「平和構築」を専門にする国際関係学者

篠田英朗(東京外国語大学教授)のブログです。篠田が自分自身で著作・論文に関する情報や、時々の意見・解説を書いています。過去のブログ記事は、転載してくださっている『アゴラ』さんが、一覧をまとめてくださっています。http://agora-web.jp/archives/author/hideakishinoda 

2025年09月

 JICAが「ホームタウン」事業の撤回を表明した。これについて、これ以上の「ステルス移民はやめろ」という声と、「排外主義はやめろ」という声が、戦いあっている。

 JICAは「国際交流は移民ではない」と説明する。抗議者は「ステルス移民だ」と主張している。折り合いがつかない。

 私は国際協力と呼ばれる分野を専門研究でカバーするし、実務の方々との交流もかなりある。21世紀になってからの業界の動きを、日本国内で、国際的に、色々と観察し、思うところも多々ある。今回の騒動の背景には大きな社会構造と政策経緯がある。簡単には言えない。一言で言えば、国際協力の業界は岐路に立っている。「The Letter」には少し書いた。https://shinodahideaki.theletter.jp/posts/05db4e80-9aba-11f0-af87-8fd638038adb そのうちに一般向けでも書いてみたいと思うが、今日は違う話を書いておきたい。

 「ステルス」についてだ。

 自民党の総裁選をめぐり「ステマ」騒動が持ち上がった。「ステマ」は、「ステルスマーケティング」の意だ。私はあまり馴染まないがない概念だったので、興味を覚えた。これまでも「Dappi」が類似例としてあった、などと語っている方が多々いらっしゃる。

それ以外にも、偽装された世論の声を作る現象は、SNS等でよく見るものだ。「犬笛」と呼ばれている大衆扇動術も、自ら「ステマ」要員を動員しないだけで、効率的に同じ効果を狙うものだと言えるだろう。

評論家や学者が、他の学者を、「虚栄と独善」にやられて「闇落ち」した「親露派」の「老害」といった言葉で揶揄してみせたりするのも、SNS時代の言論界の「ステルス」世論工作の一つと言えるだろう。最近では、学会の書評で、「ロシアを利する可能性が内容を含んでいる」という示唆がなされた、として話題を集めたような事件も起こっている。

 参議院選の際には、ロシアの選挙妨害の指摘が話題になった。参政党の候補が「スプートニク」に取り上げられた、というところから端を発した話だった。ところが「親露派」が、子ども家庭庁を批判する者でもあったため、子ども家庭庁の批判は外国勢力の妨害だったことを示唆するポストを、三原大臣が行ったこともあった。

「親露派」認定のアカウントは、政府に批判的な投稿を繰り返している「反グローバル」派であるのが基本パターンだ。このこと自体は、世界的に起こっている思想現象のことである。そのため、アカウント凍結措置を受けたのは、「親露派」だったかもしれないが、要するに「反グローバル思想」を持って「政府批判をしていた人たち」でもあった。これは思想の問題であり、ロシア政府の選挙干渉の問題には自動的にはつながらない。

しかし「親露派」の撲滅推進運動の声を上げた政府関係者や国際政治学者・軍事評論家の方々などは、いわばロシアが「ステルス」世論工作をしている、と主張していた。
 ところが今回の自民党総裁選で、「ステルス」を取り締まっていたデジタル大臣側のほうが、「ステルス」をやっていた、という構図になり、非常にややこしいことになった。

 「ステルス」という概念は、少なくとも私は、軍事技術の進展の歴史の中で、使ってきた。軍事技術の発展により、主要な軍事大国は、レーダーで識別されないステルス軍用機を多数持っている。戦闘機を「ステルス」にするのが基本的だったが、ロシア・ウクライナ戦争では、「ステルス」無人機が実践投入されていることも確認されている。https://www.bbc.com/japanese/articles/c3e9kv72g19o

 ロシア機とされるドローンがポーランドとルーマニアの領空を侵犯したとされる。これについてロシアは否定する立場を取っており、ラブロフ外相は、国連総会演説においても、NATO構成諸国による陰謀だ、と主張した。

