくださっています。http://agora-web.jp/archives/author/hideakishinoda 

2025年02月

 ヘグセス米国防長官が、ウクライナのNATO加盟を支持しない等と発言したことが、話題のようだ。だがヘグセス長官の発言内容は、トランプ大統領が大統領選挙戦中から一貫して説明してきた停戦斡旋の方針の内容にそったものだ。
 欧米の主要メディアが、「トランプ政権成立の暁には、マイケル・ポンペオ氏などが重用され、ポンペオ氏がトランプ大統領を無視して今まで通りの政策を遂行してくれる」などといった根拠のない空想を、垂れ流していた。それを受けて、日本の「専門家」たちも、トランプ政権ではポンペオ氏が重用されてウクライナがロシアを駆逐するまで軍事支援を増強する、といった話をまことしやかに垂れ流していた。「アメリカの有名メディアがそう言っている」ということだけが根拠だった。
 「空想」には最初から根拠がなかった、ということだけを知っていれば、今さらヘグセス発言に驚くべき要素はない。
 ウクライナの軍事行動は、アメリカの支援に大きく依存しており、アメリカ抜きで戦争を継続することは著しく難しい。仮に戦争を継続したとしても、失地が広がるだけである。現時点ですでにウクライナは劣勢が続いており、ロシア軍の支配地が拡大し続けている。停戦が果たされれば、軍事的状況からは、むしろウクライナの利益に合致する。
 問題は、ゼレンスキー大統領の去就だ。ゼレンスキー大統領は、ウクライナの「勝利」に固執する余り、戒厳令を理由にして選挙の実施も延期し、戦時下の特別な大統領権限を行使し続けている。停戦となれば、選挙を実施しなければならない。再選は目指さないと発言したことがあるゼレンスキー大統領だが、出馬しない場合でも、あるいは翻意して出馬する場合でも、選挙に向けたウクライナの内政は、混乱が必至だ。
 「ウクライナは勝たなければならない」の外野の声に乗っかって、「勝利(するまで戦争を続ける)」を至上命題のようにしてきてしまった。アメリカでトランプ氏の再選可能性が高いことや、欧州諸国でウクライナに懐疑的な右派勢力が次々と選挙で勝利を収めている状況を、冷静に観察して、停戦のタイミングを見極めることを、拒絶してきた。ザルジニー総司令官を更迭し、ロシア領クルスク州に侵攻する合理性を欠いた軍事行動をとってでも、自らが主導する形での戦争継続を追求してきた。
 そのため、停戦となった後のウクライナの政治運営の見通しは、不透明だ。ある意味で、戦時中よりも複雑で困難な内政運営が要請されるだろう。
 アメリカもロシアも、ウクライナで大統領選挙が実施された場合のシナリオを計算して、停戦交渉に臨むだろう。ゼレンスキー大統領の再選の可能性は低いと見れば、実質交渉を先送りにしても、ただウクライナに選挙をさせることを目的にした停戦を仕掛けてくるだろう。
 戦争継続派と和平合意派の争いの構図が生まれてくると、ウクライナの社会的分裂は深まることになる。ウクライナの国内には、武装した勢力が大量に生まれている状態だ。分裂が、どのような政治情勢をもたらすかは、不透明である。
 冷戦終焉後の世界では、「戦争が終わると大規模な復興支援が始まる」、といった見込みを、安易に自明の前提とする風潮が広まった。しかし内政上の不安を抱えるウクライナの戦後復興支援は、戦時中とは異なった特有の困難を抱える恐れがある。

「篠田英朗 国際情勢分析チャンネル」(ニコニコチャンネルプラス)で、月二回の頻度で、国際情勢の分析を行っています。https://nicochannel.jp/shinodahideaki/

 前回の記事でも書いたが、トランプ大統領が起用したイーロン・マスク氏の政府効率化省(DOGE)が、USAID(米国際開発庁)を閉鎖に追い込んできたことが大きな話題だ。https://agora-web.jp/archives/250207064405.html

