イスラエル・イラン戦争が泥沼の消耗戦の様相を呈している。航空兵力による攻撃の応酬は、本来であれば、管理しやすいところがある。しかし戦争を仕掛けた側のイスラエルが追求している目的が、達成困難なものだ。そのため終わりが見通せないまま、攻撃の応酬が続いている。
ネタニヤフ首相は、「どうやってアメリカを引きずり込むか」にとりつかれた精神状態にあるように見えるが、アメリカを引き込んだところで、それが決定的な突破口になるのかはわからない。https://shinodahideaki.theletter.jp/posts/ba30b960-4ea7-11f0-82ac-a5d695e73329?utm_medium=email&utm_source=newsletter&utm_campaign=ba30b960-4ea7-11f0-82ac-a5d695e73329
もちろんアメリカの参戦は、戦争の規模と性格を変える大きな不確定要素にはなる。だが戦争を終結に導く決定的要因になるかは、わからない。
2023年10月7日のハマスの攻撃に反応して苛烈なガザ軍事作戦を開始し、2年近くにもわたって継続している展望のないイスラエルの「泥沼」の戦争に、欧米諸国は、すでに政治的に相当に引きずり込まれてはいる。欧米諸国は、イスラエルのために、失う必要のなかった威信を失い続けている。https://gendai.media/articles/-/117602
イスラエルは、アメリカの軍事力に過剰な期待を抱いている。バンカーバスターの能力に期待し、その使用によってイランの核開発能力の完全破壊を期待している。しかしこれについてはイランもアメリカの軍事能力を知ったうえで施設開発をしていたはずなので、果たして本当に達成可能なのかは不明である。バンカーバスターを使用しても明白な成果が見られないときには、アメリカは威信の失墜のリスクがある。そして中東の米軍に対する攻撃のリスクを背負い、泥沼の戦争の直接当事者として引きずり込まれるリスクを背負う。
トランプ大統領は、戦争の泥沼に陥った「対テロ戦争」の時代の前任の大統領たちを批判して、二度にわたって大統領選挙で勝利を収めた。そして今、トランプ大統領の岩盤支持層の「MAGA(再びアメリカを偉大に)」派の人々の多くが、イランとの戦争に明確な反対を表明している。
5月13日のサウジアラビアにおける演説で、トランプ大統領は、前任の米国大統領たちを批判して、「介入主義者たちは、自分たちが理解もしていない複雑な社会に介入し、国家建設者たちは、何も作らず破壊だけをした。彼らは、他人が何をすればいいかを語ったが、自分たちですら何を言っているのか理解していなかった」、と述べて、拍手大喝采を得た。
そのトランプ大統領が、中東で最大の人口を持つイランに軍事介入するとなると、これはほとんど自己否定につながる。MAGAの否定につながる。
もっとも「新しい19世紀」の政策体系を持つトランプ大統領は、相互錯綜関係回避原則の新しいモンロー主義の性格を持っている一方で、ネイティブ・アメリカンを殲滅した時代の「明白な運命」論を信奉しているかのような傾向も持っている。宗教的な視点に立った二分法にもとづく世界観で、つまり神の恩寵にしたがって行動する自分たちと、自分たちではない神の恩寵にもとづいていない者たちを区分けにもとづいて、軍事行動を正当化する傾向だ。トランプ大統領は、イスラエルの事柄になると、途端に介入主義者になる。
もともとトランプ大統領の支持基盤は、思想政策の方向に共鳴する「MAGA」主義者と、転向してトランプ支持者になった共和党員の「ネオコン」を含む勢力によって、構成されている。民主党系の人々に立ち向かうときには、共通の敵を持つ同士として連携しうる。しかし中東における軍事行動の案件となれば、思想的な違いによる亀裂が入り、対立を見せるだろう。
トランプ大統領自身は、この状況の中で、迷いを見せて逡巡している。そしてどの時点で、どのような判断を下すかは、非常に予測しにくい状況となっている。
イスラエル・イラン戦争は、場外戦の「MAGA」対「ネオコン」の対立で、アメリカのトランプ政権を揺るがす事態の可能性も作り出している。
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