 フィンランド湾からバルト海に抜けるルートを飛行したロシアのMIG-31が、エストニアの領空を侵犯した、とエストニアが主張した。ロシアはやはり領空侵犯を否定している。エストニア政府が発表した飛行ルートを示した地図だけでは、領空侵犯が12分にわたって発生した、ということを読み取ることができない。この地図を紙に印刷して、エストニア代表が、国連安全保障理事会において「領空侵犯の証拠だ」と主張したため、曖昧な雰囲気がさらにいっそう広がることになった。

 ウクライナのゼレンスキー大統領は、ハンガリーのドローンがウクライナの領空を侵犯したという内容のSNSポストを発信した。これについて、ハンガリー政府は、嘘を並べて挑発するのはやめろ、証拠を出せ、と激しく反発している。ウクライナとハンガリーの間の関係の劣悪化は、すでに周知の事実となっており、泥仕合の様相だ。

 ゼレンスキー大統領は、「ジョージアは欧州ではなくなった」と解説する国連総会を行ったばかりのところだ。「親露派」に乗っ取られた、という意味だが、当然、ジョージア政府関係者からの反発を受けている。さらにゼレンスキー大統領は、「モルドバが危うい状態にあるのでウクライナが支援しているが、欧州諸国も助けるべきだ」という主張を、空席が目立った国連総会議場で行った。EUの正規メンバーは、ウクライナが決定する、と言わんばかりの態度には、今後も様々な意見が投げかけられるだろう。
 モルドバ政府は現在、選挙にロシアが干渉している、と主張している。欧州全域で、選挙のたびに、「親露派の取り締まり」「親露派の立候補禁止」「親露派の干渉による選挙結果の取り消し」措置をめぐる騒動が起こるようになった。構造的な事情として、思想的に「反グローバル」を掲げる勢力は、欧州全域で急速に勢力を広げている。もはや騒動が起こらない欧州の選挙のほうが珍しい。

 20世紀初頭には、ナチスのプロパガンダ術に代表される大衆扇動術が、歴史を動かした。これは発達したマスメディアの効果を最大限に利用するものだった。

 現代では発達したSNSを活用して、「ステルス世論工作」による大衆扇動術が、歴史を動かそうとしている。

 これらの双方ともに、人間の心理を利用した世論工作術であり、抜本的な対策は難しい。画期的な方策がある、という主張自体が、「ステルス世論工作」である恐れが強いのが普通だ。
 地道に生きていくのが、難しい時代だ。

 

 『The Letter』で定期的に国際情勢分析レポートを配信しています。https://shinodahideaki.theletter.jp/ 

「篠田英朗 国際情勢分析チャンネル」(ニコニコチャンネルプラス)で、月二回の頻度で、国際情勢の分析を行っています。https://nicochannel.jp/shinodahideaki/  

 日本の国際政治学者の方々によれば、8月の欧州首脳の訪問によって「欧州統一メッセージがトランプに突き刺さった」ということだった。

https://agora-web.jp/archives/250823140503.html

 ところがロイター報道によれば、トランプ政権は、バルト諸国に対する軍事支援を打ち切る方針を、8月下旬に欧州側に伝えていたという。https://news.liga.net/en/politics/news/reuters-pentagon-warns-european-diplomats-of-aid-cuts-to-baltic-states

 トランプ政権が行っているウクライナ向けの武器支援も、その費用は欧州諸国が負担している。つまりアメリカは、欧州人に、武器を売って儲けているだけだ。トランプ大統領は、日本の国際政治学者の解説を、全く聞いていないようだ。

9月に入ってロシアの領空侵犯が繰り返しニュースとなっている。日本においてのみならず、欧州などでも、「ウクライナ応援団」系の方々が、NATOは報復せよ!と盛り上がっている。

99日にポーランド、14日にルーマニアで、ロシアのドローンが領空侵犯したとのことだった。ただ、ロシア政府は、そのような遠方まで飛行させられないと述べ、自国のドローンであることを否定した。ロシアに好意的な立場を取る人々は、ウクライナ政府が仕組んだ偽旗作戦だったと解説している。

https://x.com/ivan_8848/status/1966516178311922173

「ウクライナ応援団」系の方々は、NATOの報復を唱えるが、東欧の小国が報復することは奨励しないのが普通のようだ。つまり、アメリカよ、ロシアを攻撃してくれ、というわけである。
 もともとドローンがどこから来たのか、どの国の政府の所有物であったのかを識別することは、極めて難しい。ポーランドに飛来したドローンは撃墜されたが、残骸があっても識別は難しい。いずれにせよ、断定するには、根拠が必要である。