 SNSなどでは、USAIDがディープ・ステートそのもので、悪の秘密結社であったかのような話も流通している。他方、トランプ政権が、完全な作り話で虚偽の陰謀論を広めている、と一笑に付すことも、現状の正確な把握には、適切とは言えない。

石破首相がトランプ氏に褒めてもらったと大絶賛している方々に限って、トランプ政権に極めて低評価であるという奇妙な現象も目に付く。「あの頭のおかしいトランプに褒めてもらったのだから石破首相はすごい、これで日本の安全保障は安泰だ、いずれにせよトランプ政権の政策は全ておかしい」、といったねじれ現象になっている。

USAIDをめぐる問題群は、三つある。一つは、汚職の疑いだ。トランプ大統領は、石破首相との会談後の記者会見でも、USAIDの予算をめぐって汚職があったことを堂々と述べた。バイデン政権時代のUSAID長官だったサマンサ・パワー氏が、長官在任中にありえない個人資産の増加を果たした、といった話も出てきている。まだ確定的な証拠は出てきていない点には留意しなければならない。ただ年間予算は日本円換算で6兆円以上(440億ドル)で、無償の支援を行う機関だ。日本のJICAの無償支援の予算が1500億円程度であることと比較すれば、USAIDがいかに巨大な存在であったかがわかるだろう。お金の動きは、相当な精査をへないと、完全には解明されない。

第二が、トランプ政権の「常識の革命」に反したお金の使い方のキャンセルだ。気候変動や、ジェンダー関連の活動への支援に対する予算執行は、トランプ政権によって無効化される。これは、汚職とは一線を画して考えるべき問題である。アメリカの政権転換によって、USAIDの価値観が否定された。

第三が、トランプ政権の外交政策に合致しないお金の使い方の見直しだ。今後のトランプ政権の外交政策を占うために注目されるのは、この点である。USAIDは単なる人道援助のような活動だけを行っていたわけではない。「民主化支援」の名目で、世界各地のメディアや言論人・組織に、巨額の援助を行っていたことは、事実である。前回述べたように、親米派と反米派の政争が激しくなるほど、その国にUSAIDをはじめとするアメリカ系組織の「民主化支援」の資金が注ぎ込まれることは、過去数十年にわたる国際社会の常識と言ってよい現実である。

 USAIDの前長官であるサマンサ・パワー氏は、オバマ政権時代には国連大使を務めていた大物である。歴代USAID長官としては初めて、NSC(国家安全保障会議)にも出席するメンバーとなっていた。オバマ政権とバイデン政権の時代に、USAIDの予算は顕著に増加した。「民主主義vs権威主義」の世界観に基づいた「自由民主主義の勝利」の立役者となることが、USAIDにも期待されていたことは、端的な事実である。

 トランプ政権によるUSAID批判の対象には、こうしたイデオロギー的立ち位置によって全く評価が変わる「民主化支援」政策そのものもが含まれている。USAIDを閉鎖することによって、トランプ政権は、その外交政策の方向性の一端を明らかにしていると言える。たとえばトランプ政権の公約であるロシア・ウクライナ戦争の停戦に向かって、USAIDの閉鎖は、ウクライナに対する巨大な負荷になる。

 冷戦終焉後に語られた「自由民主主義の勝利」の物語に基づく歴史観は、トランプ政権によって終止符を打たれようとしている。民主主義の波はとどまることなく世界中を席捲していく、という思想は、トランプ政権では、存在しない。

 このように言うことは、トランプ政権が「反」自由主義だ、と言うことと同じではない。ただ、民主主義の輸出への関心はなくなった、ということだ。

 代わって19世紀アメリカのモンロー・ドクトリンに象徴される「強さによる平和(peace through strength)」の思想が、真剣に語られている。

 日本の石破首相は、万全の準備を施してトランプ大統領に褒めてもらい、日米同盟堅持の政策を確認した。そのとき「クアッド」や「自由で開かれたインド太平洋」のような同盟関係の確認に資する概念は強調されたが、もはや「法の支配」などの理念は語られなくなった。

 日本の知識人層は、こぞってトランプ大統領を愚弄し、批判している。他方、石破首相が、理念を脇に置いてトランプ大統領に取り入ると、絶賛する。頭が悪いが腕力の強い大国の大統領に気に入られることが、それ自体として、絶対目標となっている、という状況である。

