アメリカが、イランの核施設とされるフォルドゥ、ナタンズ、イスファハンへの爆撃を行った。バンカーバスターを使用したと報じられている。これに対してイランは、高濃縮ウランは事前に移送済であったと述べたうえで、アメリカの国際法違反行為を糾弾し、国連安全保障理事会などの各国際機関に訴えを行う旨を声明として発出した。
アメリカは核施設を完全に破壊したと主張しているが、実態はよくわからない。すでに昨日の記事で述べたように、イランの側は、核兵器開発はしていない、という立場なので、アメリカの爆撃後もイスラエルに対する攻撃を継続した。
トランプ大統領は演説で「イランの主要な核濃縮施設は完全に消し去った。イランはいま和平を結ばなければならない。そうしなければこの先の攻撃ははるかに大きなものに、そして容易なものになるだろう」と述べたが、もし本当に攻撃の目的がイランの核兵器開発の阻止で、その攻撃に「大成功」したのであれば、攻撃を継続する理由はなくなっているはずだ。
トランプ大統領の発言は、論理的に、矛盾していることになる。
「イランには和平か、あるいは過去8日間見てきたものを上回る悲劇が待っている。覚えておくべきだ。まだ多くの標的が残っている」と述べたトランプ大統領は、核兵器開発阻止という実態の伴わない虚偽の主張による攻撃を行ってしまった後、まだなお何らかの理由を見つけ出してイランを攻撃すると言っているわけである。実態としては、イランを威嚇して、イスラエルへの攻撃を諦めさせることが目的だ、と述べているのに等しい。
アメリカには、自国の自衛権に基づいてイランを攻撃する論理が示すことができない。イスラエルのイランへの攻撃が自衛権に基づくものであれば、集団的自衛権を根拠とすることができるが、イスラエルの攻撃そのものが国際法違反の侵略行為である。
仮に集団的自衛権が成り立つ場合でも、自衛権の行使が「必要性」と「均衡性」の原則にのっとってなされなければならないことは、個別的自衛権の場合と同じである。アメリカの民生核施設への威嚇的攻撃という行為が、自衛権を構成する「必要性」と「均衡性」の原則から逸脱していることは、明らかである。アメリカの軍事行動に、国際法上の合法性を見出すことができる余地はない。
現時点の問題は、この国際法違反の軍事行動を、アメリカは自らの意思で止めることができない状態に陥った、ということだ。イランはイスラエル攻撃を続けているが、それはイスラエルがイランを攻撃しているからである。イスラエルは、どこまでも深くアメリカを戦争に引きずり込みたいので、イランへの攻撃を止めることがない。合法性の体裁をとるための枠組みもない。アメリカの国際法違反の軍事攻撃は、自律的な論理で停止させることができる論理を見失っている。
日本の石破首相は22日、米国によるイランの核施設への攻撃を受け、首相公邸で記者団に「事態を早期に沈静化することが何よりも重要だ。同時にイランの核兵器開発は阻止されなければならない」と述べたという。あたかもイランの核兵器開発の証拠があったかのような発言だが、そのような証拠は存在していない。上述のように、トランプ大統領の発言は、国際法違反の軍事行動をしているイスラエルを守るために国際法違反の軍事行動をしていることをほぼ認めている。石破首相の発言は、現実から乖離している。
石破首相は、米軍の攻撃を支持するかどうかは「政府内できちんと議論する」として、明言を避けたという。
現状で、日本が影響力を行使できるような余地はない。それだけに今、日本政府が考えるべきは、泥沼の戦争に陥っている紛争当事者から、距離をとることだ。一回限りのことだと考えて、不要な付き合いの態度をとったら、日本もまた底なしの泥沼に陥っていきかねない。まずはそれを避けることを考えるべきだ。
国際情勢分析を『The Letter』を通じてニュースレター形式で配信しています。https://shinodahideaki.theletter.jp/ 「篠田英朗 国際情勢分析チャンネル」(ニコニコチャンネルプラス)で、月二回の頻度で、国際情勢の分析を行っています。https://nicochannel.jp/shinodahideaki/
コメント
このブログにコメントするにはログインが必要です。
さんログアウト
この記事には許可ユーザしかコメントができません。