しかし欧州諸国の多数がロシアだと言っている以上、多数決でロシアのドローンであることが決まっている、といった主張をする方もいる。

https://x.com/MichitoTsuruoka/status/1966852623103119375

19日にエストニア領空をロシアのMIG-3112分間侵犯したというニュースも、同じ方面の方々を盛り上げた。

https://x.com/MichitoTsuruoka/status/1969046912893387043

ただ鶴岡教授のポストの文面に関わらず、不思議なことに、実際の「Politico」誌の記事には、ロシア機がエストニアの首都タリンに向かった、という文章はない。

https://www.politico.eu/article/russian-fighter-jets-breach-estonian-airspace-near-tallinn/

(ちなみに「タリンに向かっていた」と報じたのは、ウクライナ応援団プロパガンダ系ニュースサイトのVisegrad24である。https://x.com/visegrad24/status/1969048847277076975

ポストの文章と、参照先のニュース記事の内容が合致しないことは、国際政治学者の方々のSNSでは、よく見られる現象である。

https://x.com/ShinodaHideaki/status/1955192139182436645

https://agora-web.jp/archives/250812091527.html 

もっとも指摘する側のほうが、社会的に抹殺されかねないので、簡単には指摘できない。

https://x.com/zH7OmVUx8o87634/status/1955464734238749116

19日のエストニア領空侵犯騒ぎについては、エストニア政府が発表した内容から、ロシア機はタリンに向かっていたのではなく、フィンランド湾からバルト海に向かうルートを飛行していたと見られる。https://news.err.ee/1609806951/estonia-releases-flight-path-of-russian-jets-that-violated-its-airspace 

これについてロシア政府は、国際空域だったと主張している。「領空」は、領土と領海の上空を指す。領海は、海岸から12海里=約22.2キロの距離までだ。エストニア政府発表の雑駁な地図で見ると、ロシア機の飛行ルートは、領空侵犯ではないように見える。
 ただし、実は、エストニアはこの海域に2,355といわれる数の小島を領有している。そのほとんどが極小かつ無人島だが、それぞれから個別的な領土・領海と領空の設定はなされる(ただし「岩」は除外される)。したがってエストニアの領空の設定・識別は、非常に複雑である。雑駁な地図からだけでは、わからない。

エストニア側は「12分間」領空侵犯があったと主張している。最高速度がマッハ2.83とされるMIG-31は、12分あると600キロを飛行することができる。エストニア政府発表の地図で示されているロシア機の飛行ルートとされる線では、せいぜい200キロ程度しかない。もちろん非常に低速で飛行することは、技術的には可能ではあるだろう。戦闘機ではあるが、偵察あるいは挑発が目的であったら、意図的に超低速で飛行することも、ありうるかもしれない。だが仮にそうだったとしたら、ロシア側は、非常に危険な速度で、領空侵犯をしてきたことになる。
 そもそも上述の事情で、海岸線に近い空域を飛行するのでなければ、島嶼部によって設定され直した領空を飛行して、領空侵犯だったということになるはずだ。しかしそれは海岸と平行には設定されていないので(エストニアは海岸部も相当に入り組んでいる)、12分間連続して領空侵犯できるかは、疑問だ。
 状況がつかみにくいところがある。

 私は、ロシアは領空侵犯していない、と言いたいわけではない。意図的ではなかった、と言いたいわけでもない。ただ、この種のことは、即座に素人がお茶の間で事実関係を断定することは難しい、とは考えている。学者は、どちらかというと慎重な物言いになるのが普通かとも思っている。

だが正しいことを言うことよりも、ロシア非難の内容の発言をするか、しないか、が、まずは一番重要なことだ、という風潮が、今の日本では、あまりに根深い。学者界隈でも、あらゆる機会を使ってロシアを非難する、それが一番大切なことだ、という考え方が、常識になってしまっている。

https://x.com/neconomesu/status/1958498361394495797

https://x.com/ShinodaHideaki/status/1968823638259372496

 もしこれに合致しなければ、「虚栄と独善」にやられて「闇落ち」した「親露派」の「老害」、と揶揄されたりする。

https://agora-web.jp/archives/250816085004.html

暮らしにくい時代だ。

 