日本的、あまりに日本的、と言えば、それまでだが、果たして日本は、この姿勢で、持続可能な外交政策を発展させていくことができるのか。私個人は、あまり楽観的な気持ちではない。

 

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 トランプ政権の肝いり政策の一つであるイーロン・マスク氏を起用した政府効率化省(DOGE)による連邦政府の「無駄な」支出の削減対象として、USAID(国際開発援助庁)全体が標的となった。すでにルビオ国務長官によって、アメリカの対外援助がイスラエル関係の支出を例外として、全世界で90日間停止となっていた。その直後、マスク氏が、USAIDの支出記録を全て公にするという措置をとった。加えて、1万人とされるUSAIDの全世界の職員が、休職対象とされた。大幅な予算削減と、人員削減が行われることは必至だろう。
 同時並行で、CIA(中央情報局)の全職員が早期退職の促進対象になったと報じられている。これらの措置は、冷戦勃発以降のアメリカの対外政策の仕組みを根本から見直す意図を持ったものだと言ってよい。
 マスク氏は、厳密には連邦政府機構の一部ではないが、連邦政府からの資金提供によって運営されているNED(全米民主主義基金)にも、改革のメスを入れることを宣言している。NEDは、レーガン政権時に、世界に(アメリカ流の)民主主義を広げるために設立された政府系の財団だ。冷戦終焉直後には、東欧革命やソ連の崩壊を促進したと信じられ、戦争を回避しながら「西側」の勝利を導いた組織として、むしろ賞賛の対象であった。
 これらの冷戦終焉直後の「自由民主主義の勝利」の立役者たちは、現在のトランプ政権では「ディープ・ステート」として、煙たがられている。支出に「無駄」があるかどうかを問う以前に、イデオロギー的な立ち位置に問題がある、とみなされているのである。そもそも支出の「無駄」についても、価値観の含まれた審査をへなければ認定できない領域は、存在する。トランプ政権は、そのような領域も「常識の革命」(トランプ氏の就任演説で用いられた概念)で、一刀両断の審査を行おうとしている。
 マスク氏のチームは、USAIDの予算が、民主党系のインフルエンサーの「懐」にも流れたのではないか、という視線を持って、「キックバック」「リベート」の要素を、暴き出そうともしているようである。これは「汚職」に該当する話であり、一つの別次元の事項として、精査されるべきであろう。
 政策的に大きな論点となるのは、「自由民主主義の勝利」=「ディープ・ステート」の思想にもとづいた行動の評価である。
 NEDは、そもそもその存在意義が、世界各国における(アメリカ流の)民主主義の普及の促進だ。USAIDも、「民主化支援」を重視している点で、他国の開発援助機関と比べても、際立った特徴を持つ。開発援助をする際に「内政干渉」の疑いを持たれることを警戒するのであれば、「民主化支援」は、重視されないだろう。「民主化支援」は、その性格上、「内政干渉」と言われても仕方がない性格を持たざるを得ないからだ。
 NEDやUSAIDは、「内政干渉」の批判に応じず、断固として「民主化支援」をするアメリカ外交の象徴とも言ってよい存在である。特に「民主主義諸国vs.権威主義諸国」の世界観を掲げ、その二項対立の世界の中で、アメリカが主導する「民主主義陣営」が勝利する、という政策目標を推進していたバイデン政権では、NEDやUSAIDは、重要な役割を担っていた。かなりわかりやすく、敵対勢力からは「ディープ・ステート」と非難される「民主化支援」の一大勢力を形成していたのである。
 バイデン政権期にUSAIDの長官を務めていたサマンサ・パワー氏は、民主党タカ派の最右翼と言って良い存在である。オバマ政権時に、やはり国際介入主義のタカ派の急先鋒であったスーザン・ライス氏を継いで国連大使を務めた際には、アメリカの国際介入タカ派の立場を象徴する人物として知られていた。
 パワー氏が長官を務めていたUSAIDが、世界に(アメリカ流の)民主主義を輸出するために奔走する組織でなくなるはずはなかった。むしろかなりあからさまに「民主化支援」重視の方向に舵が切られていた。
 アメリカ国内の「反トランプ」勢力までUSAIDが支援していたというので、トランプ政権発足直後の「粛清」対象に、USAIDが選ばれてしまった。しかしこれも「民主主義vs権威主義」の世界観の中で、「バイデン政権=民主主義、トランプ氏=権威主義」という二元論もあてはめてしまい、アメリカ合衆国の「民主化支援」をしていたということである。
 ウクライナへの多額の支援を主導していた一大勢力がUSAIDであることも事実である。その中で「民主化支援」の名目で、ウクライナのメディアや、ウクライナ擁護の論陣をはっていた欧米メディアに、多額の援助をUSAIDが提供していたことも、今や問題になっている。しかしこれも「ウクライナ支援者=民主主義、ロシア=権威主義」の二元的世界観に基づき、「民主化支援」の「開発援助」を行っていた、ということである。
 バイデン政権のときには正義であった「民主化支援」が、トランプ政権では正義ではなくなった。これが端的に言って、今起こっていることである。
 日本でも、相変わらずSNSで「陰謀論」撲滅主義者と、「ディープ・ステート」撲滅主義者が、戦っている。感情的に過熱したやり取りも見られるが、それは非生産的である。こんなときこそ、冷静に、現代の国際情勢を見る目を失わないようにしたい。

