G7カナダ・カナナスキス・サミットで発出された、イラン・イスラエルをめぐる共同声明が、批判を招いている。イスラエルの自国を守る権利を肯定して、その行動を支持すると、あえて宣言してみせたからだ。
イスラエルのイランへの一方的な攻撃開始は、明白に国連憲章第2条4項の武力行使禁止原則に違反している。それにあえて支持を示した、ということは、日頃は法の支配だ人権だと「説教」がうるさいと評判のG7諸国が、「われわれは堂々と恥ずかしげもなく二重基準を掲げます」と世界に宣言したようなものなのだ。
巷では、厳密な国際法用語である「自衛権」(right of self-defense)を避けて「自国を守る権利」(right to
defend itself)としたうえで、その語句には「肯定」(affirm)という語だけをかけただけで、「支持」(support)したのは「イスラエルの安全保障」だ、といったことを意味ありげに強調する方もいらっしゃるが、意味不明である。
そのような語句のわずかなずらしで、簡単に国際法規範を守らなくてもよくなる超越的な規範を作り出すことができるということになったら、事実上、いつでも国際法を守らなくて良いことになる。破綻した議論である。
ここではG7諸国がイスラエルに振り回される歴史的背景や、米国におけるユダヤ・ロビイストの存在など、深いが周知の事実と言える事柄には、ふれない。ただ指摘してきおきたいのは、G7諸国が、あえてこのような声明を出してみせる「勘違い」の態度だ。
黙っておいてもよかったものを、あえて「われわれは二重基準の偽善者です」という宣言を世界に示した。なぜそんなことをしてしまったのかというと、それをせめてイスラエルには伝えて、イスラエルへの影響力を確保しておきたかったからだろう。ひょっとしたら中東全域への影響力を確保しておきたい、などという勘違いの願望を持っていた国もあったかどうか。
だがアメリカを除き、そのような影響力を行使できる国は、G7には一つもない、と言ってよい。アメリカは例外だが、逆にG7として行動する理由もないので、トランプ大統領は、サミット二日目の予定を切り上げてアメリカに帰国して、中東情勢対応にあたり始めた。
1975年にG7のグループが作られたとき、七カ国のGDPの総計は、世界経済において約63%を占めていた。現在は40%前後である。
購買力平価GDPでは、すでにBRICS五カ国のGDP総額は、G7七カ国のGDP総額よりも大きい。
https://www.statista.com/statistics/1412425/gdp-ppp-share-world-gdp-g7-brics/
また、20世紀末頃から、アメリカ一国のGDPが、その他の六カ国のGDPの合算額よりも大きくなり、その差は広がる一方である。
もちろんこの傾向の大きな理由の一つが、日本経済の停滞だ。とはいえ、欧州諸国の経済成長も、華やかなものではない。
日本ではG7を、いまだに「先進国」会議などといった言い方で呼ぶ悪習がメディアに残存している。しかし今年でなければ数年のうちに、中国に続いて、インドが、日本とドイツのGDPを上回り、アメリカ以外の全てのG7諸国のGDPを追い抜かすことが確実視されている。PWC等の予測によれば、2050年までに、購買力平価GDPで、インドネシア、ブラジル、メキシコが、日本よりも上位に来る。欧州諸国は、さらに多くの諸国に追い抜かされる。
恥を忍んで、G7の結束なるものを尊重して、二重基準の偽善者であることを世界に宣言することに加担するのも、全ては国益にかなうと思えばこそ、だろう。もちろんせっかくの歴史あるクラブなので、活かしきったほうがいいことは、言うまでもない。だがあらゆる犠牲を度外視してまで、G7の結束の誇示なるものに至上の価値を置く前時代的な態度は、かえって国益に反する。
国際法違反の宣言などを出してみたところで、特に誰かにありがたがられるわけではなく、得るものがない。出さない方がましなものは、出さないほうがいい。
欧州諸国に働きかけて、宣言の発出を見合わせる、といった外交努力はできなかったのか。
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