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 上海協力機構(SCO)首脳会議で、中国の習近平国家主席やロシアのプーチン大統領が、インドのモディ首相らとの親密な関係をアピールしたことが、大きなニュースになった。欧州中心主義を隠そうとしてこなかった日本の国際政治学者の層などにも、「落胆」が広がったようである。

https://agora-web.jp/archives/250904232816.html

 その後、欧州指導者の発言の幾つかがニュースになった。SNSを開くと、多くの方々が、カラスEU上級代表の発言に驚き、相当に厳しい言葉で揶揄しているポストが、数多く入ってくるようなった。(もっともそれは海外の方々ばかりなので、日本ではまだカラス上級代表は欧州を代表する英雄なのかもしれないが)。 

 カラス上級代表が、「中国とロシアは、第二次世界大戦の勝者ではない」と説明している様子の動画に関するものだ。多くの方々が、「ここまで歴史に無知な者を、戦争指導の高位ポストに就けていていいのか」と論じている。

カラス上級代表は、さらに「中国人は技術に優れているが社会科学で劣っており、ロシア人は技術で劣っている社会科学でやたらと優れている」という謎の根拠不明の観察を、何やら得意げに他者を馬鹿にしている様子で、説明している動画も出回っている。なぜそんなことをカラス上級代表は言っているかというと、劣った民族同士が、しかし結束して欧州の世論にSNSを通じて悪影響を及ぼしているので、欧州が劣勢に見えてしまっている、という説明だ。

徹底した欧州中心主義、率直に言って欧州人の卓越と、ロシア人と中国人に対する侮蔑を披露しているだけの知的内容の欠けた発言である。ただ単に、嫌ロシア・嫌中国の感情を持つ人からの称賛を求める扇動術に訴えるだけの自己弁明の発言でしかない。

 カラス上級代表は「ウクライナは勝たなければならない」「ロシアは負けなければならない」「われわれはロシアの崩壊を恐れてはならない」などのレトリックを駆使することで有名な政治家だが、現状の厳しさに直面して、もはや同じ主張を繰り返すことは、やめてしまったようである。

本来であれば過去の自分の発言をふまえたうえで、現状に対応する政策を打ち出す努力をしなければならないのだが、それは絶対にしない。「たとえどんな状況になろうとも、ロシアを侮蔑し続けることだけは決してやめない」という固い覚悟があるようだ。

確かに第二次世界大戦の勝者は、ソ連であってロシアではない。1945年当時の中国の正統政府は国民党政権であって、共産党革命はその後に発生した。だが、いずれの場合も、国家の継承は行われている。いずれにせよ、何やら勝ち誇ったような態度で、そのようなことを指摘してみたところで、政治家として何か意味のある仕事をしているとは言えない。ただ「何でもいい、とにかくロシアを馬鹿にすることを言ってくれ」、という固定ファン層の期待に応えたい、それだけしか考えていないような発言である。

カラス上級代表は、自らの過去の発言を顧みることはしない。現状の欧州の劣勢を認めることすらほぼ拒絶している。欧州が劣勢に見えるのは、SNSでロシアや中国の陰謀に反応してしまうダメな欧州人がいるせいだ、という論理不明だが、日本でもお馴染みのレトリックに逃げるだけだ。

そしてほとんど「親露派の連中を欧州から排斥すれば、欧州は負けない、本来は欧州人は優れているのだから、劣ったロシア人や中国人に負けるはずなどないのだ」と言わんばかりの姿勢を見せて、それで勝ち誇ったように他者を愚弄するかのような笑いを見せることが、大きな反感を巻き起こしている。

対極的なのが、フィンランド大統領のストゥブ氏だ。すでに何度か私が指摘しているように、カラス氏の屈辱的なワシントンDC訪問以降、国際通で知られるストゥブ氏が、ウクライナ問題担当のある種のEU特使のような存在になっていることは、すでに何度か私が指摘しているとおりである。https://agora-web.jp/archives/250814072601.html