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 石破首相が、23日の国会答弁で、ガザの住民を日本で受け入れて、医療や教育分野の支援を提供する、と表明したことが、波紋を広げている。

 多くの人々が、テロリスト組織ハマスの構成員である可能性のあるガザの人々を日本に受け入れるのは危険だ、と抗議しているようだ。

もちろんガザの人々の全てがテロリストではない。一般のガザの人々の過去1年余りの間の苦境を考えると、反対意見は、偏狭な意見のようにも感じる。

ただ、ガザの政治情勢が極めて複雑で厳しいものであることは、確かだ。公明党の岡本議員の質問と、それに答える石破首相の答弁が、極めて牧歌的な雰囲気のやり取りに感じられるものであったことが、かえって人々の不安をかき立てているところはあるだろう。

ガザの人々は、1968年の第三次中東戦争以来、イスラエルの苛烈な占領政策の下で暮らしてきた。2023107日のはるか以前から、イスラエル企業に雇用されてイスラエル領に入ることを許可してもらうようなこと以外には、ガザから一歩たりとも外に出ることが許されない生活を数十年にわたって強いられてきた。ガザの人々が、外部世界に出てくるというのは、イスラエルがどのような理解でそれを許可するか、という点を含めて、極めて重大な行動であり、高度に政治的な話になる。

2310月以降の苛烈な軍事作戦を通じて、イスラエルは、ガザの住民をエジプトに押し出してしまおうとしている態度を隠すことがなかった。ガザからパレスチナ人を追い出すことに成功すれば、イスラエルのガザ完全併合の完成だ。そうなれば入植活動が進んでいたヨルダン川西岸地域のイスラエルへの併合も、視野に入ってくるだろう。
 このような動きは、明白な国際法違反である。思い付きで協力したりすべき事柄ではない。イスラエルの占領政策そのものが国際法違反であることは、国連総会決議のみならず、国際司法裁判所(ICJ)の判断などで、確認され続けている。イスラエルとアメリカを除く世界のほとんどの諸国や国際機関は、併合を受け入れない。住民を追放する「民族浄化」に該当する行為も、当然、国際法違反である。

アメリカのトランプ大統領が、エジプトとヨルダンにガザの住民を受け入れさせる、と宣言している。石破首相の国会答弁も、ガザのパレスチナ人を丸ごと移住させてしまいたいというトランプ大統領の意向を受けたものなのではないか、という憶測も流れる。

