以前に「『親露派バスターズ』と化した『ウクライナ応援団』」と題した記事を書いたことがある。https://agora-web.jp/archives/250316100338.html 

 現在は、さらに「トランプ・バスターズ」というか嫌米「嫌トランプ」に、流行が移ったようだ。立派な評論家や学識者が、毎日毎日繰り返しせっせとトランプ大統領を人格的に侮蔑する言葉を語り、書き連ね続けている。

 高関税問題で経済系の問題に飛び火したが、安全保障政策系では「ウクライナ応援団」が「嫌トランプ」派となっている傾向が強いようだ。

 かつて1970年代にドル変動相場制と米中和解と二つの意味で「ニクソン・ショック」という言葉が生まれたことがある。現在は、高関税とロシア・ウクライナ戦争の調停の二つの意味で「トランプ・ショック」が生まれているようだ。

 果たして嫌トランプ主義で、日本は「トランプ・ショック」を乗り切れるのか。

 日本は2022年以降、1.8兆円以上と言われる額の支援をウクライナに投入してきた。その背景には、同盟国アメリカの要請があり、アメリカの同盟国との結束を強めることが日本の安全保障に資するという認識があったはずだ。

 「今日のウクライナは明日の東アジア」という標語のような考え方も、人口に膾炙するようになった。だが、これは一つの技巧的表現だ。ウクライナへの支援さえしていれば自動的に東アジアも平和になる、というわけではない。
 実際には、日本にとってウクライナ支援はアメリカとの同盟関係を強化する政策だ、という認識があって初めて、ウクライナと東アジアを比較する考え方をより具体的に持てていたはずだ。

 この認識レベルの考え方は、トランプ大統領就任に伴う「トランプ・ショック」によって、打ち砕かれた。そしてトランプ大統領の就任にともなうアメリカのロシア・ウクライナ戦争に対する立ち位置の変更は、日本の主流派の識者の方々に、大きなショックを与えた。

 「ウクライナは勝たなければならない」主義の識者の方々からは、アメリカを見限って欧州と同盟関係を結んで、ウクライナ支援を強化しよう、という威勢のいい掛け声も聞こえてくる。しかし巨額の財政赤字を低経済成長のまま抱え込んでいる日本に、そのような非現実的な規模のウクライナ支援を実施できるとは思えない。

 今年2月の国連総会で、ロシア侵略非難決議が、国連加盟国数の過半数を下回る93票しか集められないという事件が起こった。3年前には141カ国の賛成票があった。同日の国連安保理では、欧州諸国棄権のまま、賛成多数で、ロシア・ウクライナ戦争の早期停戦を要請する決議が採択された。今の国際社会に、ウクライナへの軍事支援が高まっていく気運はない。

 トランプ大統領の調停努力に対しても、「嫌トランプ」派の方々の非難や侮蔑の声が大きい。だが、果たして日本は、主流派「嫌トランプ」主義の識者の方々の恨み節の主張だけで、「トランプ・ショック」を乗り切れるのだろうか。

 

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