818日の欧州7指導者のホワイトハウス訪問の際にも、カラス氏は外れて、ストゥブ氏が、英・仏・独・伊の首脳とEU委員長・NATO事務総長とともに、入っていた。

そのストゥブ氏は、SCO首脳会議の様子を見て、カラス上級代表とは真逆の反応をしている。SCO首脳会議の様子は、「グローバルサウスに協力的な政策をとらなければ、われわれは敗北する」ということを示した、と述べたのだ。

https://x.com/ShinodaHideaki/status/1963095544252785113

極めて実直かつ真摯な自己反省に基づいた発言だと言えるだろう。しかしカラス氏と折り合える要素が見えない。カラス氏は、ウクライナ問題では他の欧州首脳から敬遠されているとしても、EUの外務安全保障政策担当の上級代表だ。日本の国際政治学者の方々の情熱的な絶大な支持があることはあまり大きな要素ではないとしても、完全に無視できるわけでもない。

何があっても、内容が意味不明でも、とにかくただひたすらロシアを愚弄し、中国を敵視し、インドを軽視し、そして自国内の「親露派」排斥運動に熱をあげたいだけの発言や行動は、続いていくだろう。

したがって、ストゥブ氏によれば、いずれ「われわれは敗北する」。

ここで「われわれ」とは、まずもって欧州のことだが、カラス氏と同じ行動をとっている方々が社会の中枢を牛耳っている日本も、やはり含まれてくるだろう。

 

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 西浦教授の「42万人死ぬ」「人と人の接触の8割削減が必要」で有名な数理モデルは、日本のコロナ対策を迷走させた原因である。https://www.cirje.e.u-tokyo.ac.jp/research/dp/2024/2024cj309.pdf 

 これはイギリスのインペリアル・カレッジに客員研究員として在籍中に学んできたものだという説明がなされることがよくあった。日本では「西浦教授は正しい、なぜならインペリアル・カレッジなどで学んだ数理モデルの手法を取り入れているからだ」という言説を広く見ることがあった。

残念な欧州崇拝主義であったと言える。

 私自身は、同じロンドン大学系列のLondon School of Economics and Political ScienceLSE)という大学院大学での国際関係学のPh.D.を持っている。LSEは社会科学系に特化した大学院中心の大学である。社会科学系の大学院では、私が学生だったときから最近になるまで、欧州ランキングで1位(世界2位)だった。https://www.lse.ac.uk/management/news/management-qs-2021-ranking ここ数年イギリスの大学のランクが低下気味だが、LSEは現在でも世界6位となっている。https://www.topuniversities.com/university-subject-rankings/social-sciences-management 

 同じロンドンに位置していたので、理科系大学であるが、インペリアル・カレッジの地位について、私も知識がないわけではない。オックスフォードやケンブリッジと肩を並べる優秀大学である。ただ、だからといって、そこで話し合われていることが常に正しく完璧である保証などはないことは、言うまでもない。私が、「俺はLSEPh.D.を持っている、だからいつも正しい」などと言うことができないのと、同じである。

 ところが「西浦教授はすごいんだ、反論するな」の謎の西浦教授の神格化が流通した際、日本人の間の謎の盲目的な欧州信仰が、一役買った。西浦教授自身が、自分の数理モデルは欧州で学んできたものだ(だから間違っているはずがない)という印象操作の発言をする場面も目立った。

 実はコロナ禍においては、もう一つの欧州信仰の悪弊が見られた。被害の評価においてである。「世界ではコロナで死者が激増している、世界ではロックダウンするのが当然になっている」といったときの「世界」は、ほぼ間違いなく「欧米」のことであった。

 しかし実際の欧米以外の地域も含めた「本当の世界」を見てみると、被害度は一律ではなかった。むしろ欧米に被害が集中していた。https://agora-web.jp/archives/2046302.html

https://agora-web.jp/archives/2046643.html 

 「先進国である欧米でたくさん被害が出たのだから、他の地域の事など気にする必要はない、もっと甚大な被害が出ているに決まっているからだ」という盲目的な欧米中心主義の信仰心に基づく思い込みが、多くの日本人の心の中で働いていた。ところが実際には、欧米においてこそ被害が甚大で、その他の地域では被害はそれほどでもなかったのである。

 感染者を医療機関で吸収して対応しようとしたり、ロックダウンで完全な「封じ込め」を図ろうとした欧州こそが、医療機関にクラスターを発生させたりして、医療崩壊による感染爆発を起こしていた場所であった。

 それにもかかわらず、日本では「コロナ自粛警察」の方々が、「西浦教授はすごいんだ、なぜならイギリスで数理モデルを学んだからなんだ、欧米は常に世界の基準で、欧米はいつも一番優れているからなんだ」という日本のメディア大衆の思い込みに基づいて、「早く欧米と同様の完全なロックダウンを導入せよ」と声高に叫び、政策論に混乱をもたらしていた。