だが、強制的な住民移動は、国際法違反である。そんなことが許されるのであれば、あるいはそれが恒久的なパレスチナ問題の解決になるのであれば、過去半世紀以上にわたるガザの人々の苦境はありえなかった。周辺のアラブ諸国は、頑として、ガザの人々の移住を受け入れないだろう。アメリカは、エジプトとヨルダンに、従来から多額の援助を提供している。トランプ政権は、おそらく援助の停止のムチと、援助の増額のアメを振りかざして、エジプトとヨルダン、あるいは他のアラブ諸国に圧力をかけていくだろう。しかし200万人のガザの人々を恒久的に受け入れる負担は、トランプ政権期のアメリカからの援助の増額くらいで、解消されるようなものではない。そもそもパレスチナ人を犠牲にして、イスラエルの占領・併合政策に協力した、ということになれば、アラブ諸国の現在の政権が持ちこたえられるのかわからない強烈な政治的突き上げが起こる。仮に援助の増減が大きな問題になるとしても、自分の政権の維持を犠牲にしてまで、イスラエルとアメリカのために、ガザからの強制住民移住に協力したい、などと考える周辺諸国は、皆無だ。

ガザにおける医療援助や教育機会提供のニーズは、大きな問題である。ただ本来は、ガザの人々が公平に享受する機会を得られる環境の促進を図るべきである。もし日本に連れてくるのであれば、なぜ日本に連れてくるのか、に関する理由付けが必要だ。

ガザの苦境に目をつぶり、ただ「日本人は善人です、善行をします」とトランプ大統領にアピールしたい、と願うことが、全世界で等しく好意的に解釈されるかどうかは、わからない。

イスラエルの常軌を逸した破壊行動を非難せず黙認しておいて、ガザの住民の移住を促進したいと表明することは、極めて高度に政治的な問題になる。単なる「楽しい日本」の「善人」の慈善活動の範囲で収まる問題ではない。

石破首相は、シリア難民受け入れの前例を踏襲したい、と意味不明な答弁も行った。しかしシリア難民受け入れは、戦禍を逃れてトルコやレバノンに到達していた人々が対象であった。難民キャンプから日本に来たのである。住民の強制移動が大きな政治問題になっている現在のガザとは、政治的事情が、全く違う。

そもそもシリア難民受け入れの際も、当時の安倍首相がG7会合等で、日本の難民受け入れ不足を他国に指摘されたところから始まった話だった。難民認定の特例を作ることを嫌う国内の勢力との折り合いをつけるため、国際公約としたシリア難民の受け入れを、「奨学金付き留学ビザの発給」という裏技で、乗り切った特異な事例だ。

確かにシリアのアサド政権が倒れた今、反アサド派であった「シリア難民=奨学金付き学生ビザの支給対象者」たちが、現在ダマスカスで権力を握る人々に通じる系統の人々であることが、意味を持ち始めている。だがこれはかなり偶発的な作用によるものである。そもそも現在に至っても、日本の政治的利益に合致する結果をもたらすのかどうかも、定かではない。

ガザの人々の受け入れにあたって、シリア難民の事例を繰り返す、という決意表明をするのは、的外れである。ガザの事情とシリアの事情が、全く異なるからだ。もし、「いや、的外れではない、政治的狙いがある」と言うのなら、それは、いずこかの国の体制転覆を視野に入れて政変後の人脈づくりをする行為だ、と内外に宣言することである。パレスチナ問題の文脈でそのような政治的制限をする覚悟が、石破首相にあるのか。

私はあらゆる場面で、ガザの人々の日本への入国を禁止するべきだとは思わない。日本に留学して学んだ人々が、パレスチナの未来を担っていくとしたら、どんなに素晴らしいだろうか。それが平和的に実現したら、もちろん日本の国益にも合致する。適切な人材に対して、必要性に合致した機会を提供することができるのであれば、それは日本にとっても望ましいことだ。

だがやみくもに情勢分析や政治判断を怠ったまま、ただただトランプ大統領にお世辞を言うことだけを念頭に置きながら、ガザの人々の移住に協力する意向を示してみたところで、本当に日本の国益が増進していくかは、はなはだ疑問である。絶対にやってはいけないのは、ガザの平和な未来について共に悩むことを忌避しながら、小手先の「楽しい日本」を演出しようとしてしまうことである。

 

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