 「世界で最も進んでいるのは常にいつも欧米であり、したがって欧米で一番被害が激しいなどということは起こるはずがなく、欧米を真似するのが常にいつも正しい」、という日本人の偏った欧米中心主義の世界観がもたらした現象であった。

 「ウクライナ応援団」にも、欧州人の言説を盲目的に正しいものと捉える傾向が顕著に見られる。

「ウクライナは勝たなければならない」、「ロシアは負けなければならない」、「戦争はプーチンが邪悪なので起こる」といった考え方は、全て欧米の政治家や言論人からの受け売りである。

ただ残念ながら、「コロナ自粛警察」には存在していた、インペリアル・カレッジのニール・ファーガソン教授のような「西浦モデル」に先行する数理モデルの専門家のような存在は、「ウクライナ応援団」には存在していない。

「ウクライナ応援団」の場合には、必ずしもきちんとした理論家の専門家に影響を受けたような形跡はない。頻繁に引用されるのは、せいぜいロシア政治の専門家でスタンフォード大学から駐ロシア大使に転身したマイケル・マクフォール氏くらいだろう。
 マクフォール氏は、筋金入りの嫌ロシア派で「ウクライナ応援団」のカリスマ教祖のような存在である。駐ロシア大使時代のマクフォール氏の「民主化支援」の活動で、米ロ関係は劇的に悪化した。SNSを通じた積極的な発信で反プーチンの「民主化支援」に熱を入れていたところは、今日の「ウクライナ応援団」現象を先取りしていたと言ってもよい。

だがマクフォール氏は、せいぜいロシアの「民主化」を夢見ていただけの学者あがりの大使で、地域安全保障を中心にした国際関係を論じることができるような人物ではない。

「ウクライナ応援団」に「親ロ派」の代表扱いをされて、ふれてはいけない不可触民の扱いを受けているジョン・ミアシャイマー教授などのほうが、国際政治の理論家としては、もちろん圧倒的に秀でた業績ある。

しかしそれにもかかわらず、「ロシアの崩壊を恐れてはならない」といった発言で知られるカヤ・カラスEU外務安全保障政策上級代表や、停戦協議を拒絶するようにウクライナ政府に勧めていたとされるイギリスのボリス・ジョンソン元首相らの路線が、「ウクライナ応援団」派の方々の主張の基本線を決定していたと言える。

トランプ大統領の登場でアメリカが「ウクライナ応援団」系から離脱した後は、日本と欧州が同盟を組んで、ウクライナを勝たせなければならない、といった主張も見られるほど、「欧州偏重」の傾向が強まった。

だが果たして欧州中心主義で、現代世界の荒波を乗り切っていけるのか。この問いは意識はされているようだ。

https://x.com/kakuyokusyugi/status/1962662366430281904 

SNS上で、北京の様子とホワイトハウスの様子を比較し、後者における欧州指導者を揶揄するポストを沢山見かける。

https://x.com/ShinodaHideaki/status/1963597741508235784

日本では「欧州の統一メッセージがトランプに突き刺さった」と解説されていた場面だ。

https://agora-web.jp/archives/250823140503.html 

日本の国際政治学者ら専門家による国際情勢の解説と、現実の国際政治の間に、覆い難い大きなギャップが生まれている。

しかし国際政治学者の方々は、今や道徳の説教師のようになってしまい、あとはひたすら親ロ派の炙り出しと糾弾に力を注いでいる。

https://agora-web.jp/archives/250812091527.html

この状況の中で主張されている欧州中心主義に、本当に活路があるのか。疑問を感じざるを得ない。

https://www.amazon.co.jp/%E5%9C%B0%E6%94%BF%E5%AD%A6%E7%90%86%E8%AB%96%E3%81%A7%E8%AA%AD%E3%82%80%E5%A4%9A%E6%A5%B5%E5%8C%96%E3%81%99%E3%82%8B%E4%B8%96%E7%95%8C%EF%BC%9A%E3%83%88%E3%83%A9%E3%83%B3%E3%83%97%E3%81%A8BRICS%E3%81%AE%E6%8C%91%E6%88%A6-%E7%AF%A0%E7%94%B0%E8%8B%B1%E6%9C%97/dp/4910364854

 

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